発酵に恋して。

伝統的調味料や発酵食品、
昔ながらの韓国の農業を求め、
生産者を訪ね歩く。
韓国田舎料理研究 島田梢さん

2022/01/27

伝統的調味料や発酵食品、昔ながらの韓国の農業を求め、生産者を訪ね歩く。韓国田舎料理研究 島田梢さん
伝統的調味料や発酵食品、昔ながらの韓国の農業を求め、生産者を訪ね歩く。韓国田舎料理研究 島田梢さん

韓国では、テンジャン(味噌)、カンジャン(醤油)、コチュジャン(唐辛子味噌)など、代表的な発酵調味料をはじめ、さまざまな発酵食品が日常に根付いています。そんな韓国の料理の中でも、韓国田舎料理を研究し、昨年11月に韓国語で「発酵」を意味するスタジオ「Paryo(パリョ)」を立ち上げた島田梢(しまだこずえ)さんにお話を伺いました。

映像関係の仕事から
韓国料理の道に入り
韓国の無農薬農家を訪ねる旅へ

埼玉県小川町。近年、有機野菜の街として注目され、無農薬の農業や、無化学肥料ワインを醸造するワイナリーなどもある町です。今回お話を伺う島田梢さんが東京からこの町に引っ越してこられたのは昨年のこと。「寒いでしょう? ここは都内より1〜2℃は温度が低いんですよ」と言いながら、ご自宅に招き入れてくださいました。

韓国田舎料理研究を肩書きに活動する島田さん。島田さんのお父様は日本人、お母様は在日韓国人で、お祖母様が韓国のお惣菜やキムチなども提供する飲食店を経営していました。
しかし、島田さんが最初に就いたのは、韓国料理に関係する仕事ではなかったそうです。まずは、今のお仕事をするようになったきっかけから、お話を伺いました。

韓国田舎料理研究 島田梢さん

「卒業後、映像関係の仕事をしていたのですが、生活が不規則になってしまって。体の調子を整えたいと考え、行き着いたのが、漢方や薬膳でした。日本の医食同源と同様の意味で、韓国には薬食同源という言葉があるのですが、食から体を整えることは、私の体にあっている感じがしました。そこから韓国料理の世界に関心が移っていくことになります」

韓国料理について知るため、映像の仕事を辞め、2つの韓国料理店で働き始めることにした島田さん。ひとつはミシュランを獲得する都内の韓国料理店、もうひとつは神奈川県で農業を営みながら韓国料理を食べることができる料理店でした。どちらも化学調味料などを用いない自然な味わいを特徴とするお店です。そして最終的に神奈川県の韓国料理店での仕事に専念するようになります。

「店では、自家製のキムチを仕込んでいて、私が担当していました。味について、よく母や祖母に意見をもらっていましたね。祖母はどうしても私に対してあまいので(笑)、母の厳しい感想を参考にしていました」

ご自宅にはさまざまな保存食や発酵食が並んでいる

繁盛店のため、なかなか休暇を取ることができなかったという島田さん。忙しいなかでも韓国料理への研究心を高めたのが、半年に1度、食材調達のために行く韓国出張でした。

「出張を重ねるうちにだんだんと韓国の調味料や食材への関心が強くなって。働き始めて2年経った時、『行ってみたい場所があるので、1週間休みをください』とお願いして、有給休暇をもらったんです。そうして出かけたのが、韓国で有機農業をやりながら飲食店をやっているという場所でした。韓国国内の飲食店で働く機会はなかなかないので、とてもいい経験になりました」

翌年も休暇を取り、別の有機農家に1週間滞在した島田さん。

「そのうちに1週間では足りない。ここにも、あそこにも行きたいという思いが募ってしまって、お店をやめて、農作業を手伝いながら農家に滞在するなど、韓国のさまざまな場所を訪ね歩くようになったんです」

韓国で受け継がれてきた
伝統的な製法を知っておきたい

ここにもあそこにも行って、もっと知りたい、もっと長く滞在したい。それほどまでに島田さんにとって魅力的だったのは、韓国の伝統的な調味料であり、農作物であり、彼らの文化だったそうです。

「最初の関心は、伝統的な発酵調味料でした。韓国の都会のスーパーで買えるテンジャン(味噌)やコチュジャンは、工場でつくられたものが主です。でも地方の農家などでは、伝統的な方法でテンジャンを仕込んだり、昔ながらのやり方を守ってキムチをつくっています。そういう場所に行って、作り方を実際に見てみたいと思いました」

滞在した農家では、農作業のお手伝いをしながら、一緒にごはんを食べ、日本ではなかなか食べることができない素朴でおいしい韓国料理に出会うことができました。伝統的な調味料は菌の自然な働きで発酵させてつくるため時間がかかります。でも「それが料理をおいしくさせている」と感じたそうです。

島田さんが出会った場所のなかには、テンジャンやコチュジャンのもととなる『メジュ』を伝統的な製法でつくる農家もありました。『メジュ』は、日本の味噌における糀のような役割を果たすもので、蒸した大豆を発酵させてつくります。一次発酵に約1週間、二次発酵に50日ほどかかり、つくり方も複雑なため、近年伝統的な方法でつくる人は減ってきているそうです。

大豆を発酵させてつくる「メジュ」。島田さんは、メジュづくりのワークショップも行っている。

「メジュに関わらず、調味料などをつくる際、昔よりも工程を省き、簡易な方法でつくるところは増えています。でも、たとえ最終的に工程を省く選択をするのだとしても、何も知らずに省くのと、何のためにその工程があるのか、基本を理解した上で省くのでは意味が違うと思うのです。ですから韓国の人たちが、より菌が働いて発酵が進むように、よりおいしくなるようにと受け継いできた基本の工程を知っておきたいと思っています」

さらに韓国の野菜を日本でもつくりたいと考えている島田さん。農作業を体験することも食文化を知る上で、大変興味深いといいます。

「農家に滞在することで、日本では知り得ない韓国の食材や食文化にふれることができます。たとえば、韓国国内でも生の流通が困難だという木の実『オミジャ(五味子)』の収穫を手伝いました。オミジャは、完熟したものを収穫し、すぐにシロップ漬けにするか、乾燥させないと流通させることができないため、生のオミジャの収穫に参加できたことは貴重な体験でした。また、野草を取りに行くのを手伝ったこともあります。韓国では、それらの野草をシロップ漬けにしたり、水キムチにしていたのも興味深かったですね。野草のなかには日本にも生息しているものがあり、今では私も収穫して、料理に使ったりしています」

そうして韓国のさまざまな地域の、無農薬農家、自給自足の農家、野草農家、塩田などを訪ね、お手伝いをしながら、伝統調味料や発酵食品、保存食などを学んできた島田さん。
その学び、研究を伝えるため、ワークショップや食事会などを開催するようになります。

滋味ふかく豊かな味わい
発酵料理チョングッチャン

「韓国の発酵食の特徴は、気候風土もあってか発酵に長い時間を要すること。そして、どちらかというと厳格にきちんとつくる日本に比べ、お日様や風など自然の力に任せて、ある意味“ほったらかして”おおらかにつくるのが韓国らしいところだと思います」

今回、島田さんが韓国の発酵食として紹介してくださったのが、「チョングッチャン」です。チョングッチャンとは、大豆からつくる納豆に似た食材で、島田さんのワークショップでもつくり方を学ぶことができます。

チョングッチャン。納豆に似た粘り気と香りがある。

「チョングッチャンは、大豆を茹で、稲わらをその中に入れて、一定温度で置いて発酵させるものです。粘る感じや香りは納豆と似ていますが、納豆菌以外の枯草菌も働いているのが特徴です。これをペースト状にして、チゲなどに入れて食すのが主な食べ方。日本のようにごはんの上にのせて食べることはないですね。どちらかというと味噌と同様、調味料のように使います」

通常、韓国でチョングッチャンというと、食材としてのチョングッチャンと、そのチョングッチャンを入れたチゲ料理の両方を指します。街には、チゲ料理であるチョングッチャン専門店があり、韓国の人は日常的に食べているそうです。

チゲ用の鍋に入れて持ってきてくださったチョングッチャンには、豆腐やきのこ、玉ねぎ、じゃがいもなど、たくさんの野菜が入り、上には青唐辛子が刻まれていました。
一口いただくと、野菜の甘みと発酵食らしいコク、そして納豆に似た風味と旨味があります。青唐辛子がぴりりとよいアクセントです。
味噌のような味わいを感じ、思わず「お味噌も一緒に入っているのですか?」と聞くと、「味噌は入っていなくて、チョングッチャンだけなんですよ」と島田さん。
とてもおいしく、やさしい味わいにあっという間にいただいてしまいました。

やさしい味わいのチゲ料理「チョングッチャン」

「日本にはたくさんの韓国料理屋さんがあります。また、ブームということもあり、いろいろな韓国料理が紹介されています。そうした影響から韓国料理は赤くて、辛くて、にんにくをたくさん使うというイメージを抱く人が多いですが、それらは韓国料理のごく一部。実際には、野菜中心の素朴で滋味深いお料理がたくさんあります。私は、韓国の田舎で学んできたそんな料理を日本にもっと紹介していきたいと思っています」

島田さんは、現在、小川町でメジュを一からつくり、コチュジャンを仕上げるワークショップを開催したり、東京の拠点でキムチづくりのワークショップを開くなど、さまざまな活動をしています。また、今年は、11月に立ち上げたスタジオ「Paryo(パリョ)」での活動をさらに進めていきたいということでした。

Paryoでは、無添加で身体に優しいサムゲタンなどの料理や惣菜、発酵の知恵を活かした発酵調味料などをつくっています。それらをさらに発信し、多くの皆さんに知っていただけたらうれしいですね」

近年は新型コロナウィルスの流行もあり韓国に出かけることができていないそうですが、落ち着いたら再び韓国を訪れ、韓国田舎料理についてさらに学び、伝えていきたいと話してくださいました。

島田梢(しまだこずえ)さん

韓国田舎料理研究

島田梢(しまだこずえ)さん

韓国田舎料理研究

島田梢(しまだこずえ)さん

映像関係の仕事を経て、都内韓国料理店などで勤務。その後、神奈川県にある農業生産法人の参鶏湯専門韓国レストランにて料理長を務めながら農業にも触れていく。
2017年より韓国の無農薬農家や自給自足農家、野草農家や塩田など生産者を訪ね歩き、韓国の伝統調味料、発酵食品、保存食を教わり、研究・実践している。
現在は、韓国調味料のワークショップや、韓国食材を使った食事会を開催。発酵を生かしたレシピ開発などを行う。2021年You Tubeチャンネル「発酵農園」を開設。同年11月よりスタジオParyo(パリョ)を立ち上げ、参鶏湯など身体にやさしいお惣菜、発酵調味料の製造販売を行っている。

島田梢さん:
https://www.kozueshimada.com

スタジオParyo:
https://paryo.stores.jp

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