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発酵を訪ねる
のり本来の風味、おいしさ、栄養が味わえる
「黒ばらのり」を広く届けたい
2025/07/03
発酵を訪ねる
2025/07/03
昭和の食卓に、必ずと言っていいほどあった「のり」。「焼きのり」「味付けのり」など味の種類に地域差はありますが、日本の家庭にとって身近な食品でした。今なお愛され続けているのり。近年、温暖化による海水温上昇などの影響で、状況が変わりつつあります。そんななか、日本の大切な食文化のひとつであるのりを、いつまでも食卓に届けたいと試行錯誤を続ける株式会社タツノコ。「黒ばらのり」というオリジナル商品の生みの親でもあるタツノコの会長 梅本文雄さんと社長の西田昭雄さんにお話を聞きました。
瀬戸内海は古くからのりの産地でした。1989年、タツノコも愛媛県西条市の瀬戸内海をすぐに望む場所で創業しました。
「のりが日本中の食卓にのぼるようになった背景には、プラスチックの品質向上や包装技術の進歩があります。そうした技術革新により、のりが保存・流通しやすくなり一気に普及しました」と会長の梅本さん。
瀬戸内海は、のりがよく育つ漁場だったことから、生産者はどんどん種付けをして収穫。焼きのりや味付けのりといった「板のり」にして販売していました。しかし、いつしか需要と供給のバランスが崩れて市場にのりが余り、安価な商品になってしまったのです。そこでもっと別の方法はないだろうかと、梅本さんは考えます。
タツノコの会長 梅本文雄さん
「主に家庭で食べられている板のりは、収穫したのりを細かく砕き、板状にして高い温度で焼きます。そのため、本来ののりの風味や栄養が損なわれてしまっています。そこで思いついたのが、昔ながらののりに戻ろうということでした」
昔ながらののり、つまり板状にせず生のり=原藻(げんそう)のまま食卓に届ける方法への模索が始まったのです。
板のりが普及する以前は、多くの土地で原藻の形状のままのりを食べていた歴史があります。しかし、海から採れたばかりののりには、海中の汚れや菌などが付着しているため、丁寧に汚れを取って殺菌し、乾かさなくてはなりません。一方で高い温度で焼いてしまうと、のりに含まれるビタミンやミネラル、アミノ酸などの栄養素が奪われ、旨みもなくなってしまうジレンマもありました。
「そこで、栄養素やおいしさもそのままに、原藻を加工することはできないか。そう考えて開発に乗り出したのが、海苔専門の遠赤外線乾燥機です」
しかし、実際に機械が完成するまでには、トライアンドエラーを何度も重ねたといいます。
「大きな資金を注ぎ込み、ああでもない、こうでもないと実験を重ねて完成した機械が、結局失敗に終わるという経験を何度もしました。しかし、そうして試行錯誤を重ね、調整を繰り返してできあがった現在の四号機は、最高傑作になりました」と、梅本さんは笑顔を見せます。遠赤外線の力でしっかりと乾燥、殺菌しながら栄養があり、旨みも感じる原藻の干しのりがつくれるようになったのです。
そののりを梅本さんは「黒ばらのり」と名付けました。
「黒ばらは、どのような意味で名付けたんですか?と聞かれることがありますが、これは花のバラから取っているんです。バラというのは大変美しく、また黒いバラというのは自然界では大変貴重で高貴な存在です。黒ばらのりも、自然から得た貴重で高貴なのりだという意味を込めて『黒ばらのり』という名前にしました」
徹底した品質管理を行いながら、生のり本来の風味を感じる唯一無二の「黒ばらのり」はこのようにして誕生したのです。
タツノコの主力商品 焼ばらのりと黒ばらのり
ところが近年、温暖化など、さまざまな要因から海の環境が変わり、瀬戸内海では以前のように潤沢にのりが穫れなくなってしまいました。
このピンチを救ったのが、韓国ののりでした。
「韓国は、のりの養殖が盛んで、豊かな収穫量があります。中でも着目したのが、オニアマノリという品種ののりです。日本で流通しているのりはスサビノリという品種ですが、オニアマノリはさらに食感がよく甘みが強い。このおいしいのりで、黒ばらのりをつくろう、そう考えたのです」
タツノコは、国産ののりも扱いつつ、おいしくて収穫量も安定しているオニアマノリを、独自の遠赤外線乾燥機で加工し、高品質の黒ばらのりをつくることに成功しました。
「日本の海産物を取り巻く状況は危機的なものだと感じています。だからこそ、私たちは、『日本の食卓にのりを届け続けたい』という思いで、チャレンジを続けています」
色彩選別機、金属探知機など先進的な設備と人の手による
徹底検査によってタツノコの品質は支えられている。
近年タツノコは、新たな転機を迎えました。
「私たちはのりを加工し、『黒ばらのり』をはじめとする品質の高い商品を消費者の皆さんに届けてきました。しかし、流通面ではもっと広く国内外に行き渡らせたいという思いも抱えてきました。そこで、原材料を供給するなど、以前から取り引きのあったマルコメのグループとなることで、より多くの皆さんに『黒ばらのり』のおいしさをお届けできるのではないかと考えたのです」と梅本さん。
マルコメグループとなり、その第一弾として「黒ばらのり」の名を冠して商品化されたのが、『料亭の味 黒ばらのり』です。フリーズドライ顆粒タイプの即席みそ汁と黒ばらのりの相性は大変によく、豊かな磯の香り、黒ばらのり特有の食感を楽しめる商品となっています。
お徳用 フリーズドライ顆粒みそ汁「料亭の味 黒ばらのり」
タツノコの社長 西田昭雄さん
社長の西田さんは、みそ汁以外にも、さまざまな企業に黒ばらのりを使ってもらい、さまざまな料理とコラボレーションしたいと語ります。
「例えばラーメンに入れると、従来のトッピング以上の役割を果たし、のりの味わいが前に出たおいしい一品になると喜んでいただいています。また、『パンの中に入れたい』といったご要望でお取り扱いいただくなど、私たちが想像もしない使い方で、オリジナル商品が生まれています」
これからが本当に楽しみですと、笑顔で話す梅本さんと西田さん。
「日本の食卓にのりを届け続けたい」「黒ばらのりのおいしさを多くの人に届けたい」というタツノコの挑戦の歴史は新たなフェーズへと進み、今また大きな一歩を踏み出したのです。