手仕事カレンダー

vol.9 乳酸発酵による酸味と旨みで料理に大活躍!
重信初江さんの「発酵白菜」

2024/01/18

みずみずしくて甘い、冬の白菜。安く手に入れたら、中国の酸っぱい漬物「発酵白菜」を仕込んでみませんか? 塩漬けにしておくだけで乳酸発酵し、程よい酸味と旨みがあって、いろいろな料理に生かすことができるのが魅力です。

「簡単に作れますが、コツがいくつかありますよ」というのは、発酵白菜好きが高じてレシピ本も手がけた料理研究家の重信初江しげのぶはつえさん。今回、冷蔵庫内でコンパクトに保存できるファスナーつき保存袋で漬ける作り方とおすすめのアレンジ法を教えてもらいました。韓国料理にも精通している重信さんに聞いた、キムチの話も必読です。

白菜と塩だけでこのおいしさ、
中国由来の漬物との出合い

「漬物が大好き」という重信さんが発酵白菜に出合ったのは、東京・神田にある中国東方料理の人気店「味坊」です。「まだお店ができて間もない20年ほど前に、豚バラ肉と合わせた煮物を食べたのですが、発酵白菜から出た酸味と旨みが絶妙で、染み渡るおいしさでした」

その後、旅先の台湾でも酸菜白菜鍋を食べて、おいしさを確信。自分で仕込み、鍋や炒め物、煮物など自身の料理にどんどん活用するようになったそうです。
「発酵白菜の酸味や旨み、塩気を料理に生かすと、調理や調味がシンプルでも味わい深くなっておいしく仕上がります」

材料は白菜と塩だけ、簡単に仕込めるのも発酵白菜のよさのひとつ。発酵をうながす乳酸菌は体にもいい効果をもたらし、白菜のビタミンやミネラル、食物繊維がぎゅっと凝縮されます。

失敗を防ぐ!
発酵白菜の漬け方の決め手は
「塩分3%」

仕込みは簡単だけれど、注意したいのが、保存時のカビ。空気に触れたり、常温で長期間おいたりすると生えてしまうことも。
「カビを避ける決め手は、塩の量です。白菜の重量の3%の塩で漬けるといいでしょう」

常温で1〜2日おいて発酵させ、その後冷蔵で半年ほどは保存できます。ゆっくりと発酵が進み、長く保存するほど深みのある味わいに。「個人的には、漬けて1週間ぐらいの状態が好みです(トップ画面を参照)。生のままでも調理してもおいしいですよ。数ヶ月保存した古漬けは、鍋や煮物などにおすすめ。自分の好みの漬け具合を試してみてほしいですね」

生のままたっぷりと食べたい場合は、塩分3%ではのどが少し乾くので、2%に減塩すると食べやすくなると、重信さん。「ただしその分、保存は1〜2カ月程度にして早めに食べきりましょう。万が一、カビが生えた場合は、カビの周囲を5㎝くらい大きく取り除き、残りは必ず加熱して食べるようにしてください」

「発酵白菜」のレシピ

  • [材料](作りやすい分量)
    白菜(芯や外葉は除く)1.5kg
    45g(白菜の重量の3%)

白菜の重量は、芯や外葉、汚れた部分は除いて、洗う前の水滴がつかない状態ではかるのがコツ。
「白菜の分量を正しくはかれて、塩の量も正しく計算できます」

  • [作り方]

    1.白菜は繊維を断つ方向に2〜3㎜幅のせん切りにする。

    水分の出がよくなるので、白菜はせん切りに。

    2.大きなボウルなどに①を入れ、塩を振り、全体に行き渡るように手で混ぜる。

    量が多いので、大きなボウルがなければ大鍋で代用しても。油分がついていないか確認してから使うこと。
    この段階ではふんわりと混ぜるだけで、もまない。

    3.白菜がしんなりして水分が出るまで、そのまま15〜20分おく。途中、天地を一度返して、塩をさらに全体に混ぜる。

    塩を混ぜた直後(左)と比べると、15〜20分おいた状態(右)は水分が出てしんなりとし、かさが減っている。

    4.白菜の水分をしっかりとしぼり、チャックつきの保存袋(大きめのもの)に入れる。

    白菜をしぼり過ぎて水分が抜け過ぎても、発酵の妨げに。
    「おにぎりを握るような手つきでしぼると(上左)、ちょうどよく “しっかりと”しぼれます(上右)」
    保存袋の口を外側に折り曲げておくと、口が広がって白菜が入れやすくなる(下左)。

    5.保存袋全体に白菜を手で広げて詰め、空気をしっかり抜きながら平らにならして口を閉じ、口を上にした状態で1〜2日常温におく(基本は1日、冬の冷暗所の場合は2日)。

    袋の中の空気はカビの原因になるので、白菜を詰めながらできるだけ抜くのがポイント。
    白菜を袋の角にも広げ(上左)、両手で押しながら平らにならして(上右)、
    余分な空気を抜いてから口を閉じる(下左)。袋の口を上にして保存すると、汁がもれにくい(下右)。

    6.白菜の色が少し濃くなり、気泡が現れて発酵したら、冷蔵室で保存する。半年を目安に食べきる。

    左は漬けたばかり、右は漬けて5〜6日目のもの。
    白菜が黄色〜薄茶色っぽい色に変化して、発酵が進んでいるサイン。

オリーブオイルやソーセージを合わせて洋風にも。
「発酵白菜」の食べ方アレンジ

発酵白菜を使った料理といえば、本場では「酸菜白肉鍋」と呼ばれる、豚バラ肉などと合わせた鍋を連想する人も多いのでは? そのほか、中華風の炒め物や煮物などにも活躍しますが、もっと幅広く楽しんでほしい、と重信さんはいいます。

「白菜と塩で材料がシンプルですから、洋風の料理にも合うんですよ。発酵のもの同士、チーズにもよく合います」

汁気を軽くきった発酵白菜をそのままオリーブオイルであえるだけの、手軽なサラダ。「オイルで全体をコーティングすることで、発酵白菜の塩気がマイルドに感じられて、たっぷりと食べやすくなります。そのほかの具材をあえてもいいですね」

オリーブオイル以外にも、ごま油などの他のオイルやマヨネーズなどであえても。

もう1品紹介してくれたのが、太めのソーセージ、玉ねぎと煮込む「シュークルート風」。「ドイツのザワークラウト代わりに使うと、発酵白菜からいい風味が出るので、塩は加えなくても味が決まります」。

白ワイン1/3カップを煮立て、玉ねぎの薄切り1/2個、発酵白菜300g(汁は切らない)と大きめのソーセージ4本、
水300㎖を加え、煮立ったらふたをして弱火で15〜20分煮る(分量は2人分)。
仕上げに粗びき黒こしょうを振り、好みで粒マスタードを添えて。

「キムチは酸味が出るまで発酵を進ませて食べる」のがお気に入り

韓国に何度となく通い、韓国料理の本も出している、重信さん。韓国の発酵漬物・キムチも本場の味を探り、キムチを漬ける現地の行事にも参加して、レシピを追求していますが、市販のものを購入することも多いそう。

「きちんと発酵しているものを選びたいですね。最近は、“キムチの浅漬け風”も多いですから。買ってすぐは浅漬けの状態で、それもおいしいのですが、キムチ本来の味わいが楽しめるのは酸味が出てきてから。冷蔵庫で少し寝かせてから食べるのが好みです」

信頼をおいているのは、東京・上野の老舗キムチ専門店「第一物産」のもの。「昔ながらの製法で作られていて、酸味が出てからもおいしいのです。定番の白菜キムチはもちろん、はちみつ漬けの梅干しのキムチは病みつきに。季節限定のものもおすすめです」

「第一物産」のキムチ。右は定番の白菜キムチ、左は秋冬限定のかぶキムチ。

酸っぱくなったキムチは
おいしく料理に活用

酸味の出たキムチはさまざまな料理に生かして、と重信さん。発酵が進んで旨みが増し、加熱すると酸味は和らぐので、使わない手はないそう。

「わざわざ、料理用にキムチの古漬けが市販されているぐらいなんですよ。豚肉と炒めたり、スープやチヂミなどにしたりして楽しんでみてください」

料理研究家

重信初江(しげのぶはつえ)さん

料理研究家

重信初江(しげのぶはつえ)さん

調理学校の助手、料理研究家のアシスタントを経て、独立。昔ながらの家庭料理から旅で訪れた世界各地の味まで、作りやすいレシピが人気。著書に、『ほっこり小鍋』(池田書店)、『はじめてなのに現地味 おうち韓食』(主婦の友社)、『発酵白菜レシピ』(家の光協会)など多数。
https://www.instagram.com/shige82a/