発酵人

生ごみを微生物が堆肥に変える!
「コンポスト」が支える循環生活

2022/01/20

毎日安心して食べられる物が食卓に並ぶように、半径2kmの地域で必要な物が循環する仕組みを作りたい――そんな思いから、家庭の生ごみを微生物の力で分解させて堆肥に変える「コンポスト」を軸に、環境に配慮した社会づくりに向かって邁進する会社があります。
会社の名前は、ローカルフードサイクリング株式会社。社名のとおり、循環生活の普及を目指している同社の取り組みについて、代表のたいら由以子(たいらゆいこ)さんに伺いました。

無農薬野菜を探したことがきっかけで
循環の輪の断絶に気づく

大学卒業後、証券会社に入社し、結婚を機に退社して子育て中心の生活に移ろうとしていたたいらさんが、循環生活の普及に身を投じることになったきっかけは、25年以上前にさかのぼります。

ローカルフードサイクリング代表のたいら由以子さん。

「友達のように仲の良かった父が、退職後すぐに末期がんの宣告を受けました。入院先で余命3ヵ月と言われ、ずっと検査漬けになってしまったんです。このままでは後悔が残るのではないかと友達に相談したところ、自宅での食養生をすすめられました。父も同意してくれましたが、病院から連れ帰ったその日から大きな壁にぶちあたったんです」

その壁とは、福岡市中探しても無農薬野菜が見つからなかったこと。ようやく見つけたのは、「鮮度が良くないのに高い物」でした。

「なぜ新鮮な無農薬野菜が手に入らないのか、それまで食の生産システムに興味を持ってこなかった私は、その理由がわかりませんでした。
父の看病をしながら少しずつ調べてわかったのは、私たちが見た目のきれいな野菜を選んでいるから、生産農家は売れる野菜を作るために農薬や化学肥料を使わざるをえないということでした」

あらためて食の重要性を知ったたいらさんが続けて気になったのは、「今、赤ちゃんの娘は、将来何を食べるんだろう」ということだったといいます。

20年後は、もっと環境は悪化していると思いました。それから、環境について勉強を進めてわかったのは、現代の私たちの生活スタイルが環境や土地に大きな影響を与えており、自然の調整機能を乱し、生態系を壊しているということ。
過去、数億年にわたり、土は生き物が出した糞や死骸が土に還ることで栄養に変え、どんどん肥えていきました。しかし、現代の暮らしは、生ごみは焼却し、トイレは下水に流してしまっているため、土に自然な状態で栄養が戻りません。循環が断たれ、これまでの土とは異なる物となっているのです」

「堆肥のオタク」を目指し、
研究・開発と人材育成に注力する

循環を取り戻すにはどうすればいいのか。試行錯誤の末にたいらさんが行き着いたのが、生ごみを堆肥に変えるコンポストでした。

「生ごみの量は、家庭ごみから出るごみの30%から40%を占めています。それを栄養に変え、その栄養で野菜が育つ循環の輪を作ることができれば、理想とする循環型の暮らしの実現が加速するのではないか。そんな仮説を立てたことが、今に至る原点となりました」

コンポストを広めるために、たいらさんが目指したのは「堆肥のオタク」になることでした。積み重ねてきた研究とネットワークを母体に、2004年にはNPO法人循環生活研究所を設立。コンポスト基材の研究・開発、組織づくり、循環生活を広める人材育成を行う体制を整えていきました。

NPO法人を立ち上げてすぐの段階で、コンポストを使った循環生活の講座依頼が年間数百件に上っていました。そんな状況だったので、わりと早い時期から、全力でライバルを育てることに取り組んだんです。この活動を多くの人に周知してもらうために、蓄積してきたノウハウを共有し、講座を開いて各地域で人材育成に力を入れました」

イギリスの人材育成モデルを参考に、大学教授の協力も得つつ組織を作り上げ、これまでにアジアと全国で200人以上のリーダーを育成。現在では、年間85,000人に循環生活を普及する体制になりました。一方で、コンポストの研究にも努力を重ね、段ボールコンポストなどを世に送り出していったそうです。

「いい取り組みだね」と言うだけの人が
コンポストを使いたくなる仕組みづくり

次の転機になったのは、2015年頃。循環生活の普及に手応えを感じ始めていたときです。

「あるとき、冷静に考えるとまだ9割の人がコンポストを使わず、生ごみをごみとして捨てていることに気づいたんです。『たいらさんはいいことをしているね』と言いつつ、コンポストを使わない人がいる。私たちの考えに共感してくれる人たちが、実行したくなる仕組みを作らないとダメなんだと悩み、自分で何でもやろうとしすぎていたことを反省して、新しい方法の模索が始まりました」

同じ志を持つ行政職員や大学教授に呼びかけて、研究会を立ち上げたたいらさん。そこから生まれたのが、都市型コンポスト「LFCコンポスト」と、半径2kmの地域で必要な物を循環させる活動「ローカルフードサイクリング」です。このタイミングで新たに、事業会社も設立し、実証実験を深めることと、循環生活の普及を同時に進め始めました。

LFCコンポストのロゴマークにニワトリを採用したのも、循環をイメージしやすくさせるためだそう。

LFCコンポストは、都市部のマンションでの使用を考えて開発したものです。ベランダに置いても違和感のないデザインで、植物性の有機性廃棄物を配合したオリジナルのコンポスト基材が入っています。虫を防ぐファスナーつきのバッグのため、ファスナーを閉めてしまえばにおいもほぼなく、13ヵ月間は生ごみを入れられます。
ここに蓄積された生ごみは、微生物による分解・発酵によって、23週間程で栄養価の高い堆肥へと変わります。バッグに入れたまま鉢として使って野菜を育てることもできるんですよ」

ユーザーが困ったときは、サポーターに相談できるラインサポート機能も完備。段ボールコンポストに比べてはるかに手軽に使えることから、都市部に暮らす2040代を中心にユーザー数を伸ばしています。

最終ゴールは、安全な野菜が
毎日の食卓に上ること

今後は、できた堆肥を専用バッグに入れたまま半径2km以内のマルシェに持っていけば、契約農家の野菜を交換してもらえるコミュニティを全国に作ること。そして、安全な野菜を作る農家を支えるCSACommunity Supported Agriculture:地域支援型農業)の仕組みを作ることの2つが目標だといいます。

「最終ゴールは、どこの家庭でも安全な野菜が毎日の食卓に上ること。そのために必要なのは、楽しく取り組める循環生活の実現と、一人ひとりが食べ物を作るプロセスに参加して、地域の人々の手で循環がなされることだと思います。ローカルフードサイクリングという名称も、地域の人が自分で回す仕組みにしたいという思いと、自転車で回れる距離で栄養を回すという2つの意味からつけられています。

実際に、LFCコンポストの利用者からは、『ごみを少なくするように調理するようになった』とか、土地のない都市にコンポストによって堆肥ができることで、『ビルの屋上で野菜を作ろう』とか、新しいアイディアも生まれています。今はまだ、限られた地域でのプロジェクトレベルかもしれませんが、今後はもっと全国の皆さんへと広げていきたいですね」

たいら由以子(たいらゆいこ)さん

たいら由以子(たいらゆいこ)さん

父親の病気をきっかけに、土の改善と暮らしをつなげるための、半径2kmでの資源循環を目指し、活動を開始。2004年に設立したNPO法人循環生活研究所で20年以上続けた研究活動をベースに、2019年にはローカルフードサイクリング株式会社を福岡で起業した。

【公式】LFCコンポスト -生ごみから美味しい野菜をつくるコンポストをはじめよう-