料理の匠、産地の匠

東京・赤坂「赤坂ひかわ」
料理長 田中勝氏 × 白子筍生産者 白井三郎氏【後編】

2013/06/11

おいしい料理の陰には、それをつくる料理人と産地から料理人を支える人々がいます。「料理の匠、産地の匠」では、毎回料理人が産地を訪れ、産地の匠とともに語り合います。

第二回となる今回は、東京赤坂にある割烹料理店「赤坂ひかわ」の料理長・田中勝氏が、京都府木津川市山城町(棚倉地区)で伝統の白子筍を育てる白井三郎さんを訪ねました。

鍬を抱え、いざ白子筍の育つ竹林へ

用意してもらった長靴にはき替え、筍堀りの鍬を受け取る。先端が平たく打たれた鉄の棒だが、これが非常に重い。持って歩くだけでひと苦労である。「ここ、ありますね」。指された場所を見ると、地面がわずかに盛り上がり、割れている。言われるまま鍬を入れ、15センチほど掘ると穂先が見えた。表面を傷付けないよう、少し離れた場所から鍬を差し入れる。体重をかけて筍の根元から押し上げると、市場で見せてもらったあの白子筍が姿を現した。「これはまだ小さいですわ」「こんなん放っといて(捨てておいて)ください」と白井さんは言う。

竹の根は何層にもなっており、上から順に筍が生えてくる。当然、層が深くなればなるほど地中にいる時間は長くなり、大きく良質な白子筍となる。今の時期、筍が生えるのはまだ浅い位置なのだという。「これ、このままいってもいいですか?」。驚く白井さんをよそに田中料理長は掘り上げたばかりの筍の根元をかじる。「いけますね、全然エグみもない。竹林で掘りたての筍を丸かじり、夢だったんですよね」と笑った。

白子筍の魅力、白井さんの魅力

ひとしきり掘り終えて作業小屋に戻り、掘ったばかりの筍を刺身でいただいた。爽やかで甘い若竹の香り。アクやエグみはまるで感じられない。市場で食べた炙り筍より淡白でクセはなく、さっぱりとしている。皆、この食べやすさのおかげでつい食べ過ぎるのだという。いくら刺身で食べられるとはいえ、やはり筍。刺激は強い。サッとお湯を掛けるといいそうだ。

根の粒々の部分まで真っ白、これが白子筍である。

白井さんはこの時期、竹林にある小屋で寝泊まりしている。土明さんは「朝の3時から酒飲みながら堀りよんねん」と笑う。早朝というよりは深夜、辺りは真っ暗。暖を取るにも小さなストーブがひとつ置かれているだけ。猪除けに電流柵が張られていたが、100キロを越す大物が小屋の横を通ることもあるという。そんななか、ひとり筍を掘る。「少しでも日に当らん、真っ白な良い筍を食べてもらいたいんでしょう」。そう話す土明さんの目は優しい。白井さん本人はあくまで控えめ、言葉少なだが、その人柄がにじみ出ている。私たちも白井さんの筍にはもちろん、その人柄にすっかり魅了されてしまった。

「美味しい」のひと言が何よりも嬉しい

穏やかでにこやかな白井さんだが、商品として出荷する筍を選ぶその目は厳しい。ほんの少し傷がついてしまっただけで、それがどんなに立派な大きさであっても出荷はしないという。私たちから見れば充分にきれいな筍も「こんなんはあきません」と小屋の奥にしまってしまう。その姿を見ながら「白井さんの持ってくるものは絶対的に信頼してます」と土明さんは話す。「やっぱり別格ですわ。あの人が持ってくるものはもう見んでもいいんです、間違ったものは絶対に入ってへんから」。

だが、選別の目が厳しい一方、値段に関しては「もう好きにつけてぇな」と頓着しない。「皆さんが美味しいって言ってくれはる、それが何より嬉しくて。それだけで充分なんです」。逆に「あかんの混じってませんでしたか?」と心配するのだという。「そう言われると逆にちゃんと評価して、ちゃんとええ値段で買おたろ思うんですわ」。

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