愛媛、食の現場へ

伝統製法と健康を願う心が生み出す
独自の商品が魅力「森文醸造」

2025/09/18

伝統製法と健康を願う心が生み出す 独自の商品が魅力「森文醸造」
伝統製法と健康を願う心が生み出す 独自の商品が魅力「森文醸造」

木蝋の生産で栄えた商家のお屋敷が立ち並ぶ内子の街。その一角に「酢卵(すたまご)」という目立つ看板が目に飛び込んでくるお店があります。古くから酢や醤油、味噌の醸造を行い、近年は酢卵でも知られる森文醸造株式会社。四代目の森秀夫さんにお話を伺いました。

独自の商品開発のきっかけは
内子の町並み保存運動

「酢卵のドリンクをどうですか?」と店員さんの声。お話を聞くためにやってきた森文醸造の前で、まずは一杯いただくことにしました。「酢卵」という文字から味が想像できず、少しこわごわと口をつけると、フルーティで爽やかな味が口の中に広がります。意外にも飲みやすい味わいに驚いていると、奥から代表の森 秀夫さんが。

奥へと促されると、店内にはさまざまな商品が並んでいます。まずはここで、森さんに森文醸造の歴史について伺いました。
「創業は1893年。私の曽祖父にあたる森 文太郎が創業者で、屋号の「森文」はこの曽祖父の名前から取っています。もともとは酢の製造から始まったそうです。その後、二代目の傅三郎氏が味噌、醤油へと広げていきました」

四代目の森さんは、先代から酢や醤油、味噌などを受け継ぎながら、酢卵など新商品をつぎつぎと開発しました。そこには、流通の時代の変化に翻弄された歴史があったといいます。
「もともと、うちは酒屋さんや小売店さんがお得意様。そうした地元のお店と一緒にやってきました。でも1970年代に入ると、大型スーパーがどんどんと進展してきたんです」

近隣にも大型スーパーができ、そうした店舗を利用する消費者が増える中、森さんはスーパーに自社商品を卸すことを躊躇したといいます。
「お得意様を裏切るようなことはしたくないという思いであったり、同業者同士で競い合ったり、価格競争に巻き込まれたりするのも避けたい思いがありましたね」と森さん。
しかし、消費の中心がスーパーになるなか、自社の商品が販売できない、お客様の手元に届かないという自体になってしまったのです。

内子の町並み保存運動がおこったのは、その頃だったそうです。
1976年、77年頃だったと思います。商売が窮地に陥る頃、この街に県外から観光客がくるようになった。これでなんとかなるかもしれない。そう思って始めたのが、さまざまな商品開発でした。味噌のパッケージを観光客に喜ばれるものに変えたり、地元名産のゆずを用いたドレッシングや飲料などをつくりましたね」

必死だったという森さん。大分県のかぼすを用いたドレッシングをつくるなど、各地との“コラボレーション”も積極的に行い、自社独自の商品展開をしていったのです。

内子の町並みの中でも目を引く「森文旭館」。1925年に竣工した、森文醸造が所有する常設活動写真館で、
年に数回上映会や朗読会を企画している。

店舗の2階には醸造にまつわる古い道具や、映画関係の展示品が収められたミュージアムがある。

「人まねをしない」という教えを守り
失敗から生まれた『秘蔵醤油』

『秘蔵醤油 』と 『秘蔵米酢』

「『人まねをしない』というのが、先々代からの教えでした。時間がかかってもいいものをつくりたいと思っていました」と森さん。
持ち前のアイデア精神と、学生時代に酵素などを研究してきた知識を活かし、新しいもの、自身が納得できるものを次々に生み出していきました。今、森文醸造の主力商品である熟成醤油もそのひとつだといいます。

「原料は愛媛県の裸麦(大麦の一種)と大麦です。通常、醤油は小麦と大豆を使いますが、この『秘蔵醤油』は小麦を使っていません。いわばグルテンフリーの醤油です」

もともと愛媛県の内子地方は、全国でも珍しい、大豆を用いず麦だけでつくる麦味噌の生産地。森文醸造でも裸麦でつくる味噌をつくっていましたが、ある夏、あまりの暑さに味噌が発酵しすぎてしまい、とても柔らかい味噌に仕上がってしまったそうです。

「これは失敗した、困ったと思って、その柔らかい味噌を醤油のもろみの中に混ぜたんです。そしたら驚くほど味がいい。調べてみると、麦由来の自然な甘みによって糖分が多くなっていて、いつもよりまろやかに仕上がっていました。これはいいということで、この醤油を新商品として売り出したんです」

『おふくみそ(麦味噌)(甘口)』も森文醸造の人気商品のひとつ。

失敗から生まれた醤油だったが、これが大変な評判となり、今では10カ国以上へ輸出しているといいます。
「特に、台湾や中国からの問い合わせが多いんです。聞くと、酢と合わせて小籠包のタレにすると旨みがあってとてもおいしいということ。また、グルテンフリーですから、ヨーロッパからも数多く問い合わせをいただきます。たまたま失敗したことで生まれた商品ですが、今ではうちの看板商品ですね」

また、おいしい醤油ができたことで、その醤油をベースとした、おいしいめんつゆやポン酢なども生まれたそうです。
「醤油がおいしくしっかりしていると、そこから派生した商品もとてもいい味わいになる。同業者にも、うちのめんつゆは醤油が違うねと褒めていただくくらいですよ」と森さんは笑顔で語ります。

『酢卵』開発のきっかけは
産後の奥様を元気づけたいという想い

人まねをしないことを心がけ、自社オリジナルのいい商品をつくることを心がけてきた森さんのもうひとつの代表作が『酢卵』です。改めて酢卵とはどのような商品か伺いました。

「もともと酢卵というのは、中国の家庭でつくられていた手づくり健康ドリンクでした。酢に卵を殻のままいれておくと、1週間ほどで殻が溶けていきます。そうしてつくるのが、オリジナルの酢卵です。しかし、これは、栄養があっても苦くてとてもじゃないけど飲めない。そこで、アセロラやゆずなどを入れて飲みやすくしたものがうちの『酢卵』です。酢も、通常の酢に加え、パパイヤやパイナップルを発酵させてつくった酢をブレンドしています」

たまたまアセロラをつくる生産者と縁があったことも大きかったと森さん。卵も信頼できる生産者による有精卵を使用し、自社のろ過しない、菌がそのまま生きている酢を用いています。そうすることで、ビタミンC、食物繊維が豊富な発酵ドリンクに仕上げているのです。

しかし、森文醸造が酢を醸造しているとはいえ、なぜ『酢卵』だったのか? 伺うと意外な答えが返ってきました。

「実は、うちの家内が出産の時に胎盤剥離になってしまい、産後、かなり体力的に落ちてしまって。そこで元気づけたいと思って調べ、行き着いたのが中国で飲まれていた酢卵でした。でも、実際につくってみると、あまりに飲みにくい。そこで味の改良を重ねてできたのがこの『酢卵』です」

誕生秘話を聞いて、「奥様に感謝ですね」、そう伝えると、にっこりと森さん。失敗から生まれた醤油や、奥様への想いから生まれた『酢卵』など、さまざまなきっかけから新しいものを生み出す力が、森文醸造の魅力だと言えそうです。

伝統的な製法を守り
発酵食を多くの人に届けたい

アイデアが豊富で、開発力に長けている森さんですが、一方で昔ながらの技術や知恵はとても大切だと語ります。
「麹をつくる際の種麹は森文醸造独自のものを使い、三日麹という方法で発酵させています。そうすることで、甘み、旨みの強い麹ができるんです」

三日麹は、米麹を3日以上かけてつくります。2日で十分に発酵するところ、ぐっと甘みが増す2日目をすぎ、3日目まで待つことで、アミノ酸が多くなり、麹の旨みが強くなると森さん。1日長く置くことで、コスト高になったとしても、おいしい麹は発酵調味料の核となるもの。三日麹でなければならないと森さんは言います。

醸造には木桶を使用。おいしさの源となる麹菌、酵母菌、乳酸菌などが住み着いた木桶でつくることで、森文ならではのおいしさが生まれます。
さらに低温熟成にもこだわっていると森さん。

「味噌や醤油を10度以下の涼しいところで1年以上寝かして低温熟成させています。発酵調味料の旨み、おいしさにつながるところですから、これからもこうした製法は守っていきたいですね」

定期購入しているお客様のところには、商品とともに森さん手書きの『森 酢卵研究所ニュース』という新聞を
届けており、ファンも多い。ニュースの中には発酵や健康に関する情報がもりだくさん。

そして、森さんは、できるだけたくさんの人に発酵食品を味わってほしいと続けます。

「人の腸を、なかでも日本人の腸を元気にするのは、味噌や醤油、酢といった昔から口にしてきた発酵食です。腸環境を健やかに保つことは、健康のために欠かすことはできません。健康的に暮らしてほしい、そういう思いを持って商品づくりを行っています。若い人にも積極的に発酵食品を食べてもらいたいですね」

長らくこの地で醸造業を営んできた森文醸造を支えるのは、昔ながらの技術と知識、「人まね」でない商品を世の中に生み出す力、そして人々の健康を願う思いでした。

森文醸造株式会社

森文醸造株式会社

住所:
愛媛県喜多郡内子町内子2240番地1
TEL:
0893-44-3057
FAX:
0893-44-4267

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