料理の匠、産地の匠

日本料理レストラン「風花」の料理長
稲葉正信(いなばまさのぶ)氏 ×
加賀れんこん生産者 本誠一(もとせいいち)氏【前編】

2013/01/29

おいしい料理の陰には、それをつくる料理人と産地から料理人を支える人々がいます。「料理の匠、産地の匠」では、毎回料理人が産地を訪れ、産地の匠とともに語り合います。

第一回目の今回は、コンラッド東京日本料理レストラン「風花」の料理長稲葉正信氏が、金沢市の伝統野菜加賀れんこんを育てる本誠一さんを訪ねました。

加賀れんこんを求めて冬の金沢を訪れた

1月初旬、金沢。前夜の雨が明け方に雪に変わったらしく、地面や植木がうっすらと雪化粧されている。気温計はマイナス1度を示している。

今回、私たちが向かったのは、金沢市内から車で30~40分離れた河北潟(かほくがた)にあるれんこん田。加賀野菜の一つ、加賀れんこんを栽培する様子を見せていただくべく、コンラッド東京の日本料理レストラン「風花」の稲葉正信料理長とともに河北潟に向かう。もともと「加賀野菜」に興味があったという稲葉料理長。自らの料理に加賀野菜を用いる機会も多く、そのおいしさの理由について現地で話を聞いてみたいという思いがあったのだという。「私の店にはたくさんの外国の方がお越しになります。彼らに和食を広めたいというのが、私のライフワークです。なかでも野菜のおいしさはテーマの一つ。魚や肉の違いももちろんあるのですが、土壌はごまかせないというのが最近よく感じることです。海外で料理をする機会もあるのですが、素材がダイレクトに料理の味に影響する日本料理に、おいしい野菜は欠かせません。そのなかでも加賀野菜にはとても関心がありました」。

生産量を落としながらも
加賀野菜ブランドとして輝きを取り戻す

周りがれんこん田に囲まれた河北潟の作業場で、私たちを出迎えてくださったのは、JA金沢市蓮根部会の部会長である本誠一さんと奥様の典子さん。お父様の代かられんこんづくりに携わり、金沢市内の小坂地区と河北潟にれんこん田を持つ、加賀れんこんを継承する生産者として代表的な存在の一人だ。

今では名の知れた加賀野菜だが、一時は生産量がかなり落ち込んだ品目もあったそうだ。そもそも加賀野菜は、藩政時代から受け継がれた特産野菜で、様々な種類が存在した。しかし、生産者が耐病性や収量などを考え、消費者も見た目の美しさや調理の手軽さを求める風潮になったことから、加賀野菜を生産する農家が少なくなってしまった。しかし1990年頃、これではいけないと声が挙がった。本さんもその声に賛同した一人だ。今では、金時草や加賀太きゅうりなど15種類を、加賀野菜ブランド認定品目として生産。加賀れんこんは加賀野菜の代表格として、全国にも出荷される人気の野菜となっている。