工藤紀子
小児科専門医・医学博士
朝起きた時に今日は元気がなくてだるい、やる気が出ない、イライラすると感じた経験はありませんか? 季節の変わり目、特に梅雨の時期はそんな風に感じることが多いと言われています。
天気の影響で気持ちがポジティブに働かないという理由もありますが、意外と多いのが栄養状態が深く関わっているケース。体がだるいのは栄養不足のサインであり、特に重要なのがたんぱく質と鉄です。
暑くなってきてジメジメする時期は、喉越しのいい麺類や手軽に食べられるおにぎりといった食事を選びがちです。すると炭水化物中心になって、たんぱく質や鉄分が不足。栄養バランスが偏ることで、必要な栄養素が十分に吸収されにくくなることもあります。自分なりに食べているつもりでも、吸収がうまくいかず、栄養が足りていない状態に陥る場合もあるのです。
たんぱく質は体の土台作りに欠かせない栄養素で、筋肉、皮膚、脳内の神経伝達物質などの材料になります。脳の機能にも直結していて、ドーパミンやセロトニンも、たんぱく質から作られるアミノ酸を材料にしています。そのため、たんぱく質不足は、気分の落ち込みや集中力低下に関わる可能性があります。
鉄もさまざまな働きをしますが、そのひとつが酸素を運ぶ役割。赤血球の中にあるヘモグロビンの材料になるので、鉄が足りないと十分な赤血球を作れず、全身に酸素を運ぶことができずに貧血を引き起こします。
また体内のエネルギーを回すためのATPの生成にも鉄が欠かせません。ATPは体を動かすガソリンのような存在で、細胞内のミトコンドリアで作られます。鉄が足りないとエネルギー不足になってしまいます。
神経発達にも影響があり、ドーパミンの代謝や神経を作る時にも鉄が必要です。特に乳児期に鉄不足に陥ると、認知機能の発達に影響するということがわかっています。10か月から1歳半くらいの間に起こりがちな鉄不足を防ぐことは、小児科医にとって大きな使命だと思っています。
貧血、体のエネルギー不足、子どもの発達や大人の認知機能にも影響する鉄は、不足しないように気をつけたい栄養素なのです。
鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があります。ヘム鉄は主に赤身の肉やレバー、マグロといった赤身の魚に多く含まれていて、体内への吸収率が15~20%。非ヘム鉄は主に野菜や大豆などに含まれていて、吸収率が2~5%とヘム鉄と比べると吸収されにくいです。
鉄をしっかり摂取するためには、ヘム鉄である肉や魚を食べることが大切です。ヘム鉄を含む肉や魚は、非ヘム鉄の吸収を助ける働きもあるため、非ヘム鉄を含むほうれん草などと一緒に食べるなど、組み合わせを工夫しましょう。
また、非ヘム鉄はビタミンCを一緒に摂ることでも吸収されやすくなります。ビタミンCが豊富な果物と一緒に食べるといいので、サラダにオレンジやイチゴを加えても。フルーツの入った料理は好みが分かれるメニューですが、栄養摂取の面からは理にかなっていると思います。
鉄は組み合わせで吸収率が変わる栄養素ですが、逆に鉄の吸収を阻害する食べ物もあるので要注意。大豆や玄米に含まれているフィチン酸は鉄の吸収を阻害します。ただし発酵によってフィチン酸が減る場合もあるため、みそ汁などの発酵食品を取り入れるのもよいでしょう。
食事を取っているのにあまり元気が出ない場合は、より吸収を意識した献立を考えることが重要。コンビニで手軽に昼ご飯を済ませる場合でも、おにぎりやパンだけではなく、インスタントのみそ汁、ゆで卵、フルーツなどをプラスすることで、鉄分とたんぱく質を摂取できるうえに栄養バランスも整いやすくなります。
なんとなく元気が出ない時は栄養不足を疑って、日々の食生活を見直してみてください。次回は夏に向けて気をつけたい塩とミネラルについて紹介します。
工藤紀子
小児科専門医・医学博士
プロフィール
順天堂大学医学部卒業、同大学大学院小児科思春期科博士課程修了。栄養と子どもの発達に関連する研究で博士号を取得。日本小児科学会認定小児科専門医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/保育園、幼稚園、小中学校の嘱託医を務める/現在2児の母。クリニックにて、年間のべ1万人の子どもを診察しながら子育て中の家族に向けて育児のアドバイスを行っている。