今日がうれしくなる器

夏を彩る磁器の器

2014/07/11

作家の言葉

個性とは、抑えて 削って それでも消えないもの 安齋新さん 厚子さん

安齋新さん、厚子さんご夫妻が、縁あって東京から石川の加賀に居を移したのが2006年のこと。この引っ越しがきっかけでお二人の作品にも変化が生まれたそうだ。

「近くの港で新鮮な魚がとれるため、スーパーでも新鮮な魚が手に入るし、魚屋さんやお惣菜屋さんの店先で焼いている魚もおいしいので、自然と食事は和食中心に。自ずと和食に合う器をつくるようになったと思います」と新さん。「情報が多い東京では、静かな作品、シンプルな作品が多かったですが、石川にいると曇り空の日が多い。そうすると色を入れたくなったり、アクセントを付けたくなったりするんですね。石川の伝統的な器といえば、九谷焼があります。あのような色鮮やかな器が根付く理由もわかるような気がしますね」と厚子さんも口を揃える。

「季節の移り変わりによる食材の変化にも敏感になり、春になるとこんな器を使いたくなるとか、夏になるとこんな器がほしいなぁと感じる。その思いに従って今の作品が生まれていますね」。

新さんが有田、厚子さんが京都で修行をしたことから、おふたりの作品は磁器が中心。現在は京都と石川の磁土を用いて、磁器、半磁器の作品をつくっている。どこか伝統的な古い作品の趣きがあるのは、おふたり共通の嗜好によるものだそう。

「古い作品にひかれるのは、そこに大量生産のものと違う、生々しい手の痕跡、質感を感じるためだと思います。食材は自然のものなので、そうした質感のある器のほうが、おいしそうに見える気がして。でも、意識して手の痕跡を残すのも過剰な気がします。個性というのは、抑えて、抑えて、削って、削って、それでもどうしても消えないものなのかなと思うんですね。ですから、最近はあえて個性を出さないように心掛けて、それでもかすかに残るものを大切にしています」と新さん。また厚子さんは、お子さんが生まれたことで、つくりたいものの幅が広がったと言う。「“子ども用のものを”ということではありませんが、私たちらしく、でも子どもも喜ぶものをつくりたいという思いが生まれてきましたね」。

身をおく環境や、気持ちの流れに寄り添うように作品を生み出すおふたり。だからこそ彼らの器には、さまざまな食卓にしっくりと馴染む自然さと、お二人らしい新鮮さが同居するのかもしれない。

夏椿

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