totop totop

Special Contents

「発酵概論」 東京農業大学名誉教授 舘 博

3.微生物のはたらき

微生物とは、文字通り顕微鏡で見なければ見えない、肉眼では見えない生物の総称です。微生物と言えども生物なので、自然発生はしないのは当然で、栄養状態や環境条件が整ったうえで、分裂、出芽、先端成長などにより増殖して子孫を残します。微生物も集合した集落になれば、みかんに生えた青いカビのように目で見えるようになります。一般に、目で見えないので直接見ることはできませんが、空気中、土壌中、河川や湖水中、海水中などに生息していて、さらに動物の腸内や植物の表面など、様々な場所に数多くの微生物(図2)が生息しています。

図2. 生物学的分類と微生物の種類

図2. 生物学的分類と微生物の種類

また、 醸造物、漬物、乳製品の製造工程などにも生息し、これらの微生物は人間の生活と深く関わっています。

土壌には多くの微生物が生息していて、動植物の死骸などの有機物を分解して、地球環境における物質循環の一翼を担っていて、 これを食物連鎖(窒素循環、 炭素循環)と言います(図3)。

図3. 食物連鎖(窒素循環、炭素循環)

図3. 食物連鎖(窒素循環、炭素循環)

一方、土壌微生物である放線菌からストレプトマイシンなどの抗生物質が発見され、現代の医療ではなくてはならない薬として使われています。このような薬の発見により、不治の病であった結核も治癒できるようになっています。 土壌から有用微生物の探索により多くの抗生物質が発見され、医療や農薬などに使われ、我々現代人は微生物の恩恵を享受しています。

発酵食品と関係の深い微生物は、カビ、酵母、細菌です。醸造にはカビである麹菌(図4)が用いられ、清酒、ワイン、ビール、焼酎におけるアルコール発酵やパンの発酵には酵母(図5)が用いられています。

また発酵乳やチーズ、食酢、納豆には細菌が 用いられ、我々の豊かな食生活は、微生物の働きにより成り立っています。

さらに、工場排水や下水の処理などにも微生物は活躍しています。余剰の栄養分を微生物により分解することにより、 水質浄化を行っています。このように微生物は環境浄化にも一役買っています。

ところで、微生物は食品を腐らせたり、食中毒の原因物質を産生させることもあります。このような食中毒を起こす原因微生物に対して、食品製造や大量調理施設では、徹底的な微生物対策を行い、事故が起こらないようにしています。

豊かな生活を送るには、微生物と上手に付き合わなくてはならず、適切な知識が必要です。

図4. 麹菌の電子顕微鏡写真

図4. 麹菌の電子顕微鏡写真

図5. 酵母の電子顕微鏡写真(写真:元うすき生物科学研究所所長 久米堯様 撮影) 図5. 酵母の電子顕微鏡写真(写真:元うすき生物科学研究所所長 久米堯様 撮影)

図5. 酵母の電子顕微鏡写真
(写真:元うすき生物科学研究所所長 久米堯様 撮影)

お気に入りに登録しました