発酵に恋して。

映画「いただきます ここは、発酵の楽園」の監督が語る
「土」と「発酵」の関係

2020/01/09

映画「いただきます ここは、発酵の楽園」の監督が語る 「土」と「発酵」の関係
映画「いただきます ここは、発酵の楽園」の監督が語る 「土」と「発酵」の関係

医食同源にもとづく食事や、手作り味噌が持つ力をドキュメンタリーで描いた映画「いただきます みそをつくる子どもたち」(2016年公開)。その続編として制作された映画が、「いただきます ここは、発酵の楽園」です。

微生物の力に着目し、オーガニックの土壌や食物を作るファーマーの姿や、みずからの手で育てた米や野菜を食べて育つ園児たちの様子を、ドキュメンタリーで追う本作。そこに描かれていたのは、知られざるオーガニックの世界と、その恩恵をまっすぐに受けた人々のすこやかな姿でした。

本作の監督から撮影、編集、プロデュースまでを担当したオオタヴィン監督に、作品を通して伝えたいことと、「腸活」や「菌活」といった言葉が身近になった今だからこそ知ってほしい、オーガニックの話について伺いました。

「土」をキーワードに改めて
発酵を見直したかった

作品を手掛けたオオタヴィン監督。

「いただきます」シリーズ第2弾として制作された映画「いただきます ここは、発酵の楽園」ですが、前作撮影後の段階では続編の制作は考えていなかったそうです。それが続編につながったのは、奇しくも前作で紹介した、手作り味噌の存在でした。

「前作公開後、ありがたいことに食に関する多くの出会いに恵まれました。全国から新しい情報や取組みをしている人がいるといったことを、紹介してもらう機会が増えたんです。中でも、味噌というのは手の常在菌と麹菌がいっしょに発酵することで、たとえ同じ材料で作ったとしても作り手によって違う味になると知りました。今度はそれを描いてみたいと思い、菌についてきちんと調べ始めたところ、土も田んぼも実は発酵しているということを、農家の方が話していることに気づいたんですね。

味噌が発酵しているのは皆さんご存じだと思います。しかし、原料である大豆を育てる土が発酵しているとは、僕自身も思ってもみなかった。そこで、今度は土にフォーカスをしながら、発酵をもう一度捉え直したいと考えたんです」

微生物は、土も植物も人も守っていると話すオオタヴィン監督。

さらにオオタ監督は続けます。

「昨今では腸活や菌活が話題となっていますが、日本は江戸時代なんて農薬も化学肥料もありませんでしたから、全部がオーガニックだったはずなんですよね。野菜自体に膨大な菌がついていて、それを味噌汁などで食すことで日本人のDNAに合った菌活が普通の食事でできていたのです。そういった腸活、菌活の原点みたいなものを同時に描けたらいいなと思いました」

世界で見直されている
本当のオーガニックとは?

「腸活や菌活は特別なものではない」というオオタ監督。それには、ご自身の体験が大きく関係しています。

「大病したのを機に、医食同源・食養生を20年以上続けています。食事を全面的に変えたことで、病気をする前よりも元気になったかもしれません(笑)。もちろん、疲れを感じることもありますが、病院や薬にはほぼ頼らなくなりました。だからといって、すごく手の込んだ食事をしているわけではないんですよ。例えて言うなら、昔のおじいちゃん、おばあちゃんが家庭料理として作っていたもの、いわゆる伝統的な和食と発酵食品が中心の生活を送っています。

近年、私たちの菌に対する意識も変わってきていますよね。ちょっと前までは、菌といえばとにかく除菌・殺菌でしたけど、今は一部の病原菌を除くほとんどの菌が、健康に生きていくために必要なものだと認識されるようになりました。そして僕自身も、日々それを実感しているのです」

「いただきます ここは、発酵の楽園」のテーマは、「植物、微生物、ありがとう」。

また、世界ではオーガニックに対する考え方も大きな転換期を迎えているといいます。

「オーガニックとは、有機栽培で作られた野菜のことではなく、自然との接し方を指します。都合のいいように人間が作り替えたものではなく、本来の自然をもう一度見直そうという考えで、そこにはもちろん菌も含まれています。今、こうした動きはフランスやイタリア、アメリカ、中国など、世界中に広がっているんです。

一方、日本はというと、有機栽培の畑の割合は、先進国の中でも低いのが現状です。オーガニックで作物を育てるには、手間や時間もかかりますから、その分ちょっと高級な物という印象があるのかもしれません。本来であれば、一般消費者が購入することで有機農業を支えることになるはずが、まだそうなってはいませんから。
現状はオーガニックで育った作物が、それ以外の物と根本的に違うかということを知らない人が多いのではないかと感じています」

子供は正直。おいしい野菜は
パクパク食べる

無農薬のりんごを育てることに成功した、りんご農家の木村秋則さん。

微生物の活動にフォーカスした「菌ちゃん先生」こと、吉田俊道さん。

「アスリート玄米食」を開発した菊地良一さん。

「いただきます ここは、発酵の楽園」には、1978年から無農薬のりんご栽培を試み続けた、りんご農家の木村秋則さん、微生物の活動に着目し、土づくりからこだわった畑での野菜栽培を手掛けている「菌ちゃん先生」こと吉田俊道さんのほか、40年以上にわたり有機農業を行い、オリンピック選手団に無農薬・無化学肥料栽培の「アスリート玄米食」を開発・提供した菊地良一さんといったオーガニック農家の方々が登場します。

「僕はファーマーこそ、一番重要な職業だと思っているのですが、今回は特に深く感銘を受けた彼らに登場願いました。オーガニックの食物は、土の質、根、そして当然実も、素人目で見て違うことが、明らかにわかります。映画の中には菌ちゃん先生の畑で採れたにんじんを丸かじりする園児も登場しますが、あの子は撮影の後もずっと食べ続けていました。
それが、すべてを物語っていますよね。5歳の子は絶対に大人の顔色を見て合わせることもないし、いくら大人が言ってほしいと思ったことも言わないですから。子供が野菜を食べないのは、子供のせいじゃなくて野菜がおいしくないからなのだと思いますね。

吉田俊道さんの育てたにんじんを、おいしそうに丸かじりする子供たち。

そして、本当においしい野菜というのは、抗酸化力が高いので虫も食べることができない。虫も食べるくらいおいしいっていうのは、少し語弊があるんです。実際、映画の中で紹介した菌ちゃん先生の農場は、あれだけ広大なキャベツ畑にもかかわらず、虫に食べられたキャベツはほんの数玉だけでした。
しかし、温室栽培や化学肥料を使用すると、野菜自身も楽をしてしまって、みずから根を伸ばさなくなってしまう。いわゆる“温室育ち”の野菜は弱く、虫にも食べられてしまうわけです。これは、人間もいっしょですよね(笑)。りんご農家の木村さんが、『りんごと人間は同じように接したい』と話すのは、そういうことなんですよ」

「いただきます ここは、発酵の楽園」には、園児が自分たちで田植えから稲刈り、脱穀まで手掛けたお米をかまどで炊いて食べる様子や、泥んこになって田んぼ遊びや農作業をする姿も登場します。

園児たちは稲刈りもみずから行う。

「ああいう環境だったら、多分、土が汚いっていう感覚は育たないと思います。最近では、都内でも泥んこ保育を行っている園も数多くありますが、田んぼや畑となると、ある程度の広さが必要になってくるので、なかなか難しいんですよね…。

でも、今の生活のすべてを変える必要はありません。たまにオーガニックの野菜を買ってきてお子さんに食べさせるとか、小規模でもいいからベランダで野菜を育ててみるとか。そういったことの小さなきっかけに、この映画がなればいいなと思っています」

オオタヴィン監督

オオタヴィン監督

オオタヴィン監督

監督・撮影・編集・広告デザインを兼任した映画「いただきます ここは、発酵の楽園」は、2020年1月24日よりアップリンク吉祥寺にて公開。名古屋、山形、長野など全国の劇場で順次公開の後、自主上映が始まる。詳しくは、「いただきます ここは、発酵の楽園」公式サイトで。
©イーハトーヴスタジオ

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