料理の匠、産地の匠

日本料理レストラン「風花」の料理長
稲葉正信(いなばまさのぶ)氏 ×
加賀れんこん生産者本誠一(もとせいいち)氏【後編】

2013/01/31

おいしい料理の陰には、それをつくる料理人と産地から料理人を支える人々がいます。「料理の匠、産地の匠」では、毎回料理人が産地を訪れ、産地の匠とともに語り合います。

第一回目の今回は、コンラッド東京日本料理レストラン「風花」の料理長稲葉正信氏が、金沢市の伝統野菜加賀れんこんを育てる本誠一さんを訪ねました。

もっちり、とろとろのすりながしで温まる

れんこん田から戻り、冷えきった体に待っていたのは、れんこん団子入りの「すりながし」。れんこんを擦り下ろし、片手で軽く握って団子状にしたものを出汁の中におとしていく。その後、擦っただけのれんこんをそのまま流し込み、ここに味噌を加えて味を整える。金沢の冬には欠かせない家庭料理だという。通常のすりながしは、出汁の中にすったれんこんを流し入れるだけだが、「つなぎなど、何も入れなくても、軽く握ったら団子になる様子を見てほしくて」と典子さん。確かに、水気の多いれんこんだと出汁の中でバラバラになってしまうが、加賀れんこんならではのもっちり感が、調理の様子を見ているだけでも伺える。
そして、いよいよ一口いただき、その優しい、滋味あふれる味わいに、皆一同に声を上げた。とろりとしたすりながしの味わい、まるで上品な里芋をおもわせるようなもっちりとした団子。芯から体が温まっていく。「これはおいしいですねぇ」と稲葉料理長。皆でおかわりをしてぺろりといただく。

「これが加賀れんこんの特徴なんですよ」と本さん。生をポキンと折ると、まるで絹のような細く繊細な糸を引く。品種によっては白い汁=灰汁が流れ出すものもあるが、大切につくった加賀れんこんは、灰汁が少なく、汁がしたたるようなことはない。擦って手で握れば、熱を加えたり、つなぎを使わなくても固まる。「手抜きの農業をしていなければ、こういう加賀れんこんが取れるんです」。
「だかられんこんチップスをつくる際も、レシピ本にあるように、水にさらして灰汁を抜き、二度揚げするなんて私はしないんですよ。スライスしたらそのまま油に入れてしまいます。水っぽくないから、油が吹き上がるなんてことないです」と奥様の典子さんも続ける。なるほどと感心しきりの稲葉料理長。ほぼ毎日れんこん料理をつくるという典子さんの「すりおろしたものと鶏肉を混ぜて団子にするとおいしいですね。あとは揚げたれんこんを南蛮漬けにするのも主人の大好物ですよ」など、生産地ならではの豊富な調理法を聞き、会話が弾む。