
工藤紀子
小児科専門医・医学博士
今回のテーマは「腸内環境」。前回取り上げた便秘を改善するためには、腸内環境を整えることが重要です。そして、実は腸内環境を良くすると脳の働きも向上するのです。
腸と脳は密接に関係しており、ストレスやプレッシャーによって腸の働きが乱れることがあります。例えば、試験の前にお腹が痛くなったり、旅先で便秘になる経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか? これは「脳腸相関」と呼ばれるもので、腸と脳は相互に影響を及ぼし合っていることが近年の研究で明らかになっています。
実際、腸内では「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの約90%が作られており、腸内環境が整うことで精神的な安定にも寄与すると考えられています。つまり、腸の健康を意識することが、脳の健康にもつながるのです。
腸内環境を整えるために欠かせないのが食物繊維です。食物繊維には水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けない不溶性食物繊維の2種類があります。
水溶性食物繊維は、腸内の善玉菌を増やし、便を軟らかくしてくれます。海藻類、くだもの(りんご、バナナなど)、にんじん、大麦、もち麦などに多く含まれています。
不溶性食物繊維は、便のかさを増やし、腸内の老廃物を排出しやすくすることで、腸のぜん動運動を促します。ごぼうなどの根菜類、きのこ類、タケノコ、豆類、玄米などに多く含まれています。
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維
食物繊維は一方だけでなく、両方をバランスよく摂ることが大切です。そのためにおすすめなのが雑穀ごはん。例えば、玄米などの雑穀には不溶性食物繊維が、もち麦には水溶性食物繊維が豊富に含まれています。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人男性で21g以上、成人女性で18g以上の食物繊維摂取を推奨しています。しかし、日本人の多くはこの目標量を満たせていません。毎日の食事で食物繊維を意識し、継続して摂取することが大切です。
食物繊維の食事接種基準(g/日)
性別
男性
女性
年齢等
目標量
目標量
0~5
(月)
ー
ー
6~11
(月)
ー
ー
1~2
(歳)
ー
ー
3~5
(歳)
8以上
8以上
6~7
(歳)
10以上
9以上
8~9
(歳)
11以上
11以上
10~11
(歳)
13以上
13以上
12~14
(歳)
17以上
16以上
15~17
(歳)
19以上
18以上
18~29
(歳)
20以上
18以上
30~49
(歳)
22以上
18以上
50~64
(歳)
22以上
18以上
65~74
(歳)
21以上
18以上
75以上
(歳)
20以上
17以上
妊婦
18以上
授乳婦
18以上
参考:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」より
良い腸内環境を育むために必要なのは、食物繊維だけではありません。善玉菌を増やすオリゴ糖、発酵食品に含まれる善玉菌、腸の健康をサポートするEPAやDHAなど、さまざまな栄養素を組み合わせて摂ることが大切です。
そこで、最近注目されているのが「シンバイオティクス」 です。
プロバイオティクスやプレバイオティクスはご存知の方も多いかと思いますが、シンバイオティクスとは、これらを一緒に摂取し、相乗効果で腸内の善玉菌を増やすことを指します。
では、どんな食材を食べればよいのでしょうか?
また、料理に甘味をつける際に市販のオリゴ糖や甘酒を砂糖代わりに使うのも簡単な工夫です。
シンバイオティクスを取り入れることで腸内環境が整うと、腸内で作られるセロトニン(幸せホルモン)が増え、ストレスの軽減や自律神経の安定につながる可能性があります。なんとなく気分が落ち込んだり、試験前など緊張しがちな時こそ、バランスの良い食事で腸内環境を整えることが大切です。
次回は腸と深い関わりがある脳に注目。脳の状態をより良いものにするための方法をお伝えします。
工藤紀子
小児科専門医・医学博士
プロフィール
順天堂大学医学部卒業、同大学大学院小児科思春期科博士課程修了。栄養と子どもの発達に関連する研究で博士号を取得。日本小児科学会認定小児科専門医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/保育園、幼稚園、小中学校の嘱託医を務める/現在2児の母。クリニックにて、年間のべ1万人の子どもを診察しながら子育て中の家族に向けて育児のアドバイスを行っている。