発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」

Vol.17 酒粕にも旬があるって知ってた!? 料理人・安田花織さんの「レモン酒粕」

2025/05/15

Vol.17 酒粕にも旬があるって知ってた!? 料理人・安田花織さんの「レモン酒粕」
Vol.17 酒粕にも旬があるって知ってた!? 料理人・安田花織さんの「レモン酒粕」

食にかかわるプロに、お気に入りの「推したい発酵食」を教えてもらう本連載。第17回のバトンを受け取ったのは、料理人の安田花織(やすだかおり)さんです。日本と韓国にルーツを持ち、それぞれの国の豊かな食文化に触れながら育った安田さんにとって、発酵の知恵を学び、日々の暮らしに生かしていくことは大きなテーマのひとつ。そんな安田さんが、数ある“推し発酵食”のなかから選んだのが、「酒粕」です。酒粕がもっと身近に、ぐっと使いやすくなるアイデアと、夏にぴったりのレシピを教えていただきました。

発酵とともに暮らす

安田さんにとって、発酵食づくりは暮らしと密接に結びついたもの。春の山菜の塩漬けや豆板醤作りに始まり、夏には鮒鮨の漬け込み、秋から冬にかけてはへしこやキムチ作りにコチュジャン、みその仕込みと、1年を通して発酵のある日々を送っています。
「発酵食って、同じように作っても同じにならないのがおもしろい。たとえば先日は、淡路島に湧き出る3つの湧水で水キムチを漬けたんです。違いは水だけ。それなのに3種それぞれ味わいが違って、驚きました。改めて発酵の奥深さを感じるとともに、その土地でしか作れないものがあることにも気づかされました」

リビングの棚には、さまざまな手作り発酵食が熟成中。

安田さんの自宅のリビングには、手作り発酵食のびんが並ぶ一角があります。レコードと発酵のびんがふしぎと調和して、すてきなインテリアに。
「目に入るところに置いておくの、おすすめです! 色や形状の変化に気づいて楽しめるし、何より作ったことを忘れないでしょう? キッチンの奥深くにしまうと、うっかり存在を忘れちゃったりしますから(笑)」

右のびんは、へしこ作りで出た魚の頭を米麹と塩に漬けにしたもの。発酵が進み、魚醤が上がってきている。
左の布巾がかかったびんは、韓国のメジュ(豆麹)を使って仕込んだコチュジャン。

夏に旬を迎える“練り粕”は使い勝手抜群!

左から「バラ粕」、「練り粕」「熟成粕」。バラ粕とは、酒粕を圧縮したときに板状にならずに崩れたもの。
熟成粕は、酒粕を長期熟成させたもの。漬け床などに使われる。

数ある発酵食品のなかでも、とくに安田さんがレシピを伝えたいと考えているのが「酒粕」です。
「発酵食に興味がある方からも、酒粕にはなかなか手が伸びないという声をよく聞きます。アルコールの独特の香りが苦手、という人も多いみたい。でも、酒粕って栄養価も高いし、食品の保存性も高めてくれるし、何より発酵の力で旨みも増す。使わないのはもったいないな、と思うんです」

酒粕は、日本酒を作る過程で生まれる副産物。米と麹を発酵させてできたもろみをしぼると、液体部分は日本酒に、残った固形分は酒粕になります。
「お米のデンプン質を麹菌が糖に分解し、その糖を酵母により発酵させると、アルコールが生まれてお酒になります。でも、日本酒ってとても贅沢な作り方で、米がすべて発酵する前の味や香りがちょうどいい時点でしぼるんです。だから、酒粕って実は“カス”じゃないんですよね。体にうれしい栄養がたっぷり残っているんです」

とくに安田さんのおすすめは、板粕よりも発酵が進んだ“練り粕”。

「酒粕の発酵は続いているので、時間がたつほど分解が進みます。もろみを圧搾してできた板粕が、発酵によってだんだん溶けてペースト状になったものが練り粕で、夏ごろからがたくさん出回る“旬”。発酵によって旨みが増し、さらに消化吸収もしやすくなっている練り粕は、夏を元気に乗り切るための頼もしい味方でもあります。アルコールの作用で食品の保存性を上げてくれる上、練り粕自体に塩分を含まないから調味がしやすいのもうれしいポイントです」

さわやかでコク旨!練り粕で作る「レモン酒粕」

酒粕の旨みとレモンの香りを合わせて、便利な万能ペーストに。レモンを、柚子やすだちに代えて作るのもおすすめです。

  • [材料]
    レモン1個(約130g) (無農薬のもの)
    酒粕200g
    10g
  • [作り方]
    1.レモンは洗って皮をすりおろし、白い部分と種を除いて果肉をほぐしながら入れる(果汁をしぼってもOK!)。
    2.ボウルに①、塩を入れ、塩をとかしてから酒粕を加え、泡立て器でなめらかになるまでまぜる(板粕を使う場合はフードプロセッサーにかけると作りやすい)。

    3.アルコールが飛ばないように密閉容器に入れ、冷蔵室で保存する。アルコールが揮発しなければ2〜3年保存可能。

    果汁はもちろん、レモンの皮に豊富に含まれる香り成分がポイント。
    マイクロプレインタイプのおろし金を使えば、皮のすりおろしもラクちん!

酒粕を使いこなして、旨みも保存性もアップ!

出来上がった「レモン酒粕」は、肉や魚に塗って漬け床としたり、スープにコクを加える調味料として活用したり、お酒が飲める方なら加熱せずにディップやソースにして使っても美味!
「ポイントは、やっぱりレモンの香り。まず口に入れた瞬間に、レモンの香りがふわっと広がって、アルコールの匂いをマスキングしてくれるんです。酒粕の香りが苦手という方も、柑橘類やスパイス、ハーブなどを組み合わせると、きっとイメージがガラリと変わると思います。そのままバニラアイスにのせたり、チーズと合わせるのもおすすめ。アボカドやタコと和えるのも最高です……!」

さわやかでコクのあるレモン酒粕を使って、夏にうれしいとっておきのごちそうスープはいかが? オリエンタルな雰囲気も、夏っぽさ満点です。

鶏のレモン酒粕ココナッツスープ

  • [材料](2〜3人分)
    鶏肉250g (手羽元・手羽先など骨付きのもの)
    レモン酒粕大さじ1
    かぶ1〜2個
    ココナッツミルク1/2缶(200ml)
    魚醤大さじ1と1/2
    適量
    コブミカンの葉2枚 (あれば・レモングラスやカレーリーフでも)
    しょうがの千切り、パクチー各適宜
  • [作り方]
    1.鶏肉は洗って水けをふき、レモン酒粕をもみこんで、冷蔵室で半日〜3日ほどおく。
    2.かぶは食べやすい大きさに切る。
    3.鍋に水250mlと①、コブミカンの葉を入れて、煮立ったら弱火で20〜30分煮る。好みのタイミングでかぶを加える。
    4.ココナッツミルクと魚醤を加え、塩で味をととのえる。レモンの風味やコクが欲しい場合は、レモン酒粕を足す。器に盛り、好みでしょうがやパクチーをのせる。

「たとえば、鶏肉の大容量パックをレモン酒粕に漬けておいたら、今日は200gを煮物に使って、50gは翌日のスープの具材&味だしに、3日目は残りを唐揚げに、といった具合に、いろいろな料理に展開できます。レモン酒粕の塩分は低いので、みそ、塩、しょうゆ、魚醤など、和洋中エスニックとアレンジ自在です。酒粕に漬けておくと冷蔵室で5日は保存可能なので、鮮度を気にせず使えるのもいいですよね。5日以上になりそうならそのまま冷凍室へ移せばOKです」

酒粕を通して、日本の酒蔵を応援!

日本酒醸造の過程で必ず生まれる酒粕。しかし、近年は需要の減少から、廃棄される酒粕も多いといいます。

「水にも米にもこだわって丁寧に仕込まれた日本酒の副産物だから、酒蔵ごとに個性があって、それも酒粕のおもしろさです。お酒はあまり飲めないけれど、日本の発酵文化に興味があるという方にも、酒粕はとてもおもしろいと思います。「米粒が残る酒粕だから、香りのよいきれいな味わいの酒を目指しているのかな」「フレッシュな香りだけど柔らかいのは、雑味が出ないようにしぼった大吟醸の粕かな?」といった感じに、飲めなくても楽しめるし、旅先で酒蔵見学するときにも視点が増えると思います。蔵の人の技術やそれを支える道具のこと、酒粕を通して見えてくる世界、すごくすごくおもしろいです。ああ、話し始めたら止まりません……(笑)」

酒粕のことを知ると、旅の楽しみも増える、と安田さん。常温でも保存できる酒粕は、その土地ならではのお土産としてもおすすめです。
「酒粕の魅力がもっと伝わって、おいしく食べる人が増えれば、それはきっと頑張っている酒蔵さん、米農家さんへの応援にもつながるのかなって思っています。酒粕をフックに、旅先での酒蔵見学もおすすめです!」

次回は、三原寛子さんにバトンをつなぎます。三原さんの推し発酵美食もどうぞお楽しみに!

安田花織(やすだかおり)さん

安田花織(やすだかおり)さん

安田花織(やすだかおり)さん

料理家。在日韓国人の祖母と農家の日本の母の味、ふたつの豊かな食文化に触れながら育つ。土地に根ざした食文化を学びに各地に足を運ぶかたわら、先人たちの知恵を今の暮らしに落とし込む料理教室や食のイベントを開催。
https://yasuda-ya.com/

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