世界の発酵食品探訪

<後編> 地方によって異なる多彩な発酵食。
料理研究家・橋本加名子さんの発酵タイごはん

2026/03/05

<後編> 地方によって異なる多彩な発酵食。料理研究家・橋本加名子さんの発酵タイごはん
<後編> 地方によって異なる多彩な発酵食。料理研究家・橋本加名子さんの発酵タイごはん

タイ料理のおいしさの秘密は発酵食にあり! 長年、タイの発酵を探求している料理研究家・橋本加名子(はしもとかなこ)さん。発酵の魅力を語ってもらった前編に引き続き、後編では北部、東北部、中央部、南部の4つの地方の代表的な発酵食材と料理を紹介してもらいました。

<タイ北部の発酵>
板納豆トゥアナオペーンとナムプリックオーン

古都チェンマイがあり、山岳地帯も広がる北部はかつてラーンナー王朝が栄えた地域で、独自の食文化が色濃く残っています。ミャンマー、ラオス、インドの影響を受け、料理はナムプラーではなく塩、乾燥唐辛子、スパイスを多用。納豆、漬物、茶葉を発酵させたものなど、山岳民族の保存食も豊富です。

板納豆トゥアナオペーン。粒状の納豆を細かくつぶして、平たくして干したもの。

北部を代表する発酵食は、橋本さんがタイの発酵に目覚めたきっかけでもある納豆トゥアナオ。主にタイ北部で作られています。

「トゥアは豆、ナオは腐るという意味。ゆでた大豆を葉に包んで、枯草菌によって発酵させます。平たくせんべい状にした板納豆をトゥアナオペーンといって、あぶってから調味料として使ったり、スープにしたり。菜花とトゥアナオペーンで作るスープはみそ汁のようなおふくろの味です」

ミートソース風のディップ、ナムプリックオーン。

ナムプリックオーンは北部の名物料理。板納豆トゥアナオペーンを香ばしくあぶってから粉末にし、ひき肉やトマトなどと炒めて煮込んだミートソース風のディップです。野菜や豚の皮を揚げたカリカリのケープムーにつけていただきます。ピリッとした味わいの奥に、納豆の旨みと風味を感じられます。

<タイ東北部の発酵>
発酵魚卵ソムカイプラーとロンソムカイプラー

東北部はイサーン地方と呼ばれる地域で、メコン川を挟んでラオスとも接しています。虫をタンパク源として食べる習慣があり、タガメ、アリの卵、カエル、干した淡水魚なども食べられています。

「淡水魚を米ぬかで発酵させたプラーラーという発酵調味料が有名です。タイ料理としてポピュラーな青パパイヤを使ったサラダのソムタムは、もともとイサーン地方で食べられていたもので、プラーラーで味つけしたものを指します。豚肉をもち米で乳酸発酵させたソーセージ、サイクロークイサーンもおいしいですよ」

ソムカイプラー。日本では淡水魚の魚卵が手に入らないため、たらこで代用して作ったもの。

淡水魚の卵を発酵させたソムカイプラーも名物です。野菜やもち米につけて食べたり、卵焼きに入れるのが定番の食べ方。

まろやかな風味の発酵魚卵のディップ、ロンソムカイプラー。

ココナッツミルクとソムカイプラーを煮た料理ロンソムカイプラーはまろやかで、塩気や旨みがたっぷり。野菜にディップして食べるとやみつきになる、お酒にも合いそうな味わいです。

<タイ中部の発酵>
発酵海老ペースト・ガピとカオクルックガピ

首都バンコクがあり、経済の中心でもある中部地方。海や川、肥沃な平原もあり、食材も豊か。交易の中心でもあるので海外の影響も受けています。中華系タイ人が多く、オイスターソースを使う料理が多いことも特徴です。

「グリーンカレー、ヤムウンセン、トムヤムクン、プーパッポンカリーなど、多くの人がイメージするタイ料理は中部のものが多い。タイを代表する調味料のナムプラーやシーユーカオという大豆の醤油も中部で作られています」

エビの発酵調味料ガピ。基本的に調味料として使うことが多い。

中部を代表する発酵食がガピ。オキアミなどの小さい海水エビを発酵させた調味料で、タイ中部以外でもミャンマー、ラオス、ベトナムなどの近隣諸国でも作られています。タイカレーペーストには必ず入っている旨みの素で、野菜につけてそのまま食べることも。

ガピを混ぜたごはんと色とりどりの食材をのせたカオクルックガピ。

ガピの味を堪能できるのがカオクルックガピ。カオはごはん、クルックは混ぜるという意味で、ガピの混ぜごはんです。ジャスミンライスにガピを混ぜて味つけしたガピライスのまわりに、豚肉を甘く煮たムーワーン、干しエビ、ナッツ、色とりどりの野菜を添えて、具材をしっかり混ぜて食べます。エビを発酵させた複雑な旨みに、トッピングのさまざまな食感が口の中で広がります。

<タイ南部の発酵>
海水魚の内臓魚醤タイプラーとゲーンタイプラー

プーケットなどのビーチリゾートも点在し、細長く延びるタイ南部。魚介類が豊富で、刺激的な辛さの料理が多め。マレー系、中華系、イスラム系とエリアによって多彩な民族が暮らし、食文化もバラエティに富んでいます。

「南部ではカブトガニの卵にマンゴーを合わせた料理も食べたことがあります。海産物が豊富な地域なので、発酵食は大量にとれて余ったものを保存するために作ったものが多いです。南部で代表的なタイプラーは小さいカツオやアジ、イワシなどの内臓と塩、砂糖を混ぜて発酵させた魚醤。魚を捨てるのがもったいないから生まれた調味料じゃないかと思っています」

海水魚の内臓を発酵させたタイプラー。クセのある味でカレーやスープに使う。

発酵麺やごはんにかけて食べる南部のカレー、ゲーンタイプラー。日本ではそうめんで代用。

海水魚の内臓の魚醤タイプラーは、どろっとしていて塩辛のような味わい。タイプラーを使った定番の家庭料理はゲーンタイプラーというサバを使ったカレーです。現地では発酵させた米麺にかけて食べることが多く、ココナッツミルクでほどよくまろやかになったコクのある味わいがクセになります。

それぞれの土地に息づく発酵の知恵はタイごはんの奥深い旨みの源です。
風土と暮らしが育んだ味わいに思いを巡らせながら発酵タイごはんを楽しんでみてください。

橋本 加名子(はしもと かなこ)さん

料理研究家

橋本 加名子(はしもと かなこ)さん

料理研究家

橋本 加名子(はしもと かなこ)さん

料理研究家、栄養士、国際薬膳調理師、防災士。海外留学と海外商社勤務時代にタイ、ベトナム、ラオス、広東料理、帰国後は懐石料理を学ぶ。料理教室「おいしいスプーン」を主宰する傍ら、飲食店のプロデュースやフードコーディネートに携わる。ライフワークとしてタイの発酵食を探求。著書に『毎日の腸活に役立つ 麹豆乳クリームレシピ』(ブティック社)、『発酵タイごはん100 本格的なタイ発酵料理が自宅で楽しめる!』(主婦の友社)など。

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