世界を旅する料理人

ネパールに人生を捧げる
料理人・本田遼さんの作る伝統発酵食品

2020/11/05

ネパールに人生を捧げる料理人・本田遼さんの作る伝統発酵食品
ネパールに人生を捧げる料理人・本田遼さんの作る伝統発酵食品

ネパールといえば、カレーをはじめとするスパイス料理を思い浮かべるのが一般的かもしれませんが、実は発酵食品の豊かな国でもあります。

日本ではまだあまり知られていない、ネパールの発酵食品の発展に取り組むのは、東京・豪徳寺にネパール料理店「OLD NEPAL TOKYO」をオープンしたばかりの本田遼さん。20206月にネパール料理のレシピ本「ダルバートとネパール料理 ネパールカレーのテクニックとレシピ、食文化」(柴田書店)を上梓し、将来は現地での活動までを視野に入れ、ネパール食文化の普及に励んでいます。
そんな本田さんに、ネパール料理の魅力と発酵料理について語ってもらいました。

グンドゥルックは
無塩で発酵させる
ネパールの伝統的な漬物

まずは、ネパールの家庭風定食を、ご紹介しましょう。

この日のために特別に作ってもらったオリジナルのワンプレート。

真鍮のプレートにのった中央の小皿が、青菜を無塩発酵させて作ったグンドゥルックのジョール(ス―プ)。右の小皿は、ドライタイプのチキンカレー。バート(ご飯)の右側に盛られているのは、じゃがいも・なす・グリーンピースのタルカリ(おかず)。そして、ご飯の左側に小さく添えられているのは、アチャールと呼ばれるお漬物のような物で、素材は上がトマト、下が大根です。

このうち発酵食品は、スープの具となっているグンドゥルックとアチャールで、ともに乳酸発酵した野菜の発酵食品となります。

「このグンドゥルックは高菜を使っていますが、大根やカリフラワーなど、ほかのアブラナ科の野菜の葉で作ることもあります。素材を洗って、叩いて、天日で軽く干してから、塩を加えずに容器に詰め、日光にあてて発酵させます。23週間後に容器から取り出し、また天日干しして乾燥したものを保存して出来上がります」

乾燥した状態のグンドゥルック。料理には、これを水で戻して使います。

野菜の無塩発酵は世界的にも珍しく、同じく無塩で発酵させる長野県・木曽地方の「すんき漬け」と比べる人も少なくありません。
グンドゥルックには、乳酸発酵の酸味に加え、干すことで生まれるコクのようなものが感じられ、独特の滋味深さが特徴です。

「OLD NEPAL TOKYO」のシェフ、本田遼さん。

ダルバートは
料理のバランスが和食に似ている

本田さんは日頃から、さまざまなアチャールを作っており、お店では外の通りからガラス越し見える棚に、発酵中の漬物の瓶をたくさんディスプレイしています。
このように、陽の光をあてることで発酵を促進するのは、ネパールのやり方なのだとか。

右上の小皿から時計回りに、冬瓜、レモン、大根、青パパイヤ、カリフラワー、中央はニンニクのアチャール。

「アチャールは、野菜や果物など素材の味わいや食感に、乳酸菌による天然発酵で生まれた爽やかな酸味が加わって、ご飯やおかずのおいしさを盛り上げます。日本の漬物の感覚と、かなり近いのではないでしょうか。ネパール料理には、こうした漬物があり、味噌汁のようなダル(豆のスープ)やジョールがあって、バート(ご飯)、さらにおかずをワンプレートに盛ります。ネパールの庶民的な定食(ダルバート)は、それぞれのバランスが、和食にすごく似ているなあと思うんです」

ダルバートに魅せられ、
ネパール料理の奥深さに出合った

そんなダルバートのおいしさに本田さんが目覚めたのは、初めてのネパール旅行のとき。首都・カトマンズからトレッキングの起点となるポカラへ向かうバス旅の休憩の際、何気なく訪れた食堂でした。

「名もない普通の店だったと思いますが、とにかくそこのダルバートがおいしくておいしくて…。それからダルバートにハマりました」

その後、本田さんが「自分にはネパール料理だ」と確信したのは、南インド料理店「ゼロワンカレー」、スリランカ料理店「カラピンチャ」の店主と3人で、それぞれが専門とする地域である、南インド、スリランカ、ネパールを巡る旅に出たときだったそうです。

「南インドとスリランカは、なぜか自分に合わなかったんです。旅行中も、すぐにネパールのダルやアチャールが食べたいと思ってしまって…。そのとき、はっきりわかりました。やっぱりネパール料理が一番だと」

そんなネパール愛にあふれる本田さんは、2020年に2つの大きな仕事を成し遂げました。
ひとつは、大阪で営む「ダルバート食堂」「スパイス堂」の2店に加え、東京・豪徳寺に3軒目の店舗として、この「OLD NEPAL TOKYO」をオープンしたこと。

ディスプレイされている発酵食品が目を引く。

そして、もうひとつはレシピ本「ダルバートとネパール料理」を出版したことです。
しかし、出版までの道のりは平坦とはいい難く、憧れの出版社に企画書を送って売り込んだものの、最初はなかなか採用されず、やきもきする毎日だったとか。

「いい本にしたいと思って、担当の編集者とカメラマンにネパールまで同行してもらい、地元のレストランや居酒屋、市場などに案内しました。スタッフの皆さんにネパールの食文化について、深く知ってほしかったからです。そうしたら、めちゃくちゃ内容の濃い本になりました」

ネパール料理の基本となるダルやカレー、タルカリ、そして、発酵させて作るアチャールやデザートのレシピまで網羅。ネパールの食文化や現地のレストランガイドまで掲載され、美しい写真と装丁で彩られた本田さん初の著書は、発売早々重版が決定し、好評だそうです。

料理人が
ネパール人の憧れの職業になるようにしたい

将来は、ネパールで仕事をしたいという本田さん。

「現地では、一般的に料理人の地位は高くありません。飲食店で稼いだら店を閉めて、別の高給職に転職するような人も少なくない。だから、料理人がネパール人の憧れの職業になるように、ネパールの食文化や業界に貢献したいんです。いうなれば、食の分野の宮原巍(みやはらたかし)さんになりたいんです」

宮原巍さんとは、「エベレストの展望台」として知られる「ホテル・エベレスト・ビュー」を建て、ネパールの山岳観光の発展に多大な貢献をした日本人。
本田さんは宮原さんのように、ネパールの文化を発展させる大きな仕事を日本人として成し遂げたいのだといいます。

奥深いネパールの食文化について知れば、その料理のおいしさも格別になること間違いありません。ネパール料理を盛り上げる、本田さんの活動とネパール料理に今後も注目です。

本田遼(ほんだりょう)さん

本田遼(ほんだりょう)さん

本田遼(ほんだりょう)さん

1983年、兵庫県神戸市生まれ。和食の料理人を経て、2015年に大阪でダルバート専門のネパール料理店「ダルバート食堂」を開く。ネパールに人生を捧げる料理人の一人。2020年7月には東京・豪徳寺に「OLD NEPAL TOKYO」をオープン。

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