私らしく、美しく(医食同源)。

行事食から見つめる日本の食文化

2013/11/07

おばあちゃんの深いところに突き刺さる一杯の味

清さん:お講汁に関して、こんなお話をしてくれた人がいました。この地域に103歳のおばあちゃんがいらっしゃるんですね。毎朝の日課のラジオ体操は欠かさないという元気なおばあちゃん。でもこのおばあちゃんが、80歳の頃体調を崩されたそうです。食が細くなり、何も食べることができなくなったおばあちゃんをお嫁さんがとても心配して、「何だったら食べられる?」って聞いたら、おばあちゃんは「お講汁が食べたい」って。それでお嫁さんはご近所の人に協力してもらい、お味噌を集めてお講汁をつくったそうです。そしたら、おばあちゃんは喜んで食べてくれて、すっかり回復。それから元気、元気の103歳!

ミヨコ:わぁ!すごい。

清さん:お講汁といっても、要は普通のお味噌汁です。でもその一杯の味が、おばあちゃんの深いところに突き刺さっているんですよね。そういう味が体の記憶として存在することは、本当に素敵なことだなと思います。

ミヨコ:一軒のお宅では出せない味っていうところにも、このお講汁のおもしろさ、奥深さがありますね。

清さん:そうですね。雪が降ったら雪かきを手伝い合い、皆で手を貸し合いながら暮らしていく。そういう土地だから、材料を持ち寄って料理をし、皆で分け合って食べる時間は、共同体を維持していくうえでとても貴重なのだと思います。

ノブエ:一方で、高齢化も進んでいるのではないですか?

清さん:はい。この仕事をしているといつも感じるのは、「食文化が受け継がれなくなることは、共同体が崩れていくことに等しい」ということです。これは逆もしかり。ただ、私自身も都会で暮らしているからよくわかりますが、個人が重視される時代においては、密なかかわり合いを避け、核家族化していくことはある意味、仕方がないことでもあります。残したい食文化でありながら、一方で簡単ではない問題をはらんでいます。

「わかりやすい美味しさ」に親しみすぎていないか

清さん:私は、若い人にぜひ、郷土料理や行事食に興味を持ってもらいたいですね。そして、なるべく幼い頃に土地の味を知る機会をもてるといいなと思っています。また、皆でつくり、皆で寄り合って食べる楽しさや、土地の味を子どもの頃に経験しておいてほしいです。

ミヨコ:そうした子どもの頃の経験は、大人になっても残るものですよね。

清さん:また「わかりやすい美味しさ」に親しみすぎていないか、ということも問いかけたいことのひとつです。現代は本当にたくさんの刺激的な味で溢れています。そのなかで、郷土料理の味、行事食の味は時に素朴すぎるかもしれません。でも美味しいと感じるか、そうでないかだけで食を判断していいのだろうかと思うのです。たとえば日本各地に存在する「なれずし」。魚を塩とお米で乳酸発酵したもので、滋賀県の「ふなずし」などはよく知られていますね。この「なれずし」は食べ慣れないと、万人が美味しいと感じるものではないかもしれません。でもこうした調理法が全国にあるのは、そうすることに意味があるからです。生の魚を簡単に手に入れられなかった時代の大切な保存食だったんですね。そうした背景も含めて知ることは、文化を学ぶうえでも、今の暮らしを見つめ直す意味でも、大切なことなのではないでしょうか。特に子どもたちにはぜひ伝えていきたいことだなと思っています。

ミヨコ:各地に存在し、消えつつある郷土料理・行事食には、今の日本に伝えていくべきたくさんのメッセージがありそうですね。

ミヨコ・ノブエ:今日はありがとうございました。

清 絢 (きよし あや)さん

食文化研究家

清 絢 (きよし あや)さん

食文化研究家

清 絢 (きよし あや)さん

一般社団法人 和食文化国民会議 調査研究部会幹事。
大阪府出身。地域に伝承される郷土食や農山漁村の食生活の調査研究から、郷土食に関する執筆や講演などを行う。
近著は『和食手帖』(共著、思文閣出版)、 『ふるさとの食べもの(和食文化ブックレット8)』(共著、思文閣出版)、『食の地図(3版)』(帝国書院)など。

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