日本の伝統 保存食を極める

第三回 干物 東京都 湯島・丸赤商店

2013/04/26

第3回:干物

季節を問わずに野菜や果物、魚介類が手に入るようになったのは、つい最近のこと。冷凍や輸送の技術が発達するまでは、その時期に手に入るものを食するしかなかった。

いつでも生鮮食料品が手に入る温暖な地域だったら旬のものだけで十分だけど、世界には気候や風土の関係で長い期間食料の確保が難しくなる土地もたくさんある。そこで発達したのが保存食。生鮮食料品を、発酵、乾燥、燻製などの技術で加工して備える。世界各国では今なお多くの保存食が工夫され、作られている。

食文化の土台を支える生活の知恵、保存食を極める旅。第三回目は、太古から食されてきた干物です。

天下のプレイボーイ、光源氏も食した日本伝統の味

獲れたての新鮮な魚介類を乾燥させ水分を減らすことで保存性を高める。「干物」という加工食品は、人類の歴史においてもっとも原初的な食文化の知恵だといえるだろう。

日本では縄文時代の貝塚に魚や貝を干していた形跡が見られ、公式記録としては今から1200~1300年前の奈良時代に記された『正倉院文書』まで遡られる。当時は、朝廷に納める税「租庸調」の一品目として干物が上がるほど重宝されていた。

ただし、干物が庶民のおかずになるのは製造技術と流通網が発達した江戸時代まで待たなければならなかった。それまでの数百年間は貴族など特権階級だけのぜいたく品で、たとえば『源氏物語』には光源氏たちが宴でつまむ酒の肴として「からもの(干物)」が登場する。塩辛い干物は、まさに酒の肴にうってつけだっただろう。

江戸時代には各藩の肝いりで献上用の名産品作りが奨励され、小田原のあじの干物、明石の干したこ、長崎のからすみなど、全国各地で現代まで引き継がれる干物関連の特産品が生まれ育った。旅行に行ったら、ぜひともその土地ならではの干物をお土産に買い求めたい。

自宅でもできるおいしい干物の作り方

干物ってどうやって作るの?

今回、伺ったのは東京の湯島で昭和21年に創業した「丸赤商店」さん。そのまま刺身で食べられるような新鮮な旬の魚を熟練の技で塩干魚に。その味は芸能関係者をはじめ全国津々浦々の食通の間でも有名だ。二代目店主の中村充さんに、自宅でもできる一夜干しの極意を伝授してもらった。

教材は、本日朝築地で仕入れてきたばかりの近海あじ。まずは、包丁で頭の方からお腹を割いて、はらわたを除去。中村さんは、あじさき包丁と呼ばれる小さな片刃の包丁を器用に使っているけれど、自宅ならばもちろん出刃包丁でいい。

開いた魚は真水にさらしながらブラシで丁寧に血合いを落とす。ここで手を抜くと生臭さが残るので要注意。

作業中に白っぽくなった魚を海水と同程度の濃さの塩水(約4%)に1分間ほど浸して色を戻してから、魚が浮くほどの濃い塩水(約18%)に約20分間漬ける。使用する塩は海塩。塩分が加わることで魚肉のタンパク質の構造が変化し、身にうまみが出て風味が加わる。丸赤商店では、魚の種類や状態によって塩分濃度や漬ける時間の長さを調整するという。

骨の髄まで活用する。それが魚に対する礼儀です

約20分間漬けた後は、真水で魚の表面の塩分を洗ってからペーパータオルで水分をよくふき取る。その後は温風乾燥機に1~2時間入れて、0度の冷蔵庫で保存する。家庭で作る場合は、風通しのいいところで1~2時間陰干しして冷蔵庫で冷やすべし。すぐに食べずに保存するときは、ラップを捲いて空気に触れないようにしてから冷凍庫へ。酸化が一番の敵だ。

冷凍保存した干物は、凍ったまま焼くこと。常温に戻している間に塩分が深く浸みて味が濃くなるという。焼き方のコツは「中火の遠火」。表面に軽く焦げ目がついたところが食べ頃。事前に網を熱して酢や油を引いておくと、皮や身が付かずに見た目もきれいに仕上がる。

身を平らげた後は、熱いお湯に頭と中骨を入れて醤油と長ネギを少々加える。干物のうまみが汁に溶けた、おいしい吸い物のできあがり。さて、あとは新鮮な魚を仕入れるだけ。ちょっと釣りにでも行ってこようか。

湯島 丸赤商店

住所:
東京都文京区湯島3-39-9
TEL:
03-3831-5701
URL:
http://www.maruaka.co.jp/

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