発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」
Vol.18 発酵ビギナーにも簡単! 料理家・三原寛子さんの「牛肉とセロリの発酵唐辛子炒め」
2025/06/12
Vol.18 発酵ビギナーにも簡単! 料理家・三原寛子さんの「牛肉とセロリの発酵唐辛子炒め」
発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」
2025/06/12
食にかかわるプロに、お気に入りの「推したい発酵食」を教えてもらう本連載。第18回のバトンを受け取ったのは、料理家の三原寛子(みはらひろこ)さんです。自他ともに認める食いしん坊である三原さんは、世界で出合ったおいしさを柔軟に取り入れ、作りやすく、食べやすくアレンジするのも得意。もちろん「発酵」が生み出す味わいも、三原さんの料理に欠かせない大切な要素です。今回は、穏やかな辛味と旨みが魅力の「発酵唐辛子」をご紹介。発酵唐辛子が決め手のさわやかな炒め物レシピも必食です!
「私の料理は、日本料理、中国料理、フランス料理といった“厳格な世界”ではないから、おいしいと感じたものを混ぜ合わせて、自分がやりやすいようにアレンジしているだけなんです」
そんなふうにやわらかく笑う三原さんは、さまざまな発酵食を手づくりし、日々の料理に取り入れています。
「発酵食には、体が元気になるパワーがありますね。私はここ10年ほど、友人たちと鮒鮓(ふなずし)づくりを習っているのですが、ある年の夏の盛り、作業でバテそうになったときに師匠が鮒鮓を切って出してくださって。ひと口食べたら、みるみる体がシャキッとして、リセットしたような感覚になったんです。微生物ってすごい、食べ物ってすごいと思った、忘れられない体験です。今は亡き師匠の思い出の鮒鮓は特別で、花のような香りと、得も言われぬ豊かな旨みがありました」
発酵がもたらす味わいは、料理に深みを与えるだけでなく、心にも体にも滋養を届けてくれる。発酵の力を体感するうちに、三原さんはますます発酵食に引き寄せられていきました。
三原さんが年中欠かさないようにしている発酵食のひとつが、「発酵唐辛子」です。
「中国を旅したときに出合って、自分でも作るようになりました。乳酸発酵の働きによって、ダイレクトに舌を刺激する辛味ではなく、旨みや酸味が調和した味わいに。刻んで、漬け汁とともに炒め物、スープなどに使います」
※赤唐辛子は四川料理でよく使われる二荆条唐辛子を、
青唐辛子は韓国の長唐辛子を使用。
3. 清潔なびんに①とAを入れ、②を熱いうちに注ぐ。粗熱がとれたら白酒を加え、唐辛子が漬け汁から浮かないよう、唐辛子の上にラップをのせて空気を遮断し、蓋をする。常温(できれば20〜30度の暖かい部屋で、冬ならぬるま湯にびんごと入れて保温)で乳酸発酵させる。1年ほど保存可能。
空気に触れると、カビがつきやすくなるので注意。漬け汁から浮き上がらないように、清潔なラップをかぶせる。
「長年、フレッシュな赤唐辛子や青唐辛子で作っていましたが、試しに乾燥唐辛子で作ってみたら、こちらもしっかり発酵しました。作り方は、生でも乾燥でも同じです。スパイスの香りも相まって、食欲をそそる万能調味料に。1年ほど保存できますが、おいしくて、たいてい1年しないうちに使い切ってしまいます(笑)。青唐辛子のほうは、スパイスを入れず、8%の塩水で漬け込んでいます。フレッシュさがあって、こちらも美味!」
発酵唐辛子の旨みを活用すると、調味料をほとんど使わなくてもぐっと奥行きのある本格的な味わいに。穏やかな辛味は、セロリやミントなど、香りの強い野菜やハーブともやさしく調和します。
3.発酵唐辛子、にんにく、しょうがを炒め、香りが出てきたら、②を戻し入れ、Aを加えて炒める。最後にミントを加えてざっと炒め合わせ、器に盛る。
発酵唐辛子はサッと加熱することで、辛味がマイルドになり、香りが引き立つ。
辛すぎないので、具材としても楽しめる。
ほどよい辛さで食欲増進! 冷房疲れを起こしやすい夏こそ、体を内側から温めてくれるおかずが頼りになります。ごはんはもちろん、冷たい麺とあえるのもおすすめです。
発酵食は、時間も手間もかかるもの。また、ときにはうまくいかずに腐敗してしまうこともあります。それでも、三原さんは発酵食づくりを「手間」とは感じていないようです。
「旬の野菜をたくさんいただいたときなどは、発酵が頼り。旨みも増して、さらに日持ちするようになるので、ついつい漬けてしまいます(笑)。旅先で食べた味を、日本の食材で再現してみるのも、おもしろいんですよ」
たとえば、ミャンマーやタイで食べられている乾燥納豆をヒントにした、納豆醤油麹もお気に入りのひとつ。
「納豆を90度くらいのオーブンでゆっくり乾燥させ、醤油麹と合わせます。蒸し鶏や野菜にかけたり、ごはんのお供にも最高です」
納豆と麹の旨みがギュッと凝縮!
また、常備しているというネパールやインドの「グンドゥルック」も、三原さんが最近、再現に成功した発酵食。グンドゥルックとは、乳酸発酵した青菜を天日干しした保存食で、水で戻して炒め物やスープなどに使います。
「ぬか漬けにしたかぶの葉を洗って干したら、グンドゥルックに近い味わいになりました。どうやったら身近な食材で作れるだろうと考えるのも、私なりの発酵の楽しみ方です」
発酵と乾燥の知恵で、保存食に。
旬の食材をおいしく無駄なく食べ切ること。そして、おいしい記憶をもとに、食材や菌の営みと対話しながら、暮らしに発酵を取り入れていくこと。
三原さんの発酵ライフには、そんな丁寧で自由な楽しさが詰まっていました。
次回は、中国郷土料理の名店「Matsushima」のオーナーシェフ、松島由隆さんにバトンを渡します。発酵を多用する中国少数民族の現地の味を追求する松島さんの「推し発酵食」は? どうぞお楽しみに!
料理研究家。「南風食堂」を主宰。雑誌でのレシピ制作や、料理店へのレシピ提供・監修、アーユルヴェーダの料理教室など、幅広く活動中。著書に『乾物の本』『南風食堂のホールクッキング!』など。
https://www.nanpushokudo.com