発酵人

きっかけは北欧レストランのアイディア。
自家醸造のすすめ

2022/02/03

きっかけは北欧レストランのアイディア。 自家醸造のすすめ
きっかけは北欧レストランのアイディア。 自家醸造のすすめ

さまざまな発酵食品を自宅で作って楽しんでいるという、発酵マニアの西塚大樹(にしづかともき)さん。パンから作る味噌や、黄えんどう豆の醤油、トマトのビネガーなど、あまり市販品では見られない発酵調味料を自家醸造しています。
そこで、発酵の魅力や難しさ、自家製の発酵調味料の数々について、お話を伺いました。

デンマークのレストランのレシピから
発酵の知識を逆輸入

最近は、自宅で手作りの発酵食品を楽しむ人も増えてきています。しかし、西塚さんが作る発酵食品は少しユニーク。例えば、日本の伝統食品でもある味噌は大豆や米、麦を原料とすることが一般的ですが、西塚さんはパンから味噌を作っているのだそうです。そんな西塚さんが発酵食品づくりにのめり込むきっかけになったのが、世界的に有名なデンマークのレストラン「noma(ノーマ)」の発酵レシピでした。

nomaは、世界のベストレストラン50で5度も世界一に輝き、2021年にはミシュラン三つ星も獲得した有名なレストランです。レストラン内には独立した発酵ラボがあり、常に発酵食品の研究・開発が行われています。冬が長い北欧では、食べ物を保存するため、昔から発酵文化が根づいていますが、nomaはその発酵文化をさらに発展させ、飲食業界に発酵ブームを巻き起こしました。
日本で暮らしている私にとって、味噌や醤油などの発酵食品はとても身近ですが、それまでは特別興味を持ってはいなかったんです。でも、nomaの取り組みを知り、逆輸入的に発酵食品の魅力を感じ、自分でも作ってみたいと思うようになりました。ですから、私が作る発酵食品は、すべてnomaのレシピがベースになっています」

西塚さん自作の黄えんどう豆の醤油。

発酵食品づくりは
試行錯誤の連続だった

西塚さんが作るパンの味噌は、見た目は一般的な味噌とほとんど変わりません。口に含むとほんのりと甘く、まろやかな風味が広がります。

「味噌づくりに使うのは、カンパーニュと呼ばれるハード系の硬いパンです。砕いて細かくして麹を合わせ、水分量を調節し、味噌玉のような状態にしていきます。あとは、一般的な味噌づくりと同様に保存容器にぴったりと敷き詰め、重石をして熟成させます。半年くらいだとまだ、かなり甘さが強いですが、1年程寝かせると深い味と香りが出てきます。
パンは粒子が細かいので、大豆や米よりも麹による分解が進みやすいといわれているそうです。そのせいなのか、このパン味噌は口当たりがとても滑らか。味噌汁を作ると、少しとろっとした優しい味になりますよ。
さらに、製造過程で柚子を加えて、柚子パン味噌を作ることもあります。果汁や細かくした実の部分を使うのですが、水分や麹とのバランスに気をつけないとカビが生えてしまうので、なかなか難しいですね」

こちらは柚子パン味噌。

また、味噌づくりに使う麹も手作りするのが、西塚さんのこだわりです。

「一度始めると、とことんやらなければ気が済まない性格なんです。麹づくりも15回くらい試行錯誤を繰り返して、ようやく納得のいくものができました。
麹づくりの大きなポイントは、温度と湿度の管理です。要素としてはシンプルですが、始めのうちは何度も失敗しました。麹菌はとてもデリケート。米の吸水率や時間にも細心の注意を払う必要があります。本や動画だけではわからない、実際にやってみたからこそ気づいたことがたくさんありましたね」

温度や湿度の管理も入念に行う。

ヨーグルトメーカーで
魚醤づくりにも挑戦!

西塚さんは味噌のほかに、醤油や魚醤、酢なども自作しています。醤油の原料は大豆ではなく、北欧やインドなどでよく食べられている黄えんどう豆です。出来上がった醤油は塩辛さが少なく、甘みが豊か。火入れをしていないので、さらりとした穏やかな香りと味が楽しめるそうです。

また、魚を発酵させて作る魚醤は、日本をはじめ世界各国で親しまれている調味料です。伝統的な製法では生魚と塩のみを用いますが、西塚さんは麹を加えることで、よりスピーディーで安定した発酵を可能にしているそうです。

「魚醤づくりにはヨーグルトメーカーを使っていました。麹菌が最も活発に活動する温度にヨーグルトメーカーを設定し、多いときで5台、部屋の中で昼夜丸々3ヵ月間稼働させ続けたこともありますよ」

自家製のお酢にも挑戦し、これまでレタスや生姜、バターナッツかぼちゃなど、いろいろな素材でビネガーを作ってきたのだとか。その中でも一番おいしかったというのが、トマトのビネガーです。

「トマトをざく切りにしてミキサーにかけ、アルコールと種酢を加えて発酵させます。ミキサーにかけたあと、こしてクリアにした物と丸ごとの2パターンを試しに作ってみましたが、やはり果肉ごと発酵させたほうが、旨味が複雑になっていておいしいですね。
水槽用のエアポンプで空気を送りながら3週間程発酵させたのち、味に深みを持たせるためにその後数ヵ月間寝かせました。味は一般的な酢に比べてマイルドで、とてもフルーティです。そのまま飲んでもツンとくる酸味がありません」

バターナッツかぼちゃのビネガーを作っている様子。

トマトのビネガー。

テクニックと自然による力との
せめぎ合いが発酵のおもしろさ

これまで約2年間、さまざまな自家製発酵食品に挑戦してきたという西塚さん。発酵食品づくりには、どのようなおもしろさがあるのでしょうか。

「一番の魅力は、発酵することによって、元の食材とはまったく異なる味や香り、形が生み出されることです。時間をかけてゆっくりと発酵させていく過程を見ていると、まるで自分自身も作り替えられているような感覚になっていきます。
微生物を相手にする発酵には、テクニックだけでは及ばない奥深さがあります。温度や湿度を徹底的に管理し、しっかりと戦略を立てていても、どうしても人間がコントロールしきれない部分があるんです。良くも悪くも、予想していなかった結果が生まれることがたくさんあって、そのせめぎ合いが発酵のおもしろさであり、難しさでもありますね。
今は、自分の作りたい物を自由に作っているだけですが、将来的には趣味の枠を越え、事業展開も視野に入れていきたいと考えるようになりました。小規模な醸造所で作られるクラフトビールのように、規模は小さくても個性的な発酵調味料を提案していけたらいいですね」

西塚大樹(にしづかともき)さん

西塚大樹(にしづかともき)さん

西塚大樹(にしづかともき)さん

飲食業界で長く働き、フードに関することから語学の勉強をしようと世界のレストランに注目していたところ、デンマーク・コペンハーゲンのレストラン「noma」の発酵ラボを知り、発酵に興味を持つ。コンブチャから発酵食品づくりをスタートし、その後、味噌、醤油、酢、魚醤、キムチなど、さまざまな発酵食品を自宅で手作り。味噌や醤油に使う麹も自分で作るなど、こだわりの発酵食品づくりを楽しんでいる。

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