発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」

Vol.3 冷蔵庫にいつでも食べられる
サラダがあるって心強い!
料理家・井澤由美子さんの発酵サラダ発酵フルーツ

2023/06/08

素材をいかした手軽でおいしい発酵レシピで知られる井澤由美子(いざわゆみこ)さん。今回、井澤さんの数ある“推し発酵食”のなかから選ばれたのは、簡単で失敗知らずな「発酵サラダ」です。体が喜ぶ栄養がたっぷり詰まった発酵サラダは、一度作ったら常備せずにはいられなくなるという噂……! 発酵サラダを使った超速アレンジレシピもご紹介します。

発酵に魅せられた原点は、
幼いころの「体感」

お気に入りの台湾茶を淹れながら。「台湾茶も発酵茶。香りと甘みがすばらしくて、大好き」

「レモン塩」や「乳酸キャベツ」など、作りやすい発酵レシピでブームの火付け役ともなってきた井澤由美子さん。発酵に魅せられた原点は、幼いころにまでさかのぼるといいます。

「私はおばあちゃん子で、祖母から大きく影響を受けています。祖母は漬物やみそも手作りするし、庭の実りでいろいろな保存食も作る人でした。幼稚園生の私は、家に帰るとぬか床のなかに手を突っ込んではいい頃合いの野菜を引っ張り出してかじるのが日課(笑)。宝探しみたいで楽しかったし、子ども心に食べると元気になって、気持ちがいいと感じていました。子どもってたくさん動くから、暑いし汗をかくでしょ。だから余計に、ひんやりして塩分のある食べ物で元気になる感覚に敏感だったのかな、と思います」

発酵食が身近な環境で育ったことで、自然に食養生へと興味がむかっていった井澤さんは、微生物の働きにも魅せられていきます。

「きゅうりのぬか漬け1本をとっても、昨日、今日、明日では味わいが違います。食いしん坊はすべてのものに対して、好みの頃合いを知り、その手法を覚えたくなるものですよね。発酵食は、微生物の奥深い働きによって旨み、におい、栄養までもが日々変化していきます。私はこの働きを、微生物の“氾濫”と呼んでいます。人間が制御することのできない、微生物の氾濫。生きている微生物の働きに合わせて、自分の好みの塩梅をさぐっていくのって本当に楽しいですよ」

植物性乳酸菌飲料を使って、
失敗知らずなレシピに

発酵サラダの材料は、好みの野菜と塩、はちみつ、植物性乳酸菌飲料。
シンプルな素材が発酵によって複雑な味わいを織りなす。

発酵食のすばらしさをより多くの人に感じてほしいと、誰でも手軽に失敗なく作れることにもポイントをおいて考案したのが「発酵サラダ」です。

「発酵食って、どれも作り方はシンプル。たとえば、私が提案している『乳酸キャベツ』は、せん切りキャベツを塩もみにし、3〜6日ほど常温で発酵させるだけです。ただ、腐敗と発酵は紙一重なので、初めて作る人にとっては発酵しているかどうかが判断しにくい、という課題も。そこで考えたのが、今回ご紹介する発酵サラダです。ベースはいわゆる水キムチですが、特徴は乳酸菌飲料を使うこと。これによってひと晩常温におけば必ず発酵する、“ゴールのわかる”発酵レシピになりました」

一般的な水キムチには米のとぎ汁が使われますが、井澤さんのレシピでは米のとぎ汁に代えて植物性乳酸菌飲料を使います。

「米のとぎ汁は乳酸菌のエサになって、発酵を促します。一方、乳酸菌飲料はそれ自体がすでに発酵していますね。この違いが、1日で絶対じょうずに発酵する理由です。乳酸菌飲料はなんでもOKですが、私のおすすめは植物性乳酸菌飲料。さっぱりしていて、野菜やフルーツによくなじみます」

胃腸にやさしい
発酵サラダのレシピ

冷蔵庫で1週間保存でき、発酵が進むほどにさわやかな酸味に加え、旨みとコクも増していく。

  • [材料](作りやすい分量)
    キャベツ小1玉(600g)
    にんじん1本(100g)
    粗塩大さじ1
    はちみつ小さじ2
    (A)
    しょうが、にんにく各薄切り3枚
    赤唐辛子1本
    (B)
    乳酸菌飲料(市販)1本(80〜100ml)
    300ml (または水と乳酸菌飲料の代わりに、米のとぎ汁380〜400ml)
  • [作り方]
    1.キャベツはざく切りに、にんじんは皮ごと細切りにする。
    2.厚手のポリ袋や密閉袋に1と塩、はちみつを入れてよくもみこむ。
    3.清潔な密閉容器に2を入れ、Aを散らし、Bを注ぐ。常温の涼しい場所に一晩おいて発酵させ、冷蔵庫で保存して1週間ほどで食べきる。

塩とはちみつをしっかりなじませ、全体がしんなりしてカサが減ってきたら、保存容器に移す。
1歳未満のお子さんの離乳食に漬け汁を使いたい場合は、はちみつは避け、同量の甜菜糖やきび砂糖に。

「野菜や果物は全体で700gが目安です。セロリ、レタス、白菜、かぶなど、生で食べられる野菜ならなんでもOK。旬の好みのもので楽しんで」

発酵の船頭役となって引っ張ってくれる、乳酸菌飲料を回しかける。

「冷蔵庫にいつでも食べられる冷たいサラダが待っているって、すごく心強いものです。暑い日や疲れたとき、酸味と旨みのある漬け汁をごくりと飲んでみて。漬け汁には、通常のキムチの10倍以上もの乳酸菌が含まれています。また、発酵した野菜は、酵素の働きで栄養が吸収しやすくなっていて、胃腸にもやさしいんです。善玉菌が活性化します。脳腸相関についての研究が進み、『腸は第二の脳』という言葉もよく知られるようになりました。発酵食を作り、食べ続けている私自身も、体と心の深いつながりを実感しています。体と心は食べたもので作られるって、その通りだなぁって思うんです」

発酵サラダで作る、
簡単冷やし麺

小さじ1と1/2の鶏ガラスープのもとを大さじ1の湯でとき、漬け汁で好みの加減にのばせば、
乳酸菌たっぷりのスープに。好みで錦糸卵やハムをのせて召し上がれ。

食欲がない日や遅く帰った日の晩ごはんには、つるんと食べられる発酵サラダの冷やし麺なんていかが? ゆでて流水でしめたうどんやパスタ、春雨に、発酵サラダをのせ、鶏ガラスープを漬け汁で好みの加減に割ったスープを注げば完成です。

「温かい麺に冷たい漬け汁をかけて食べても、おなかがほっとしますね。ゆずこしょうを添えたり、レモンをキュッとしぼってもおいしいし、スープにお酢を加えてもさっぱり感が増していいですよ」

発酵サラダは、マヨネーズとあえればコールスローに、刻んでひき肉とまぜれば餃子やシュウマイの具に早変わり。料理の時短を叶える作りおき素材としても活躍します。
「オリーブオイルをかけたり、ごま油をなじませてナムル風にしても、また雰囲気が変わります。上質なオイルを加えると、さらに腸の蠕動運動が促進されます。 削りたてのペッコリーノやパルミジャーノをかければ、冷えた白ワインのお供にもぴったり。休日の私の楽しみでもあります」

ビタミンCたっぷりの
発酵フルーツで
リフレッシュタイム

発酵サラダの野菜を果物におきかえれば、ちょっとおしゃれな発酵フルーツの出来上がり。発酵サラダよりも塩分を減らし、果物の甘みを引き立てます。

果物700g(写真はりんご、ラディッシュ、キウイ、オレンジを使用)に対し、塩小さじ2、はちみつ小さじ1、
乳酸菌飲料2本と水200mlを合わせる。

りんごなど果肉がしっかりしたものは、皮つきのまま食べやすく切り、清潔な容器に入れて塩とはちみつをまぶして軽くもみます。キウイなどやわらかなものは、容器に加えるだけで大丈夫。水と乳酸菌飲料をそそいだら冷蔵庫でひと晩寝かせ、1週間で食べきります。

プレーンヨーグルトに発酵フルーツをのせ、漬け汁をかけた冷たいおやつ。
小腹が空いたときのおやつや口直しのデザートにもうれしい1品。

「ビタミンは、美肌によいとして知られますね。さらに、乳製品であるヨーグルトは、幸せホルモンのセロトニンの材料になり、自律神経のバランスを整える手助けもしてくれます。食材の力を掛け合わせれば、おいしさも栄養も相乗効果! さわやかな甘みのなかにほんのり塩けを感じる発酵フルーツに、クリーミーなヨーグルトがよく合います。はちみつやメイプルシロップをかければよりリッチな味わいになりますよ」

次回、井澤由美子さんからのバトンは、現在フリーランスで、環境系大学院にて菌の研究で博士号を取られた河原あいさんへとつなぎます。どうぞお楽しみに!

料理家

井澤由美子(いざわゆみこ)さん

料理家

井澤由美子(いざわゆみこ)さん

料理家、調理師、国際中医師。テレビ、雑誌、店舗プロデュース、商品開発など、幅広く活躍。発酵や薬膳に造詣が深く、食材の効能をいかしたシンプルで滋味深いレシピが人気。『体がよろこぶ お漬け物』(誠文堂新光社)、『「ストウブ」でもてなしごはん&毎日おかず』(主婦の友社)など著書多数。