日本の発酵食 -食卓を飾る“菌未来”-

第三回:酒粕

2014/01/10

味噌、醤油、酢、みりん、納豆など、日本の食卓を支えてきた発酵食。 その土地に棲む微生物の働きによってうまみが生まれ、身体にもよい作用をもたらす発酵食は、先人が生み出した知恵であり、次世代につなげていきたい存在。 今の暮らしにも取り入れやすいレシピとともに発酵食の真髄に迫ります。 第3回は、寒い季節に身体を温めてくれる粕汁に欠かせない「酒粕」です。

発酵によって生まれる栄養素とうまみの宝庫。

日本酒の副産物である酒粕。万葉集の歌にも登場するなど古くから親しまれてきたが、近年は健康や美容にいい発酵食として注目が集まっている。酒粕に魅了され、酒粕のレシピをまとめた著書も出版している料理家の栗山真由美さんに話を伺った。

「酒粕は日本酒を作る時に出る搾りかす。米、麹、水を原料として発酵させたもろみを搾った液体が日本酒で、残った固形物が酒粕です。酒粕は酒蔵のある地域では食べられていたものの、その多くが捨てられてしまう存在でした。けれど身体によく、うまみもたっぷりなので、利用しない手はありません」

 ビタミン、ミネラル、タンパク質、食物繊維などをバランスよく含み、栄養価の高い酒粕。美白効果の高いアルブチン、保湿を促すアミノ酸も含まれるなど、美容面でも優れているほか、腸内環境を整える効果も期待。もともと栗山さんが酒粕にはまったきっかけも、身体によいと実感したことだった。

「私は冷え性で代謝も悪かったのですが、昔から母が酒粕を料理に使っていて、食べると温まったことを思い出したんです。食べてみると、寝る時まで身体がぽかぽかしました。食べた瞬間だけ温まる食材はありますが、酒粕ほど持続力があるのは珍しい。代謝が改善すれば肌ツヤもよくなるし、ダイエットにもつながります。汁ものなど、温かい料理に使うと効果がさらに感じられるでしょう」

和洋中となんでもござれ。頼もしい食卓の助っ人。

健康面に加えて、酒粕のもう一つの魅力は料理をおいしく変化させること。酵母が作用して食材のうまみを引き出し、深みのある味になるのだ。

「和食だけだと思いがちですが、洋食、中華、エスニック、パンやお菓子など幅広く使えます。ホワイトソースも牛乳の代わりに酒粕を使ったり、カルボナーラも生クリームではなく、卵と酒粕で作れる。あっさりとした味ですが、コクがあるので物足りなさは感じないし、カロリーダウンにもつながります。うまみが感じられるので、塩分を抑えたい人にも酒粕はおすすめ。ただしアルコールが含まれているため、妊婦やお子さんは注意してください」

酒粕に調味料を加えて作る粕床に、魚や野菜などを漬け込めば粕漬けに。食材のうまみを高めつつ、長持ちさせてくれる伝統的な調理法だ。冬のイメージが強い酒粕だが、殺菌効果に優れているため、一年中活躍してくれる。

そして、酒粕初心者におすすめの使い方は、いつもの料理にちょい足しすること。味噌汁、うどんやそばつゆ、おでんの煮汁に溶かしたり、納豆やキムチに混ぜるだけで、風味が高まり、味がワンランクアップ。身体を健やかに、そして食卓を豊かにしてくれる先人の知恵、酒粕。ひと口食べれば、その奥深さに気付かされるはずだ。