発酵人

発酵料理研究家が考案!
悩めるママのための「こねないパン」づくり

2022/04/21

「子供のために、安心・安全な手作りのパンを作りたい」。そう思って始めたパンづくりなのに、肝心の子供は抱っこしてほしくて泣き叫び、自分は泣く子供にイライラしながら必死に粉をこねている――発酵料理研究家・青木光左代(あおきみさよ)さんが「こねないパン」を考案したきっかけは、パンづくりのプロセスで感じた強烈な違和感だったそうです。
ここでは、こねないパンの誕生秘話と子育てのこと、そしてママの自己肯定感を上げるご飯づくりについて、お話を伺いました。

喜んでほしくて始めたのに、
誰も笑っていない

「発酵家族の料理教室」を主宰し、発酵の力をふんだんに使った「自己肯定感を上げるご飯づくり」を提唱する青木光左代さん。現在の道に進むきっかけになったのは、自身が子供のためにと挑戦した家庭でのパンづくりでした。

発酵料理研究家の青木光左代さん。

「私がパンづくりを始めると、ママが相手をしてくれないことを不満に思った子供が泣き出すんです。あなたたちのために作っているのにと、ついイライラして、『ちょっと待ってて!』と叫んだり、叱ったりしてしまいました」

「パンを自分で作るのは、安全・安心でおいしい物を食べて、子供に幸せでいてほしいから。なのに、子供にも、自分にも笑顔がないなんておかしいのでは?」と青木さんは気づきます。
泣く子供を抱きしめてあげられない粉だらけの手を見ながら青木さんが思いついたのが、パンづくりにおいて最も労力が必要で手を汚す原因になる、パンをこねる工程をまるっと飛ばしてしまおうということです。

「手が汚れなければ、子供をすぐに抱っこしてあげられるし、こねる時間がなければパンづくりにかかる時間もかなり短縮されます。これなら、子供も自分も笑顔でいられるのではと思いました」

醸造科で学んだ知識を活かした「こねないパン」

こねないパンのアイディアは、青木さんが東京農業大学の農学部醸造科(現在の応用生物科学部醸造科学科)で学んだ「微生物の力を利用する」知識、つまり発酵の知見から生まれました。
自分の代わりに微生物に働いてもらうことで、作り手に余裕を生むという、うれしいレシピです。

  • [材料]
    ホシノ天然酵母15g
    3g
    160g
    国産小麦粉200g
    強力粉大さじ1
  • [作り方]
    1. 前日から水につけて冷蔵庫に1日置いたホシノ天然酵母、塩、水、国産小麦粉の順に計量し、タッパーに入れる。
    2. 粉気がなくなるまで、3分程スプーンで混ぜる。
    3. 蓋をして生地が2倍になるまで室温で発酵させる。発酵時間の目安は、夏場で4時間、冬場で6時間。
    4. 生地を手前に折る。密閉容器の向きを90°ずつ回して、4辺をすべて手前に折る。
    5. 生地をオーブンペーパーに流し込み、オーブンで2次発酵(40℃で15分)させる。
    6. オーブンから生地を出し、そのまま置いておく。
    7. 生地の表面に強力粉を振り、オーブンで焼く(250℃で20分)。途中で生地の向きを変え、きつね色に焼けたら出来上がり。

▼作り方の動画はこちら

自己肯定感爆上げ↑手を汚さずに作れる 世界一ずぼらでおいしいこねないパン

計量と3分混ぜるプロセス以外は、ほとんどほったらかしで出来上がります。洗い物も少なく、混ぜるときだけ気をつければ散らかる要素もないので、子供といっしょに作れるのもいいところ。
「混ぜたところで子供がぐずりだした」「焼く直前に子供を迎えに行く時間が来てしまった」という場合は、その状態でストップし、手が空いたときのタイミングで再開できるのもポイントです。

レーズンを入れてアレンジした「こねないパン レーズンライ麦味」。

「泣く子供を叱りながらパンを作っても、ママも子供もつらいだけ。なんでこんなことになっちゃうんだろう、どうしてうまくいかないんだろう…そんな風に自分を責めて落ち込むママもいるかもしれません。でも、発酵の力を使えば、微生物に代わりに働いてもらうことで時短が叶い、簡単においしいパンが完成します。
せっかく料理をするなら、『子供といっしょに笑顔で作れた』『あっという間にできたのにおいしかった』と感じて、ママ自身の自己肯定感を高めてほしいです。そういった思いから、発酵の力を取り入れた料理を私の教室では紹介するようになりました」

発達障害の我が子との
向き合い方にも変化が生まれた

プライベートの青木さんは、3人兄弟のママです。真ん中の子に発達障害があることがわかり、その特性を理解するまでは苦しんだといいます。皆の前で叱ってしまい、自己嫌悪にさいなまれた日もありました。それでも、発酵料理を通して青木さん自身の自己肯定感が上がるにつれて、気持ちに折り合いをつけて前向きに子育てと向き合えるようになってきたと話します。

「私はこねないパンを作るとき、お気に入りの天然酵母を使っています。天然酵母は、イーストに比べて発酵に時間がかかるけど、イーストにはない独自の旨みが出るのが特徴です。でも、それってなんだか、発達障害がある子とない子みたいだなって思ったんです。
イーストは成長が早くて、どの教科も平均点以上の点が取れる優等生だけど、天然酵母は、成長はゆっくりでもその子にしかない個性がしっかりあるんです。そう考えたら、誰かと比べずに、その子の成長に寄り添えるようになりましたね」

今後の目標は料理だけではなく、
安心感を醸成する場を作ること

ポットでできる甘酒や時短でお肉をやわらかくする塩麹を使ったレシピなど、青木さんがレッスンで教える料理には、「計算された手抜き」がたくさん盛り込まれています。
小さい子供を抱えて疲労が溜まっているママも、発達障害の子の子育てに追われるママも、ぜひがんばりすぎないでほしい。上手に手を抜いて、自分を認めてあげてほしい。みずからの子育て経験にもとづくメッセージをレシピに込めて、今日も青木さんは発酵と向き合い続けています。

今後は、パンを焼く際にオーブンの隙間で作れる干し芋を販売し、その売上の一部を子供に障害があるママたちの就労システムづくりに役立てようと計画中という青木さん。

「子供に障害があると、学校への行き渋りや療育施設への送迎などがあり、フルタイムで勤務するのは難しいのが現実。でも、私自身がそうだったように、働きたいママはたくさんいます。隙間時間でも、スキルを活かして働ける場を作ることで、ママたちの自己肯定感を上げるお手伝いをしていきたいですね。干し芋づくりを通して、コミュニティの場、安心感を醸成する場として役立ててもらうのも良いかなと思っています」

青木光左代(あおきみさよ)さん

青木光左代(あおきみさよ)さん

「発酵家族の料理教室」代表。醸造学の知識とみずからの子育て体験から「こねないパン」を開発。自称「洗い物が大嫌いな発酵料理研究家」。発酵をこよなく愛する3児の母で、発達障害の子供の親に寄り添うご飯づくりを研究している。

発酵家族 - 発酵で自己肯定感を上げたいお母さんのためのサイト