世界を旅する料理人

料理研究家・栗山真由美さんがハマった
「マッサ・デ・ピメンタォン」

2021/12/09

旅行をきっかけに偶然出合ったポルトガルの食文化に惹かれ、ライフワークとしてポルトガル料理の研究に取り組んできた料理研究家の栗山真由美(くりやままゆみ)さん。日本国内でポルトガル料理を中心とした料理教室「Amigos Deliciosos」を主宰しながら、長年、ポルトガル料理の魅力を伝えてきました。
そんな栗山さんに、ポルトガル料理の特徴と、ポルトガル料理に欠かせない万能発酵調味料「マッサ・デ・ピメンタォン」について伺いました。

予定外の旅が生んだ、
ポルトガルとの出会い

会社員を経て、料理研究家の道に進んだ栗山さん。日本を代表する料理家の一人、枝元なほみさんのアシスタントを務めた後に独立し、書籍や雑誌を中心にさまざまなメディアで活躍してきました。
栗山さんが得意とするのは、旬の素材を活かした健康的でシンプルな料理。ご本人の言葉を借りるなら「家庭料理の人」であり、身近で温もりのあるレシピを数多く生み出しています。

料理家の栗山真由美さん。

そんな栗山さんが、料理の仕事と同じくらい大切にしてきたのが旅です。ポルトガルとの出合いも、1998年に友人と計画したトルコ旅行での思わぬ予定変更がきっかけでした。トルコ周遊の旅に出た栗山さんは、余った旅程でもう1ヵ国訪れようと、当初の予定にはなかったポルトガルへ向かうことに。そこに広がっていたのは、個性的で美しい異文化の街並みと、古き良き日本を思わせる素朴な空気感だったそうです。

「どこか懐かしい、不思議な安心感に包まれ、すっかりポルトガルに夢中になりました。私の旅は食べ物が中心ですから、さっそくポルトガル料理を食べてみたんです」

ポルトガルには、米や魚介類など日本人になじみのある食材が多く、焼く・煮る・揚げるといった調理方法も似ています。出汁をとるという日本のような概念はないものの、
魚介類や肉の調理過程で生まれた茹で汁や煮汁も余さず活用するなど、調理のプロセスに手数を惜しまないところは共通しているのだそう。

ポルトガルの美しい街並み。

「地元の人が愛してやまない炊き込みご飯やリゾットも、魚介類の出汁がきいた『沁みる味』。レストランと家庭料理の差が少なく、作りやすいこともポルトガル料理の魅力だと思いました」

市場の八百屋の店先で
「マッサ・デ・ピメンタォン」を知った

ポルトガル料理を初めて食した栗山さんは、ポルトガルの定番料理「豚とあさりのアレンテージョ風炒め」に使われている調味料に興味を持ちます。

ポルトガルの定番料理のひとつ「豚とあさりのアレンテージョ風炒め」。

「すごくおいしくて、5日間の滞在で2回いただきました。でも、味の決め手となる調味料の正体がわからない。赤いからトマトを使っているのかなと思って、日本に帰国後味を再現しようとトマトの水煮で作ってみたんですが、現地の味にはなりませんでした」

その後、2回目にポルトガルを訪れた際に、市場の八百屋の店先で見つけたのが、ポルトガル料理に欠かせない伝統発酵調味料の「マッサ・デ・ピメンタォン(マッサ)」でした。ポルトガルでは、市販されているだけでなく、家庭でもよく作られているパプリカを発酵させた調味料です。

「豚とあさりの炒め煮にも使われていると聞き、『これがそうか!』と思いました。市場の八百屋さんに作り方を聞いてみたところ、店先に商品として販売しているにもかかわらず、丁寧に作り方を教えてくれたんです」

材料は、パプリカと塩、そして保存用に使う少量のオリーブオイルだけ。栗山さんは、マッサを日本でも広めるべく、作りやすくアレンジを加えたレシピを完成させました。

食卓にあると便利!
栗山さん流「マッサ」の作り方

マッサには、発酵作用によるパプリカの旨みが凝縮され、それだけで味に奥行きが出る万能調味料として、和・洋・中のあらゆる料理に合わせることができるそうです。日本の塩に合わせた栗山さん流のマッサの作り方を教えていただきました。

  • [材料](約1カップ分)※写真はいずれも2倍量
    赤パプリカ2個
    粗塩大さじ4
    オリーブ油少々
  • [作り方]
    1. パプリカは4等分に切り、種とヘタを取って水でよく洗う。
    2. 水気を拭いたパプリカをボウルに入れ、粗塩をまぶす。
    3. 平らにならしてからラップをかけ、重石をして、冷蔵庫で1週間漬ける。1~2日後に全体に混ぜ、再び重石をして漬ける。
    4. 水けをペーパータオルなどで拭き、網などに広げて12~24時間干す。
    5. フードプロセッサーで粒が残るくらいのペースト状にする。
    6. 清潔な瓶に均一に入れ、表面が空気にふれないようオリーブオイルをかけてしっかりと蓋をする。

「日本の感覚でいうなら、塩、醤油、味噌の代わりのようなイメージで使ってみてください。お醤油代わりに冷奴にちょっとのせるとか、餃子のタレとして黒酢とマッサを合わせるとか…。のせるだけ、合わせるだけで、ぐっと味に深みが出ますよ」

栗山さんのおすすめは、茹でたパスタにマッサとオリーブオイルを和えた簡単パスタと、マッサと生姜を合わせてソテーした豚肉の生姜焼きです。マッサをひとさじプラスするだけで味が決まる上、パプリカに豊富に含まれるビタミンAやビタミンCは加熱しても壊れにくいので、忙しい毎日の美と健康維持にも役立ちます。

現在はベルギーの暮らしと食文化を発信

ポルトガルとポルトガル料理の持つ不思議な魅力に引き込まれた栗山さんは、これまでの仕事と並行してポルトガル料理を中心とした料理教室を主宰し、ライフワークとしてポルトガルの食文化研究と日本での認知度拡大に取り組むようになります。

こぢんまりと始めたという教室でしたが、2016年に料理教室運営会社とエージェント契約すると、あっという間に申込みが殺到するようになり、怒涛の日々が数年間続いたそうです。
「それまでは料理の撮影やイベントなどの仕事がメインで、その余力でやっていたのが料理教室でした。ところが、あれよあれよという間にその割合が逆転して…。料理教室が週に複数回あると、教室以外の日でも食材の調達やレシピの準備などに追われますから、今振り返っても我ながらよく乗り切れたというほどの忙しさでした」

多忙を極める中でも、ポルトガル料理に興味を持ってくれた生徒さんたちに感謝し、愛情を込めて教室を運営していたところ、現在のパートナーと出会って結婚し、彼の住むベルギーへと移住することに。
「まるで、神様が『よくがんばったね』と言ってくれたみたいだった」と、その出会いを振り返る栗山さんは今、ベルギーのアントワープから異国の暮らしと食文化を日本に向けて発信しています。

「レトロでかわいらしいポルトガルに対して、ベルギーは洗練された大人の国。言葉などで苦労することもありますが、せっかく住むことになったからには、ベルギーの食文化をもっと深く知りたいですね。コロナ禍で、ポルトガルになかなか行けないのは残念ですが、離れていた分、きっとまた新しい発見や気づきに出合えると期待しています」

栗山真由美(くりやままゆみ)さん

栗山真由美(くりやままゆみ)さん

料理家、栄養士。2008年よりポルトガル料理を中心とした料理教室「Amigos Deliciosos」を主宰。「MASSA マッサ パプリカでつくる美味しい調味料」(池田書店)や「ポルトガル流驚きの素材組み合わせ術!魔法のごはん」(エイ出版社)などの著書がある。2019年よりベルギー・アントワープ在住。

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