コーヒーと発酵
東京の真ん中に“風が通り抜ける”
コーヒーロースターカフェ 
<Little Darling Coffee Roasters>
			2025/10/30
コーヒーと発酵
2025/10/30
 
		 
		豆の精製、発酵、焙煎、抽出……。実はコーヒーも、発酵によって生まれる飲み物です。同じ品種でも、発酵の仕方ひとつでまったく違う味わいに。そんな“発酵の世界”を、日常の中で感じられるカフェを訪ねます。第1回目は、マルコメの米糀ミルク「KOJI BARISTA EDITION(コウジ バリスタ エディション)」の開発にも携わった赤川直也(あかがわなおや)さんが手がける、東京・青山の「Little Darling Coffee Roasters(リトル ダーリン コーヒー ロースターズ)」。発酵と焙煎の香りが漂うカフェで、赤川さんにお話を伺いました。
「新しい豆が届いたところなんです」と、生豆の入った袋を見せてくれたのは、「Little Darling Coffee Roasters」の赤川直也さん。トランジットグループのコーヒー事業を牽引する存在です。
「この豆はインドネシア・スマトラ島の『Adena Coffee(アデナコーヒー)』のもので、池袋のCOFFEE VALLEY(コーヒーバレー)の小池司さんから“今年は特別なロットがある”と紹介していただき、仕入れました。世界に2ロットしかない、非常に希少な豆なんです」


コーヒー豆は農園名入りの麻袋で輸入されるのが一般的だが、今回は「Little Darling Coffee Roasters」と、
インドネシア・スマトラ島の生産者「Adena Coffee」のダブルロゴ入りオリジナル袋で届いた特別ロット。

インドネシア特有のウェットハル製法(高温多湿の環境で早く乾燥させる方法。
生豆の外皮を湿った状態で剥いて乾燥させる独特の深みとボディを生む精製法と、
二段階発酵(ダブルファーメンテーション)によって仕上げられた生豆。
やや黄色がかった色合いとフルーティな香りが特徴。
「この豆は“ダブルファーメンテーション(二段階発酵)”で精製されているので、酸味や香りの出方が独特なんですよね。すでにサンプル焙煎は終わっていて、これから本焙煎に入るところです」
もともとコーヒーは“果実を発酵させて豆を取り出す”飲み物ですが、ここ数年はそのプロセスをあえてコントロールする精製法が注目されています。
「アナエロビック発酵(密閉タンクで酸素を遮断し、果実の甘みや香りをじっくり引き出す方法)や、カーボニックマセレーション(二酸化炭素の中で発酵させ、フルーティで華やかな香りを生み出す方法)など、ワインづくりにも通じる発酵法で、豆の個性を際立たせるんです。発酵や焙煎の仕方ひとつで、まったく違う表情になる。それが本当に面白いところ」

いくつもの焙煎プロファイルをテストしたサンプルロースト豆。
「香りや酸味、甘みの出方を見極めながら、豆の個性を最大限に引き出す“ゴール”を探ります」


赤川さん自ら、サンプルローストをドリップ。フルーティーな柑橘の香りと、飲み終わった後の爽やかな甘みが印象的。
「コーヒーフェストラテアート世界選手権2016」で世界第2位に輝き、日本ラテアート協会の理事も務める赤川さん。そのキャリアの始まりは、意外にも“和食”の世界でした。
「専門学校卒業後、滋賀県の料亭で2年半ほど板前をしていました。厳しい縦社会の中で多くを学びましたが、“この仕事を60歳まで続けられるのかな”と思ったのが転機でした。ベンチャー的なことをやってみたいと思って辞めたんです。そこで浮かんだのが“カウンター越しの仕事”。バーテンダーかコーヒーか──でもお酒は強くないので、コーヒーの道を選びました。」

「悩んで立ち止まるよりも、興味あるものはなんでも試してみたいタイプなんです」と笑う赤川さん。
静岡のスターバックスでアルバイトを始め、初めてエスプレッソマシンに触れたことで、コーヒーの奥深さに惹かれていった赤川さん。SNSで見たラテアートに衝撃を受け、東京のカフェを巡るように。そして、渋谷ヒカリエにオープンする『THE THEATRE COFFEE』の存在を知り、トランジットグループにアルバイトとして入社し、上京。
「お店で練習しているうちに、“もっと上手くなりたい”という気持ちがどんどん強くなっていきました。とにかく本格的な環境で、毎日練習を重ねたくて。思い切ってアメリカのオークションで業務用のエスプレッソマシンを落札したんです。マシンが25万円、送料も25万円(笑)。それでも“これで自宅でも練習できる”と思うと、迷いはありませんでした」

当時の練習の記録が今でも残る、赤川さんのInstagram。@akanihihi
努力の結果、2016年「コーヒーフェストラテアート世界選手権」で世界第2位を獲得。その後はトランジット本部で、新店舗のメニュー開発やマシン選定、スタッフ研修などに携わり、「自分たちの焙煎所を持ちたい」という夢を形にしました。
「誕生日に、社長に“焙煎場をつくりませんか?”とお願いしたんです(笑)。すぐに企画書をまとめて提案。そうして2018年にオープンしたのが『Little Darling Coffee Roasters』です」
「コーヒーをよりスペシャルなものにするために」──。
そんな思いから誕生したのが「Little Darling Coffee Roasters」。緑あふれる広場に面した倉庫跡地をリノベーションし、ポップアートやグラフィックの要素を融合。コーヒーとクリエイティビティが交わる空間を実現しました。

もともとは運送会社の倉庫として使われていたという広大な敷地。都心とは思えないほどの緑が深く、
のんびりとベンチでコーヒーを楽しむことができる。

焙煎から抽出まで一貫してこだわり、新鮮で香り豊かなスペシャルティコーヒーを提供。
ハンバーガーやホットドッグなどのワンハンドメニューも人気。
空間を最大限にいかし、イベントやマーケットなども定期的に開催されている。
「お店の場所を決めるまで、いくつも候補地を見て回りました。サンフランシスコのカフェ文化にあるような、西海岸らしい明るくて開放的な空間にしたかったんです。広々としたこの公園の景色を見たとき、“ここだな”と思いました。都会にいながら風を感じられる、日本じゃないみたいな開放感があります。店舗デザインも、そうした世界観に合わせて仕上げました」

焙煎機はドイツの老舗・プロバット社製。店内の一角に設置され、焙煎の音や香りが空間に心地よく広がる。
コーヒーが生まれる臨場感をそのまま感じながら、発酵と焙煎のぬくもりに包まれる時間を楽しめる。

豆はシーズンごとに世界各地から仕入れ、その時期の香りや味を最大限に引き出せるようにこだわる
コーヒーのパッケージは、アートブックのような佇まい。
味わいだけでなく″デザインを選ぶ楽しさ”もこの店の魅力のひとつ。
ここ数年、コーヒー業界でも“発酵”というキーワードが急速に広がっています。
アナエロビック発酵(密閉タンクで酸素を遮断し、果実の甘みや香りをじっくり引き出す方法)や、カーボニックマセレーション(二酸化炭素の中で発酵させ、フルーティで華やかな香りを生み出す方法)など、コーヒーの果実をあえて発酵させて個性を引き出す精製法が注目される中で、赤川さんはもうひとつの“発酵”にも出会いました。
それが、マルコメが発売している米糀から生まれたミルク「KOJI BARISTA EDITION」です。
「開発にも携わらせていただいたんですが、最初に飲んだとき、米糀由来の自然な甘みと香りに驚きました。ほかの植物性ミルクでは分離しやすいものも多いなかで、米糀ミルクは牛乳のように扱いやすく、コーヒーの風味を引き立ててくれるんです。それにアレルギーの心配がないのも大きな特徴ですね」




泡立ちがよく、ラテアートの表現もしやすい「KOJI BARISTA EDITION」。発酵から生まれたコーヒーと
米糀ミルクが、やさしい甘みと香りで響き合い、1杯のラテが生まれる。

「KOMEKOJI LATTE」は植物ミルクの新しい選択肢として、注目を集めているそう。
「米糀ミルクも、新しいスタンダードとしてもっと多くの人に知ってもらいたい。そういう思いで、メニューの“ミルクの選択肢”としてあえて詳細は書かずに掲載しています。『これってどんなミルク?』とお客様との会話が生まれ、興味を持って注文してくださる方も多いんですよ。
和食の世界で学んだ“発酵”や“旨み”の感覚も、いまのコーヒーづくりにつながっているんだとおもいます。次はコーヒー豆の生産地へ行って、発酵のプロセスを自分の目で体験すること。まだまだ探究は続きます」
 
			2014年にトランジットグループに入社。渋谷ヒカリエ『THE THEATRE COFFEE』でマネージャーとして活躍し、「コーヒーフェストラテアート世界選手権2016」で世界第2位を受賞。その後、本社のコーポレートバリスタとして新店舗のメニュー開発やスタッフ研修に携わる。2018年、同社初のオリジナルロースターカフェ『Little Darling Coffee Roasters』を開業よりマネージャーとして率い、各店舗の焙煎を担当。カメラにも精通し、メニュー撮影なども手がけている。
