食の哲学。
“日本の上質”を丁寧に発信する
「Premium Japan(プレミアムジャパン)」
編集長・島村美緒さんに聞く
海外から見た、日本の食のリアル
2025/06/26
食の哲学。
2025/06/26
日本の伝統文化、特に食のジャンルが世界的に注目を集めるなか、日本から海外へ魅力的な情報を発信するメディアの役割が期待されています。食、旅、伝統文化から最新の技術や注目の人物まで、日本のきめ細かい情報を世界に発信しているオンラインメディア『プレミアムジャパン』編集長の島村美緒(しまむらみお)さんに、海外から見た日本の伝統食と、さらなるアピールに必要なことなど、所属する日本外国特派員協会にて、お話を伺いました。
外資系ブランドなどでPR・マーケティングの責任者を長年務め、海外経験が豊富な島村さん。自身の体験が、メディアに関わる大きな動機になりました。
「実家が茶道や着付けなど、日本文化を教える学校を営んでいて、母は料理の先生です。それにもかかわらず、海外の人に日本の文化について尋ねられたとき、きちんと伝えられないことが多くて。とても恥ずかしかったものです。しかし、同じ苦い思いをしている日本人がたくさんいることもわかり、いつか日本文化をきちんと伝えることに携わりたいという思いがありました」
当初、島村さんの知人が運営していたという『プレミアムジャパン』。「諸事情で手放すと聞き、それはもったいないと事業権を買い取って、2019年にリニューアルしました。さらに2022年に編集体制をすべて改め、コンテンツの充実を図ったところ、この3年間で月間アクセス数が1300万P Vを超えるメディアに成長しました」
日本の食や旅、伝統文化など国内外の富裕層を意識した情報発信だけでなく、漢字クイズなど気軽に読めるコンテンツも展開しています。食分野は、日本屈指の料亭やレストランの料理人のインタビューもあれば、かたやB級グルメに関する記事も。その記事の幅広さから、読者の6割は18〜44歳と年齢層の広さが特徴です。
2024年からは、すべての記事を英語、フランス語、簡体字、繁体字の4言語に自動翻訳され、各言語で読めるようになりました。「初めの1ヶ月で台湾などの海外からのアクセスがとても増えました。今は日本人の読者が8割ですが、今後海外の読者が増えていく勢いを感じているところです」
『プレミアムジャパン』のサイト。「日本の上質を世界へ」をコンセプトに、食、旅、伝統文化、ものづくり、
インタビューなど、コンテンツが充実。
『プレミアムジャパン』の強みのひとつは、クオリティーの高い記事にあります。「私には編集経験がありませんが、PR時代の人脈を活かして、ラグジュアリー雑誌の元編集長など経験豊富なかた、かつ、日本のことを海外に伝えたいと考えている方々をスタッフに迎え入れました。それぞれの得意分野を活かして制作し、ほかの海外向けのメディアと比べて、記事の深度や写真の質が高いとのお声をいただいています」
また、海外の人が興味を惹かれそうな視点を大切にすることで、ほかの追随を許しません。
「たとえば何故、能があるか、ただ説明しても海外の人にはよくわからないし、興味を惹きつけません。でも、世界的に有名な黒澤明監督の映画のあのシーンで出てきた、のような説明なら興味が湧くかもしれません。東京アメリカンクラブなどの会報誌を制作している企業とも組みながら、外国人が興味を持ちそうな視点を探っています」
島村さん自身が英語を操るバイリンガルでもあり、海外への発信力も認められ、京都市のメディアパートナーや星野リゾート、鹿児島県などの自治体とのタイアップや世界で最も権威のある富裕層旅行商談イベント「ILTM(インターナショナルラグジュアリートラベルマーケット)」の招待メディアに選ばれるなど、存在感が高まっています。
「コロナ明けのここ数年、日本が特に注目されている実感があるとともに、媒体としての盛り上がりも感じています。ちょうど今年は10周年の節目の年。メディアとして役に立てる時期が来たのかなと思っているところです」
世界中のフーディによって選出される、権威ある賞『アジアのベストレストラン50』のPR・プロデュースも担当してきた島村さん。和食の現在は、海外側からはどう見えているのでしょうか?
「素材をシンプルに使って、ヘルシーで体に良くておいしい、が魅力ですよね。“体にいい”は今、世界的なキーワードですし。また日本を代表する老舗料亭『菊乃井』の3代目主人・村田吉弘さんなどの尽力で、日本料理を世界の財産として発信していることをきっかけに、和食独特の“だしの旨味”の味覚は世界中に広がりました。海外の名だたるレストランでも、お客さんが当たり前のように旨味の話をしている。そう考えると、海外の料理がなんだか日本料理化しているようにさえ感じます」
みそや醤油など、日本ならではの発酵食品も海外では定番。ほかの食材にもチャンスがある、と島村さん。
「たとえばフレンチに、以前は使われなかったわさびや山椒などが使われていることを考えると、まだまだ海外に知られていない食材にも、次のステージの可能性がありそうです。海外の人にアピールするには体験してもらうことが何よりも大切。人気のジャパニーズウィスキーを歴史からテイスティングまでバイリンガルで紹介したことがありますが、外国人特派員協会で海外のジャーナリスト向けにイベントを開いてみるのもいいかもしれません」
食を楽しむインバウンド観光客の姿を見かけることも多く、日本に暮らす私たちにも日本の食の海外人気を感じる機会は増えました。しかし、本当に知られているのはまだ一部に過ぎないと、島村さんは感じているそうです。
「『アジアのベストレストラン50』には、日本の若手シェフたちの台頭は目立ちますが、京都の懐石料理店は1軒も入っていません。京都には、1万円台で食べられる素敵な懐石料理店がたくさんあるのですが、地元の常連客が多く、英語に対応していない店も多いため、抜け落ちてしまっているのです。一方、東京のレストランなどは、英語のコミュニケーションもスマートで、いくらでも払うような世界のフーディで連日盛況です。そもそもターゲットが違いますが、京都の和食をもっと海外でも盛り上げられたらと思うのです」
「海外ブランドでの勤務経験で学びましたが、海外ではものの背景の話まで丁寧な説明が求められます。日本の食は、海外の人が食べることはできても、『この食材は何?』『なんでこの調理法?』など、深い情報を知りたくても得られないのが実状です。日本文化は海外の人にとって謎が多いと聞きます。そのストレスを解消するカギは、やはりコミュニケーション力ではないでしょうか。料理人の方々にも自分の料理のフィロソフィーぐらいは語れるようになってほしいと、コロナ期間中にオンラインで英語レッスンをしていたこともありました(笑)」
島村さんは自身のコミュニケーション力とPRで培ってきた人脈を活かして、日本の食を海外につなぐ下支えとなりたいと考えています。「コロナ禍を経て生き残った店は、改めて見ると個人経営のところばかり。改めて料理人たちの実力とポテンシャルの高さを知る機会になりました。日本の料理人たちは日本の宝です。媒体やPR事業とともに、もっと日本の食のよさが海外へと深く伝わって愛されるようになればと願っています」
外資系広告代理店を経て、米ウォルト・ディズニーやハリー・ウィンストン、ティファニー&Co. などのトップブランドにてマーケティング、PRの責任者を歴任。2013年に株式会社ルッソを設立。さまざまなトップブランドのPRを担当。2017年『プレミアムジャパン』の事業権を獲得し、2018年株式会社プレミアムジャパンを設立。『プレミアムジャパン』代表取締役 兼 編集長として活躍。
https://www.premium-j.jp/