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発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」
Vol.20 発酵×スパイスで奥深い味わいに!
「LIKE」シェフ・原太一さんの「発酵大根のアチャール」
2025/08/07
Vol.20 発酵×スパイスで奥深い味わいに!「LIKE」シェフ・原太一さんの「発酵大根のアチャール」
発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」
2025/08/07
食にかかわるプロに、お気に入りの「推したい発酵食」を教えてもらう本連載。今回ご登場いただくのは、「Bistro Rojiura」「PATH」「LIKE」と、人気レストランを手掛けるシェフ、原太一(はらたいち)さんです。
フレンチをベースにしながらも、ジャンルにとらわれず、世界の調理技法を自在に取り入れる原シェフが教えてくれたのは、「発酵大根のアチャール」。乳酸発酵させた大根にスパイスを効かせた一品は、カレーはもちろん、さまざまな料理のアクセントとしても活躍します。発酵とスパイスが織りなす奥深い味わいで、お家にいながら、インドへ、中国へ――。身近で新しい、“多国籍な発酵食”をご堪能あれ。
フレンチの名店で腕を磨き、個性豊かな3つのレストランを切り盛りする原さん。3店舗目となる「LIKE」のテーマは、中華やエスニックなどのエッセンスを取り入れた多国籍料理。心地よい音楽が流れる店内にはリラックスしたムードが漂い、昼は大きな窓から差し込む陽光、夜は高い天井から吊るされた温かなライトが店を包み、ゆったりとした時間が流れます。
ステージも備えた心地よい空間。不定期でライブイベントも開かれる。
「昔から旅先の屋台で食べるストリートフードに魅力を感じていて。あれこれ考えなくても、思わず『うまっ!』って笑っちゃうような料理を作りたいと思って始めたのが、LIKEです」
原さんが生み出す味わいのなかでも、重要な役割を担っているもののひとつが「発酵」です。豆板醤、黒豆で作る味噌、魚醤に発酵マッシュルームなど、自家製の発酵食品は、ここでしか味わえない奥深い旨みを生み出す立役者です。
「発酵食品って、手間も時間もかかるけれど、やはり手づくりしたものには、市販では出せない味わいがあります。うちのお店ならではの料理ができるのは、自家製発酵食品の魅力ですね」
原さんが本格的に発酵へ興味を持つきっかけとなったのは、世界的レストラン「NOMA」だったと言います。NOMAでは2018年に発酵研究部門が立ち上げられ、発酵の技法を多用する料理が数多く提供されるように。発酵に対する注目を集め、世界的な潮流を生み出しました。
「それまで、発酵食品は自分自身の食生活には欠かせないものでしたが、お店の料理に使う発想はありませんでした。当時は、フレンチに醤油を使うのは何か違うよな、と思っていたんですよね。そんなときに衝撃を受けたのが、NOMAの発酵料理。一気に世界の料理が変わったといっても過言ではないくらい、その影響力は大きかったと思います。かくいう僕もその一人で、改めて発酵の魅力に目覚めました。それ以来、味噌づくりや醤油づくりなど、発酵について学ぶようになったんです」
ひとたび発酵に開眼してからは、プロの料理人ならではの探究心から「いろいろなものを発酵させてきた」と笑う原さん。
「味噌づくりを学んだら、大豆ではなく、黒豆でもやってみたり。基本のレシピから派生して考えていくと、あれこれとアイデアが広がります。失敗もたくさんありますが、それも経験。時間とともに味わいが変化するのも育てている感じがあり、愛着が湧きますね」
左は仕込み直後、右は5日目。まろやかな酸味と大根の旨み、スパイスの複雑な香りが広がる。
発酵について学ぶなかで出合ったのが、インド好きの農家の方から教わった「発酵させるアチャール」。一般的にアチャールは、スパイスや酢、油で仕上げる、発酵しないタイプが主流ですが、ヒマラヤ地方などでは乳酸発酵させる伝統的なスタイルも親しまれているそう。
原さんがアレンジした「発酵大根のアチャール」は、スパイスの香りと発酵による旨み、酸味がクセになる一品です。
4.粗熱がとれたら清潔にした密閉容器に移し、常温で2〜3日発酵させる。酸味が出てきたら冷蔵室へ。冷蔵で約1カ月保存可能。
熱々のスパイスオイルを、水けをしぼった大根にジュッとかけて。
「油は、オリーブ油や米油でも代用OK。マスタードオイルなら、ぐっと本格的な味わいに仕上がります」
発酵大根のアチャールは、カレーに添えるだけではもったいない! ソースに加えれば、まろやかな酸味とポリポリとした食感がアクセントになり、料理に奥行きを与えてくれます。このマンチュリアンソースも、その一例。スパイシーで甘酸っぱい味わいと、なすのフリットとの相性は抜群です。
「マンチュリアンとは、満州風という意味。インドに渡った中華系の人によって、インド料理と中国料理が融合した“インド中華”という新ジャンルが生まれました。このレシピでは、マンチュリアンソースに発酵大根をプラスして、より食欲をそそる味わいに」
旅先で出合った料理や味わいにもインスピレーションを得ながら、ジャンルを超えた一皿を作り続ける原さん。発酵の使い方には、国によって感じ方や取り入れ方の違いがあると言います。
「たとえばヨーロッパの人は、酸味に強いなと感じます。コペンハーゲンに行ったときには、何を食べても“ちょっと酸っぱい”と思ったくらい。あちらではビネガーをよく使う文化があるし、発酵の酸味をビネガー代わりに活用するというシェフも多かったですね。世界のシェフから、発酵との付き合い方を聞くのも勉強になりますし、自分自身の好みの発酵具合を探っていくのも、また楽しい。僕はやっぱり、旨みと酸味がちょうどいいタイミングで料理に使いたい、と思っています」
発酵食と歩んできたアジアの食文化、発酵を新たな視点で捉え直す、ヨーロッパのアプローチ。その両方をフラットに、そして柔軟に取り入れていく原さんにとって、発酵とは奥深く、そして一生探求し続ける余地のある遊び場のひとつなのかもしれません。
「まだまだ勉強したいし、新しい世界がありそうだとワクワクしています。でも、きっと一生答えは出ませんね。探り続けて終わるのかな(笑)。それも幸せだなと思います」
次回は、フレンチビストロや居酒屋の運営のほか、飲食店のプロデュースやメニュー監修なども手掛けるシェルシュ代表の丸山智博さんにバトンを渡します。どうぞお楽しみに!
1981年生まれ、東京都出身。大学卒業後、フレンチの名店「キュイジーヌ・ミッシェル・トロワグロ」などで研鑽を積み、2011年に「Bistro Rojiura」を開業。6年連続ビブグルマンにノミネートされる。2015年にモーニングからディナーまで時間帯に合わせた食事が楽しめる「PATH」を、2019年に多国籍料理をテーマにした中華レストラン「LIKE」を開店。
住所:東京都港区白金台4-6-44 3F
TEL:03-5422-8183
定休日:月・木曜日
Instagram:@like_restaurant_