工藤紀子
小児科専門医・医学博士
最近は物価高で買い物へ行くたびに、フルーツは高いから我慢しようかな、節約はしたいけど栄養バランスにはこだわりたい……などと悩んでしまう方が多いと思います。
節約意識が高まっているなかで、実は買った食材を使い切れていない人が多いという現状をご存知でしょうか?
まだ食べられるのに廃棄される食品のことを「食品ロス」といいます。日本の食品ロスは年間約464万トンで、このうち一般家庭から出る食品ロスが約233万トンと推計されています(農林水産省・令和5年度食品ロス量の推計値より)。外食産業における廃棄に注目がいきがちですが、実は半分が家庭で捨てられているのです。
家庭での食品ロスの理由としては食べ切れなかった、腐ってしまった、賞味期限・消費期限切れになったことが挙げられます。食品が高いといいながらも、実は結構な量を捨てているという現状をまず知ってほしいと思います。もちろん私にとっても耳の痛い話で、冷蔵庫の奥に食品があるなと思いつつも放置してしまうことが多々あります。
食品ロスにつながる要因としては、①冷蔵庫にものがいっぱい入っていて、あることを忘れてしまう。②適切な保存方法をしていないことで食材が傷んでしまう。③安いからと買ったものの計画的に使えない、というところでしょう。
普段から使い切れる分だけ買うことが大切。最近は使い切りパックやカット野菜も売っています。一見割高に感じますが、多く買って捨ててしまうより割安だと思います。
食品ロスを解消するために活用したい3種類の食材があります。そのひとつが乾物です。
乾物のなかで特におすすめしたいのが、お麩。お麩はタンパク質が豊富で低カロリー。離乳食を作るときにもお麩をすりおろしして使うと、タンパク源になるだけでなく、とろみもつく。長期保存もできるためとても便利です。小麦粉などは虫が湧きやすいので適切に保管する必要がありますが、お麩はその点も比較的簡単に使えます。
使い方としては、お麩のみそ汁がおすすめ。お麩は水で戻すのに20分程度かかりますが、私はみそ汁には戻さずにそのまま入れてしまいます。あとは、ハンバーグのつなぎとして入れることも。かさ増しができるうえに、ふんわりとした食感に仕上がります。お麩を半分に切って砂糖とバターで焼くと、ラスクのようなおやつにもなります。沖縄料理の麩チャンプルもおいしい。水で戻したお麩を肉の代わりにして、野菜と一緒に炒めると、お麩に野菜の出汁が染みわたっておいしいですよ。
干ししいたけも重宝する乾物。ビタミンDの含有量が高く、食物繊維もとれます。出汁をとったり、水で戻して炊き込みごはんの具にしたり、お鍋の材料に使っても。ちなみに干ししいたけ入りの炊き込みごはんを作る際は少し甘酒を加えると、甘みと旨みが増すのでおすすめです。
次に活用したいのが冷凍食品。その中でも冷凍果物です。いちご、バナナ、ブルーベリー、マンゴーなどはコンビニでもよく見かけるようになりました。
冷凍すると栄養価が落ちるイメージがあるかもしれませんが、すべてが低下するわけではありません。ビタミンCは若干減るといわれていますが、食物繊維、カリウムなどのミネラルは生でも冷凍でもほぼ同等。ブルーベリーに含まれるポリフェノールも、冷凍しても安定して栄養損失少なく摂取できるといわれています。ビタミンCも急速冷凍していれば、ある程度保持されます。
冷凍果物のいいところは腐らせずに長期間食べられるだけでなく、洗ったり、皮をむいたりという手間を省けること。些細ですが、面倒だから果物に手が伸びないことってあると思うんです。
日本人は果物の摂取量が減っているといわれているので、意識して食べてほしい。ビタミンC、食物繊維、抗酸化物質であるアントシアニンやポリフェノールを効率よくとることができます。ヨーグルトに入れる他、スムージーにしても手軽でおいしく食べられます。
野菜も急速冷凍すれば、栄養をほとんど損なわずに摂取できるといわれています。冷凍のほうれん草、オクラ、なすはとても便利。意外と汁物って作るのが面倒ですが、そんな時はみそ汁に冷凍野菜を使えば、洗ったり、切ったりするひと手間が省けます。
野菜は冷蔵庫の中でしなびて、捨てることも多い食材。冷凍野菜を取り入れることで、ロスを減らし、結果としてコスト安につながると思います。
最後におすすめしたいのが缶詰です。
たとえば、アサリの缶詰。生のアサリは砂抜きする必要がありますが、アサリの缶詰があればみそ汁も簡単に作れる。卵と一緒に炒めてもおいしいです。そして栄養価も豊富。亜鉛や鉄の含有量は生のアサリよりも、水煮缶が上回ることも。殻を外す手間も省けますし、簡単に栄養が摂取できて、食中毒の心配もありません。
青魚のサバ缶も家に置いておくと便利な缶詰。DHAなどの栄養も摂取できて、調理せずそのまま食べることもできます。
ロスを防いで食品をうまく使い切るために、乾物、冷凍食品、缶詰を活用してみてください。次回はそろそろ秋が近づいてきたということで、秋といえばスポーツ。スポーツと食を絡めた話をしたいと思います。
工藤紀子
小児科専門医・医学博士
プロフィール
順天堂大学医学部卒業、同大学大学院小児科思春期科博士課程修了。栄養と子どもの発達に関連する研究で博士号を取得。日本小児科学会認定小児科専門医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/保育園、幼稚園、小中学校の嘱託医を務める/現在2児の母。クリニックにて、年間のべ1万人の子どもを診察しながら子育て中の家族に向けて育児のアドバイスを行っている。