発酵を訪ねる

厳しい冬の寒さからうまれる
新潟・上越地方の伝統調味料「かんずり」

2020/03/05

「かんずり」という一風変わった名前の調味料をご存知ですか? 新潟県妙高市(旧新井市)に古くから伝わる発酵香辛調味料で、真っ赤な風貌からは辛味を想像されますが、3年以上の月日をかけてじっくりと発酵させたことでうまれる酸味や甘味などの複雑な味わいが特徴です。毎年、大寒を皮切りにスタートする、雪の上に塩漬けのとうがらしを撒く「雪さらし」が行われるということで、妙高連峰が青空にくっきりと稜線を描く冬晴れに現地を訪ねました。

真っ白な雪が一面に積もる
冬の青空に
真っ赤なとうがらしが宙を舞う「雪さらし」

「今年は雪がなかなか積らなくて……。ようやく雪さらしができてよかったです。お店の裏の田んぼの一角でこれから作業が始まりますのでどうぞ見てきてください」

と、「かんずり」の製造元である、有限会社かんずりの清水真由美さん。「かんずり」は「寒造里」という漢字のとおり、寒い冬に作られます。とうがらし、、柚子、食塩というシンプルな材料からは想像できない味わいの深さのひみつは、長い熟成・発酵期間の前に行われる「雪さらし」という工程にもあるようです。

「秋から塩漬けしていたとうがらしを、1月の大寒の日から雪にさらすのが『雪さらし』です。天気や雪の状態をみながら大体3〜4日ほど雪の上にとうがらしをさらします。もともとかんずりは、昔はそれぞれの家々で作られていたものなのですが、とうがらしを軒先に吊るしていてたまたま雪上に落ちていたものを食べてみたら、塩分やアクが抜けて甘みが増し、美味しくなったことが『雪さらし』をするようになったきっかけと言われています。長くさらしておけばいいというものでもなく、昔の人が行っていたようになぜか3〜4日がちょうどいいんですよね」

と、かんずり作りに携わるようになって、8年目という佐藤さん。地元出身なので、かんずりは小さい頃から身近な存在だったそう。

塩漬けにしたとうがらしが入った樽はだいたい350kg。毎年、天気をみながら冬の間に20日ほど作業を行うそうですが、今年は例年になく積雪が少なく苦労しているそう。今日は雪が積もり天気もよく、絶好の雪さらし日和になりました。

とうがらしが雪の上でばらけるように上に向かって撒くのがコツ。

とうがらしを撒くのは女性の仕事。「おいしくなあれ」と撒いていますと、宮崎さん(左)。

真っ白な雪の上に赤が映えます 。

テンポよくとうがらしが撒かれ、あっという間に本日の分が終了。
上からネットを被せて飛ばされないよう押さえて完成です。

手塩にかけたとうがらしが
「かんずり」になるまでに最低3年。
6年経つと発酵のちからでまろやかさが生まれてくる。

「かんずり」の地元産のとうがらし、糀、柚子、食塩が原材料。
最も特徴的なのはかんずり用のとうがらしの大きさ。

「かんずり用のとうがらしは、自社栽培と妙高市の契約農家で特別に栽培していただいたものを使用しております。こんなにも大きいのは、その年により大きく育ったものの種を採り、その種から次の年のとうがらしを育ているからなんです」(佐藤さん)

春から育て始めたとうがらしの苗は、夏を過ぎたころには大きく育ち、秋に収穫されます。傷がつくと腐りやすくなるため、1本1本手積みで作業されるそう。収穫されたとうがらしは水で洗われ、虫や傷を取り除くなどの選別ののち、天然海水塩で塩漬けに。そして1月、雪が積もって最も寒い時期の大寒から、4〜5ヶ月ほど塩漬けされたとうがらしを雪にさらす「雪さらし」が行われます。

「雪さらし」したとうがらしができたことで、材料がすべて揃い、ようやく本格的な仕込みへ。

とうがらしに糀、柚子、食塩を加え、樽詰めされて熟成期間へ入ります。最低で3年。長いと6年の間樽のなかでじっくりと熟成がすすみます。
途中、1年に1度、発酵を促すために「手返し」という、かんずりの樽を1本1本返す作業が行われ、最後の仕上げは樽を寒い外に置く「寒さらし」という工程で、味を引き締めてようやく完成です!

「3年と6年の熟成では同じ材料なのに、味わいが随分違うんですよ。どちらが好きかはそれぞれの好みなのですが、6年熟成されたものは、3年に比べてよりマイルドな味わい。最近は、加熱していない樽出しの「生」というのも、料理店を営む方を中心に人気です。」(清水さん)

400年の歴史を受け継ぎ
全国の食卓へ

店頭でいろいろお話を聞かせてくれた清水さん。

かんずりをベースにした様々な商品も展開。

「かんずり」の歴史は古く、戦国時代には上杉軍の寒中の兵糧として体を温めたり、凍傷の予防にも使われていたという逸話が残されているそう。400年以上も、作り続けられてきた「かんずり」ですが、時代とともに次第にその影は薄くなってきました。創業者の東條邦次さんと、現会長の邦昭さん親子が、この伝統食を守り後世に残したいと、有限会社かんずりを創業したのが1966年。以降、昔ながらの製法を守りつつも、新しい商品作りにも挑戦しています。

「えのき茸や、山菜、しその実入りなどは、ご飯の上にちょっと乗せるだけでもそのまま美味しくいただける人気の商品です。ベーシックなかんずりは薬味としてだけではなく、マヨネーズと合えてソースにしたり、餃子の種に混ぜたり、カルボナーラの隠し味にもピッタリなんです。このお正月には、お餅にかんずりを塗り、ソーセージとピーマンとチーズを乗せたお餅ピザを作ったのですが子どもたちにも好評でした」(清水さん)

不思議と和洋中とどんな料理にも合うという「かんずり」。「雪さらし」の作業を見せてくださった、スタッフの皆さんにも、おすすめの食べ方を聞いてみました! 

左から順に、

「豚汁や鍋がおすすめです」(宮崎さん)

「焼き鳥に乗せると美味しいですよ」(上野さん)

「どんな肉にも合います!」(岩沢さん)

「やっぱり鍋には欠かせませんね」(佐藤さん)

「豚汁との相性が抜群です!」(森さん)

400年の歴史をもつ伝統調味料「かんずり」は、ジャンルを超えて食卓を豊かにしてくれる、万能調味料なのでした。

ぜひみなさんもお試しください!

有限会社 かんずり

住所:
新潟県妙高市西条437-1
TEL:
0255-72-3813
営業時間:
8:30~17:30
定休日:
日曜日・祝祭日(土曜日は不定休)
URL:
http://kanzuri.com/