発酵に恋して。

発酵イラストレーター・おのみささんの
「ゆる菌活」のすすめ

2020/06/04

おいしくて免疫力アップも期待できる発酵食品を、自宅で手作りする人が増えています。では実際、毎日の生活に発酵食品を取り入れるとどのような変化があるか、気になる人も多いのではないでしょうか。

「自作した甘酒、ザワークラウト、ヨーグルトなどを日々の生活にうまく取り入れ、継続して楽しめば、人生だって変わるかも!?
そんなメッセージが込められた書籍「ゆる菌活-発酵食品を手作りしたら人生が変わった!-」(パイ インターナショナル)を20205月に上梓したのは、イラストレーターで麹料理研究家でもある、おのみささん。
2010年頃から日本で巻き起こっている、麹ブームの火つけ役ともいわれているおのさんに、発酵食品に魅せられ、自著を出版するまでの道のりや、「ゆる菌活」についてお話を伺いました。

菌は友達。
発酵食品を作る過程も楽しんで

元々、グラフィックデザインやイラストの仕事をしていたおのさんが、発酵に強い興味を抱いたきっかけは、自宅での味噌づくりでした。そこで、麹の力を強く実感したのだそう。

「本来、冬が良いとされる味噌づくりですが、たまたま初めて仕込んだのが、真夏の暑い時期だったんです。ジッパーつき保存袋に大豆、麹、塩などの材料を入れて発酵させたのですが、気温が高すぎて袋がパンパンに膨らんでしまいました。最初はとても不思議に思ったのですが、袋が膨らむのは麹の働きによる現象だとわかり、『ああ、麹って生きているんだ!』と感動したんです」

味噌づくりで発酵の魅力に気づいたおのさんは、麹に興味を持ち、味噌に続いて塩麴や甘酒づくりもスタートさせます。そして、このできた甘酒を冷蔵庫に入れておくと、次第にヨーグルトに似た酸味が出てくることに気づきます。今度は、それが乳酸菌の働きであることがわかると、乳酸菌についても知りたくなり、キャベツを乳酸菌で発酵させるザワークラウトづくりにも着手するようになったのだそう。

ザワークラウトはガラス容器に入れて冷蔵庫の上に置き、いつも目につくようにしているというおのさん。緑色だったキャベツが次第に黄色っぽくなり、プクプクと気泡が立っていく容器内の変化を目にすることで乳酸菌の活動が実感でき、とてもわくわくするのだそうです。

日本の発酵の大家である小泉武夫さんや、アメリカの発酵マスター、サンダー・キャッツさんとも
親交のあるおのみささん。

「『あー、ニューさん(乳酸菌)めっちゃ増えてるー』とか『おお、コボちゃん(酵母菌)、がんばってるねー』とかニックネームをつけて、手作り発酵食品を観察しながら毎日の生活を楽しんでいます」

単に手作りするだけでなく、菌を友達にしていっしょに生活していると実感できれば、発酵ライフが俄然おもしろくなりそうです。出来上がった発酵食品だけでなく、作る過程の楽しさもたっぷり味わうことこそが、発酵ライフを充実させる秘訣なのかもしれません。

麹レシピ本が大ヒット!
麹ブームの立役者に

発酵の趣味が高じて、これまで発酵に関する書籍を出版してきたおのさん。麹関連の自著は5冊にも上ります。
さらに、ferment booksとの共著となるイラスト発酵図鑑「発酵はおいしい!」や、発酵の大家として知られる小泉武夫さんとイラストレーターとしてコラボした書籍まで手掛けるようになり、現在では、本業のイラストレーター同様に、発酵/麹料理研究家としても知られる存在に。

中でも思い出深いのは、2010年に上梓した「からだに「いいこと」たくさん 麹のレシピ」(池田書店)。企画を成立させるまで、とにかく苦労の連続だったとか。

「たくさんの出版社に企画をプレゼンしました。最初のうちは『類書がない』という理由でどこにも相手にされませんでしたが、あるとき、私の麹料理を気に入ってくれる編集者に出会えたんです。ただ、彼女もなかなか会社を説得することができず、何度も企画書を書き直し、私が作った麹料理の試作品を出版社の上司に食べてもらったこともありました。そんな努力を続けて、やっとのことで企画が通り、最初の書籍出版にこぎつけました」

当時は一般的ではなかった、麹をテーマにレシピ本を出版するという冒険はもちろん、そもそも自分の料理をメディアで紹介することすら初めてだったおのさんにとって、その制作過程は手探りと冷や汗の連続でした。そして苦労の末に、いざ書店に自著が並ぶと、あれよあれよという間に多くの人の手に渡るようになったのです。

「麹に関する本といえば、専門書や学術書がメインで、一般読者も親しめる内容は珍しかったのかもしれません」

当時のことをこう振り返るおのさん。新しいタイプの著者として注目されるようになると同時に、味噌や塩麴、甘酒などの手作りブームも到来し、麹の存在も脚光を浴びるようになりました。

「麹メーカーの社長さんから『救世主が現れた!と思いました』と書かれた丁寧なメールをいただいたときは、とてもうれしかったです。麹を製造している味噌蔵を訪ねたときも、ご主人に『あんたのせいで、ウチはめちゃくちゃ忙しくなったんだよ!』と笑顔で怒られたことも、楽しい思い出ですね」

それまで冬しか売れなかった麹が、一年を通じた人気商品となり、スーパーなどでは品切れが続いた時期もありました。おのさん本人ですら入手困難になり、撮影でどうしても必要な場合は、知り合いの麹店に泣きついて送ってもらったことまであったそうです。

発酵食品のおかげで
健康も人生も充実

おのさんご自身は、不摂生で不規則な生活を続けていた2030代に比べ、発酵に出合ってからの40代以降のほうが体調も良くなり、充実した毎日を過ごせるようになったそうです。

今回、おのさんが上梓した「ゆる菌活発酵食品を手作りしたら人生が変わった!」にも、さまざまな発酵食品のレシピや、ライフストーリーに関するエピソードなどが紹介されています。

発酵のおかげで良きパートナーにも出会えたという、おのさん。発酵ライフは「いいことしかない」そう。

「やっぱり手作りの発酵食品を毎日食べるようになってから、心も体も健康になったのではないかなと、個人的には実感しています。実際、発酵と免疫力の関係も深く知りたいと思い、東京農業大学食品安全健康学科の高橋信之教授を訪ねて、あれこれお聞きしました。その内容も本書では紹介しています」

本書のおすすめ発酵レシピを尋ねると、「全部おすすめですが」と前置きした上で、手作りヨーグルトを使った「おからのポテサラ風」を挙げてくれました。

本書には、わかりやすいイラストつきで、おのさん考案のおいしい発酵レシピが満載!

「おからは、お豆腐屋さんでまとめ買いし、100gずつ分けて冷凍するようにしています。それを解凍した物と、きゅうりやハム(ツナ缶などでもOK)、自家製のヨーグルトさえあれば、いつでもすぐに作れるのが『おからのポテサラ風』です。お酒のおつまみに良し、ごはんのおかずにしても良し。パンに挟んで、ホットサンドにしてもおいしいですよ」

ヨーグルトづくりには、ヨーグルトメーカーがあると便利なのだそう。

ヨーグルト、甘酒、りんごソーダ、発酵シロップ、ザワークラウト、柿酢、納豆、泡菜(パオツァイ)、塩麴…。さまざまな発酵食品のレシピと実体験エピソード、さらには各食品を使用したお手軽レシピが掲載され、発酵のビギナーから中・上級者まで楽しめる一冊です。特に、数回は発酵食品づくりにチャレンジしたことはあるけれど、継続するまでには至っていないという人にピッタリの内容かもしれません。

「あまり真剣に考えすぎず、ちょっとゆるいくらいにリラックスして発酵食品づくりを試してみるのがおすすめ」というおのさんのアドバイスは、自宅にいる時間が長くなった今の時代、多くの人の助けになるのではないでしょうか。

「例えば、見切り品のキャベツを買ってザワークラウトづくりを試してみるとか、安価なりんごジュースにドライイーストを入れてみるとか、失敗しても痛手が少ない、お金も手間もかからない発酵食品づくりにチャレンジすると気も楽だし、うまくいきやすいと思います。とりあえずやってみて、成功したときの喜びや、手作りならではのフレッシュなおいしさを楽しめれば、きっとまた発酵食品を作りたくなるはずですよ」

画像出典『ゆる菌活-発酵食品を手作りしたら人生が変わった!』より

おのみささん

おのみささん

イラストレーター/麹料理研究家。味噌づくりをきっかけに麹菌のおもしろさに目覚め、2010年に「からだに「いいこと」たくさん 麹のレシピ」(池田書店)を出版。以降、麹関係の本を多数手がける。2020年5月に「ゆる菌活-発酵食品を手作りしたら人生が変わった!-」(パイ インターナショナル)を刊行。最近は、麹だけでなく乳酸菌、酵母菌、酢酸菌なども愛してしまい、菌愛はとどまることを知らない。