日本の伝統 保存食を極める

第六回 かつお節  築地(東京都中央区) 伏高

2014/02/07

季節を問わずに野菜や果物、魚介類が手に入るようになったのは、つい最近のこと。冷凍や輸送の技術が発達するまでは、その時期に手に入るものを食するしかなかった。

いつでも生鮮食料品が手に入る温暖な地域だったら旬のものだけで十分だけど、世界には気候や風土の関係で長い期間食料の確保が難しくなる土地もたくさんある。そこで発達したのが保存食。生鮮食料品を、発酵、乾燥、燻製などの技術で加工して備える。世界各国では今なお多くの保存食が工夫され、作られている。

食文化の土台を支える生活の知恵、保存食を極める旅。

第六回目は、世界でもっとも硬い食品といわれる「かつお節」です。

無形文化遺産を支えるだしの要

ユネスコの無形文化遺産に登録された日本料理は、季節の素材を活かしたヘルシーフード。いま、世界中でその価値が見直されていますが、かつお節は、昆布や煮干しと並ぶ日本料理における味付けの要。かつお節なくしては日本料理は成り立ちません。

東京の台所、築地に店を構える「伏高」さんは、大正7年に創業した老舗の乾物屋。三代目主人、中野克彦さんは言う。

「かつお節を削ってお湯に入れると、ほんのわずかな時間でおいしいスープができる。かつお節は、日本人が作りだしたすぐれたインスタント食品だと思います。ただし、一本のかつお節ができるまでに膨大な時間がかかっている。たとえば、何度かカビ付けした本枯節と呼ばれる一本は、職人さんが半年から1年かけて丹念に作ります」

手間ひまがかかればコストは当然高くなりますが、「まっとうな食材」を求めるプロの料理人や一般の消費者は後を絶ちません。

「やっぱりうまいものを食べた方が人間は幸せなんですよね(笑)」

生魚から水分を抜けるだけ抜くことでうま味をぎゅっと凝縮したカチカチのかつお節。削ってお湯に戻すと、そのうま味が香りとともに一挙に溢れ出す。かつお節は、まさに究極のインスタント食品です。このだしを使っただけで料理の腕が上がった気がするというお客さんの声も多いそうです。

かつお節の楽しみ方はいろいろ

上の写真。左は、カシやナラ、クヌギなどの堅木を燃やして煙と熱で水分を飛ばした「荒節」。節の表面にはタールが厚く付着していて、一般的に市販されている「花かつお」の原料にもなります。

右は、荒節のタールを削り取った後で、3~4回カビ付けと天日干しを繰り返してできる「本枯節」。このとき、節内の水分は15%以下になって、もはやカビを付けても水分が抜けない状態です。

荒節と本枯節を比べると、前者は味も香りも鮮烈。削った節の切れ端を口に含んだだけでも違いはわかります。

「本枯節は味も香りもよりまろやか。私個人としては、だしを取るならば仕上げ節。ご飯や豆腐にかけて食べるならば荒節がおいしいと思います」

一般に東日本では本枯節が好まれ、西日本では荒節が好まれるといわれているが、味は個人の好みの問題。一概には言いきれません。

だしの取り方も、好みの濃さも人それぞれ。中野さんには、素材本来が持っている味わいの特徴がよく出る取り方を教わりました。

「鍋はお湯が対流しやすい広口のものがいいです。お湯が沸騰したら弱火にして、水1リットルに対して80gの削り節を鍋に入れます。そのまま30秒間煮出しして火を止めて、削り節が鍋の底に沈んだタイミングで、だしを漉す」

味を濃くしたければ、煮出す時間を長くすること。ただし、時間が長ければ長いほど香りは反比例的に少なくなります。

荒節と本枯節の違いのほかにも、蕎麦屋がつゆのだしに使うような厚削りや、マグロ節やアジ節、血合付きか抜きか、腹節か背節かなどかつお節にはさまざまな種類があります。自分の好みや用途に合ったかつお節は、中野さんがやさしく指導してくれます。

日本の伝統を受け継いで伝える

かつお節を削る作業に挑戦してみました。

お店の松田さんに見本を示していただいた後でチャレンジしましたが、出てくるのは粉ばかりでなかなか上手に削れません。

両手をかつお節に添えて体重をかけながら下に押し込むように削る。アドバイスを受けてやっと少量削れましたが、ちょっとした重労働。その昔、おばあちゃんが台所で削っていたシーンを思い出し、今更ながら感謝しました。

「現代では削る人はほとんどいなくなりました。酸化を防ぐために酸素を除外したパックがあるから、削ったものを買い求める人が圧倒的に多いですね」

だし取りに使うかつお節の厚みは0.06~0.07mm。お好み焼きなどに乗っているかつお節は、0.03~0.04mm。微妙な違いが、食感や味を左右します。

かつお節を料理のだしに使うようになったのは江戸時代のこと。本物の味と香りを喜んで継承して後世に伝えましょう。無形文化遺産を守るのはわたしたちの仕事です。

鰹節 伏高

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