発酵に恋して。

世界を巡る発酵旅人・寺島あかね[前編]-
味噌への並々ならぬ情熱が紡いだ「みそのわ」が築く、
より良い社会とは?

2018/04/19

味噌づくりを始めたのは2011年。以来、味噌づくりのおもしろさに心を奪われた寺島あかねさんは、現在まで国内外のさまざまな土地で味噌づくりワークショップを行い、自分で作る味噌のおいしさを広めています。

この活動を「みそのわプロジェクト」と名付け、自身を「発酵旅人」と名乗ることで、味噌づくりの普及を自身のライフワークとした寺島さん。そんな彼女の味噌へ向けた並々ならぬ情熱と、発酵旅人としての生き方について伺いました。

心が折れそうになった2011年に出会った味噌づくり

「食に関する興味が出てきたのは2009年くらいから。オーガニックやマクロビオティック、栄養学といった分野でも勉強してきました。当時から味噌には関心があり、味噌汁はもちろん、いろいろな料理方法で毎日食べていましたよ」

「毎月1kgくらいの味噌を消費している生活でした(笑)」と語るほど、寺島さんの生活に密着していた味噌。そんな彼女が、いっそう味噌に近づく転機となったのは2011年。味噌を手づくりしたという友人の話に感化され、自身でも味噌を作ってみたのだといいます。

「味噌って自分でも作れることを知り、興味がわいたんです。そして2011年2月、初めて味噌を仕込みました。この年は東日本大震災、叔母の他界、大失恋と心が折れっぱなしの年でもあったんです。すっかり味噌の存在を忘れかけていたその年の秋頃、ふと思い出して樽を開けてみたら、すごくおいしい味噌ができていました。とにかくびっくりして感動したことをよく覚えています」

旅が教えてくれた、食のすばらしさと味噌づくりの喜び

「耳日」などで味噌づくりを教えるようになった寺島さんが、海外でもその活動をするきっかけとなったのは、2014年にイギリス南部の小さな街・トットネスを訪れたこと。住民たちの食に対する関心の高さに大きな衝撃を受けたそうです。

「勤めていた会社を辞めて、語学留学でイギリスへ行ったんです。トットネスは人口6,000人ほどの小さな街なんですが、そこは『トランジション・タウン』と呼ばれていて、地域の抱える問題を人任せ、国任せにせず、自分たちの暮らしを変えていくことで、より良い社会を作っていこうという思想が根付いた場所でした。

イギリスの小さな街・トットネス。

食に対する意識がとても高く、ベジタリアンや、自分で野菜を育てている人たち、採集で食材を集めている人たちもたくさんいます。畑や森からその日の夕飯になる物を収穫する、お金の交換なしに畑プロジェクトのお手伝いをし合う、みんなでシェアするのは当たり前という暮らしぶりは、東京というコンクリートジャングル育ちの自分にとって、とても刺激的でした。そしてあるとき、現地の友人に味噌づくりを披露する機会に恵まれたんです。私も彼らから家庭料理を教えてもらったりして、スキルシェアという形で交流を行えたのが、すごく新鮮で楽しかったです」

(左)トットネスの人たちとの持ち寄りご飯会が行われたことも。
(右)味噌づくりの様子。突如作られたのは「味噌ドラゴン」。

ニュージーランド・ウェストポートにて行った、味噌づくりワークショップの仕込み。麹は海外でも手に入るそうです。

ウェストポートでの味噌づくり。みんな真剣!

ニュージーランド・ワナカの仲間たち。

ワナカで作った味噌。

「オーガニックな暮らしを営んでいる方々の所に行って、住み込みで仕事のお手伝いをさせてもらうというのがWWOOFの活動。さまざまなご家庭で生活しながら現地の方と味噌づくりを体験することができました。ノルウェーでは大豆の代わりにひよこ豆で味噌を作ってみたのですが、ちょっと仕込みすぎてしまって…。それが、ちょうど良い感じに味噌が発酵していた2017年に再訪できたので、現地のファーマーズマーケットでそのひよこ豆の味噌と味噌汁を販売したんです。いっしょに味噌を作ったWWOOF先の方が、テントの手配から私の思いまでサポートしてくださいました。5回マーケットに参加しましたが、何度も来てくれる方もいたんですよ」

ノルウェー・トロムソでの味噌づくり。

トロムソのファーマーズマーケットにて、ひよこ豆で作った味噌と味噌汁を販売!

味噌を買ってくれた、今では友人となった現地の方と。

こういった日々を通じてネットワークを広げている寺島さん。2018年3月現在までに、イギリスやニュージーランド、ノルウェーのほかにもドイツ、スイス、香港でもワークショップを開催。年1〜2回のペースで海外へ渡り、味噌づくりを広めています。

2015年、ニュージーランド・ワークワースでの味噌づくり。

海外を訪れた際に自身で撮影した写真をフォトブックとしてまとめている寺島さん。
写真とともに、日本語・英語それぞれで旅のエピソードが綴られています。

「防災食」としての味噌の普及が目下の夢

日本のみならず海外でも味噌づくりを広めるべく精力的に活動するかたわら、日本においては切っても切り離せない災害時に備え、味噌を「防災食」として全国の緊急避難所に置いてもらうことが目下の夢だと寺島さんは語ります。その一歩として、2016年に起きた熊本地震の際には、みずから募った支援金で100kgの味噌を購入し、現地の有志団体へ寄贈。避難所や現地のイベントでその味噌が振る舞われ、とても喜ばれたそうです。

「元気が必要なときにこそ、おいしい味噌を食べて前へ進んでほしいと思って始めたこと。今後は来たる災害に備えて、ご近所さんたちと味噌を作って緊急避難場所に備蓄してもらったり、自衛隊の方々が所有する非常食の一部に手づくり味噌を加えていただけたりしないかなと妄想しています。地震が起きなければ、みんなで炊き出しの練習をして、味噌すいとんにして食べるのもいいですし。いっしょにこの企画を進めてくれる仲間を、絶賛募集中です(笑)」

そういったシーンで利用する味噌も、日本の未来を考えている農家や企業の物にこだわってほしいといいます。

「味噌に限らず、私は常々、買い物は『投票』みたいなものだと思っていて。どうせお金を使うのであれば、日本国内にある自分の好きな農家さんや企業の物を選んで買う。そうすればその人たちが資金を得られ、お金が日本の中で回るようになるじゃないですか。私は、『これからもがんばってね』と応援する気持ちを込めて商品を買っています。『防災味噌』とともに、そういった考え方も広まったらいいなと思って、今後もじわじわと活動を続けていくつもりです」

味噌づくりと発酵のすばらしさを普及したい

「味噌づくりの活動を通して、良かったなと思うことは?」という質問に、寺島さんは「味噌を作って、それで終わりではなかったとき」と答えます。

「ワークショップで作った味噌を家族に食べさせたらとても喜んでもらえたとか、前の年にワークショップで作った味噌を今年は自分の手で作ってみたとか、友達と味噌づくりをしてみたとか。そういった報告がうれしいですね。新しいコミュニケーションや文化が生まれ、『みそのわ』が徐々に広がっているんだなって実感できる瞬間。それを重ねていくことで、より良い社会ができたらいいな、という思いが根底にあります。今、私がやっていることは、その種まき活動ですね」

さらに、味噌ができるのに必要な「発酵」にこそ、人間の営みに大切なヒントがあると力を込めます。

「私は『皆さん、良い発酵をー!』と、ワークショップでよく言うんです。発酵とは、今ある物をさらに良くするということ。例えば、大豆をそのまま食べるより、味噌にしたほうが消化しやすくてたくさん栄養がとれますし、それが発酵のすばらしさですよね。それと同じで、自分の中に備わっているものを使って、より良く楽しい人生にしようよという私なりのメッセージなんです」

2〜3月の寒い時期がメインとなる味噌づくりですが、2018年の初夏にも再びノルウェーを訪れる計画があるという寺島さん。彼女の発酵の旅が今後どのような軌跡を描くのか、引き続き注目していきましょう。

※海外での写真はすべて ©寺島あかね

寺島あかね(てらしまあかね)(発酵旅人/「みそのわプロジェクト」代表)

寺島あかね(てらしまあかね)(発酵旅人/「みそのわプロジェクト」代表)

1986年、東京生まれ。2014年にOLを辞めてイギリスへ語学留学。思想家サティシュ・クマールに影響を受け、社会を良くするアイディアを学ぶ。そこで得た哲学を体験するため、ヨーロッパや北欧各地、ニュージーランドなどでエココミュニティや畑のある暮らしをする⼈、地球を⼤切に思う⼈たちを訪ねる旅を続ける。その旅の中、そして日本国内で味噌づくりの楽しさを伝える一方、味噌を「防災食」とする取り組みも行っている。