和食の楽しみ方入門

和食の盛りつけのいろは 焼き魚編

2016/06/10

家庭でもお店でも、焼き魚をいただく機会は多いものですが、身近な料理だからこそ、盛りつけのルールや奥深さにまで考えがおよびにくいものです。今回は、料理研究家の久保香菜子さんに、和食の盛りつけのなかでも、焼き魚について教えていただきました。

焼き魚を盛りつける

お店や家庭の食卓で見慣れた焼き魚。どのように盛りつけられているのでしょうか。
まずは、基本の盛りつけについて久保さんに伺いました。

「焼き魚を盛りつける場合は、魚の向きと“あしらいもの”の位置にルールがあります。頭があるお魚の場合、頭は左、腹が手前になるようにおきます。お皿の上でも泳いでいるかのように見せるのがコツです。魚の下に敷くものを“かいしき”といい、笹などを少しななめにおくと、彩りよく、形も美しくきまりますね。焼き魚のお供として定番のすだちやレモン、大根おろしなどは、“あしらいもの”といい、必ず魚の手前、右横におくのが和食のルールです」

まるで魚が泳いでいるようにおくというのが、いかにも和食らしい演出だといえます。お店などでは焼く際に串を打って魚をうねらせ、立体的に盛りつけていますが、これも泳いでいる魚をイメージしているそうです。また、尾びれ、胸びれ、背びれなどがこげてしまわないよう化粧塩をするのも魚を美しく見せる工夫だといいます。

大根おろしは小高く盛ると美しい。すだちやレモンは右横に。

「ステーキなどの西洋料理の場合、ブロッコリーやポテトといったガルニチュール(付け合わせ)は、お皿の奥に盛りつけることがよくあります。そのため、そうした配置のお皿を見慣れていて、和食の盛りつけと混同しがちです。しかし、和食の焼き魚の場合は、“右前にあしらいもの”を基本として覚えてくださいね」と久保さん。魚を盛りつける際の手順を知っていると、盛りつけやすく、美しくまとまるそうです。

「あしらいものは、季節に応じて変化を楽しんでください。例えば、よく用いる柑橘類であれば、ゆず、かぼす、レモン、シークワーサーなど、旬のものを組み合わせてください」

< 盛りつけの手順 >

まずは、 かいしきとして、笹を皿の左奥におく。

次に、焼き魚の頭を左前、尾を右奥、腹を手前になるように盛りつける。右手前に空間を残すように盛りつけるのがコツ。また、斜めにおいたほうが空間にゆとりが生まれ美しく見える。

大根おろしを小高い山形にし、焼き魚の右手前に添える。あしらいものは常に右手前に。
レモンは、大根おろしの横に立てかけるように添える。

最後に醤油を大根おろしにかける。
これを「染めおろし」という。この仕上げは食卓に並べる直前に。

焼き魚とあしらいものの相性

そもそも“あしらいもの”とは何ですか?という問いに、「和食のあしらいものは、口の中をリフレッシュさせるものであり、毒消しや食欲増進の意味合いもあります」と久保さん。大根おろしは、魚と一緒にいただくこともありますが、それ以外のあしらいものは、魚を食す合間にいただくものだということです。

「魚の塩焼きのあしらいものには、おろしとすだちなどの柑橘類が定番です。そのほかにも、佃煮など醤油で味つけたものや味噌味のもの、甘酢づけなど酸っぱい味わいのものもぴったりですね。また、魚が味噌焼きであれば野菜の塩漬けやぬか漬けを合わせたり、照り焼きであれば大根おろしを合わせるなど、異なる味わいのものをあしらいものとしてつけあわせることで、お魚をおいしくいただくことができます。塩焼きに塩漬け、照り焼きに佃煮のように、味が重ならないようにしましょう」

(左) 魚の下に敷くかいしきには、庭などに生えていることも多い雪ノ下を使用。

(右) もろみ焼きには、塩漬けのほかにピクルスなどのあしらいもぴったり。

照り焼きのあしらいものには、さっぱりとした大根おろしがよく合う。

いつもの大根おろしも、みょうがを細かく刻んだものと、三つ葉の茎を細かく刻んだ“けし三つ葉”を混ぜ合わせると、ぐっと華やかで繊細な印象に。

お皿の表情を変えるかいしきやあしらいもの

「魚の下に敷くかいしきや、あしらいものを工夫するだけでも、焼き魚の印象はずいぶんと変わるんですよ」と、久保さん。

「笹や南天の葉、みょうがの葉、雪ノ下、もみじなど、かいしきを変えたり、あしらいものに手を加えることで、定番の焼き魚を新鮮な一品にすることができます。また、和食のお店で焼き魚をいただく際に、料理人の方がどんなことに気を配って盛りつけているのか注目するのもおもしろいですね」

尾長鯛の塩焼き。みょうがの葉をかいしきにし、みょうがの甘酢漬けをあしらいものとして盛りつけている。かいしきは盛りつける直前まで水に浸しておくと瑞々しく美しい。
みょうがの甘酢漬けはさまざまな焼き魚と相性のいいあしらいもの。
鮮やかな色合いがお皿を華やかにする。

同じ尾長鯛の塩焼きも、もみじと佃煮を盛りつけると、まったく印象の異なる一皿に。ほかにも、赤かぶの酢漬けや、らっきょなどのピクルスとも相性がいい。

「家庭では、わざわざ笹や雪ノ下を用意しなくても、小松菜やベビーリーフなど、普段の料理に使う野菜を代用することも可能です。たとえば、もみじの代わりに三つ葉、みょうがの葉の代わりに蕪の葉を用いるなど、同じような大きさの野菜を組み合わせてみてください。お皿にグリーンが入ることで、ぐっと彩りがよくなり、焼き魚がおいしそうに見えます」

家庭でかいしきとして用いやすい葉。左下から時計回りで、大葉、ベビーリーフ、三つ葉、蕪の葉。かいしきにはさまざまな葉が使えるが、香りの強いもの、汁が出るものは不向き。また野草には毒性のあるものもあるため、よく見知ったものか、野菜を使うのが無難と久保さん。

笹の代わりにちんげん菜をかいしきとして使用

同じような盛りつけでも、皿の大きさをひとまわり大きくすると、上品な印象に。基本をおさえつつ、さまざまな皿でシーンにあわせて応用を。

 

 今回は、身近な焼き魚も、ちょっとした変化でぐっと新鮮な印象を与えることを久保さんに教えていただきました。ぜひ、家庭でもかいしきやあしらいもの使いを楽しんでみてください。

久保香菜子(くぼかなこ)さん

料理研究家

久保香菜子(くぼかなこ)さん

料理研究家

久保香菜子(くぼかなこ)さん

料理好きが高じて、高校生の頃から京都の老舗料亭「たん熊北店」にて学ぶ。同志社大学英文学科を卒業後、辻調理師専門学校に入学。調理師免許、ふぐ調理免許を取得。辻調理師専門学校出版部を経て、東京の出版社で料理書の編集に携わった後、独立。
現在は、料理製作、スタイリング、レストランのメニュー開発、テーブルコーディネート、編集など、食に関してジャンルを問わず精力的に活動中。
著書に『美しい盛り付けの基本』(成美堂出版)、『美しい一汁二菜 ―「おいしい」と「きれい」には理由がある』(河出書房新社)『きちんと、野菜の小鉢 ちょっとしたコツで「もう1品」がぐっとおいしくなる!』(河出書房新社)、『きちんと、おいしい昔ながらの料理』『旬の味手帖秋と冬』(ともに成美堂出版)などがある。

http://ameblo.jp/kanako-kubo/

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