発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」
Vol.25 日本酒と中華料理のおいしい関係。
SUGAR Sake&Coffee 佐藤健一さんの
「発酵高菜の炒め物」
2026/01/15
Vol.25 日本酒と中華料理のおいしい関係。SUGAR Sake&Coffee 佐藤健一さんの「発酵高菜の炒め物」
発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」
2026/01/15
食にかかわるプロに、お気に入りの「推したい発酵食」を紹介いただく本連載。今回は、東京・阿佐ヶ谷の人気居酒屋「SUGAR Sake&Coffee」を訪ねます。
店主の佐藤健一(さとうけんいち)さんは、青森県出身の元システムエンジニア。発酵食品が日常に根づく土地で育った佐藤さんが推すのは、「高菜漬け」です。自家製の発酵高菜漬けと、手軽なのに本格的な味わいの炒め物の作り方を教えてもらいました。ごはんのおかずにはもちろん、酒の肴としても最高! 高菜漬けは、寒さが厳しい冬が仕込みどきです。

高校卒業後に上京した佐藤さん。故郷では当たり前だった料理の数々が、東京ではなかなか口にできないことに驚きを覚えた、と振り返ります。
「たとえばサメの頭肉で作る“すぐめ”。青森ではサメの頭が普通に売られていて、家庭料理にもよく登場しました。すぐめは、『酢でくるむ』が語源と言われていて、ゆでたサメの身を酢や味噌で調味したもの。実家では、ゆがいたキャベツも入っていたなぁ……。それから、カスベ(エイ)の酢の物とか、正月料理“けの汁”とか。郷土料理と意識することなく食べていた家庭の味が、好きな味の原点になっています」
実は佐藤さんは、本連載Vol.16に登場した、「にほん酒や」の店主・高谷謙一さんと同じ高校の出身。エンジニアとして就職後、飲食の世界に転身したというキャリアも重なります。高谷さんのもとで腕を磨いた時期もありました。
「高谷さんも郷土料理に関心が深い方。『にほん酒や』での経験を通して、故郷の味を再発見した部分も大きいですね。自分で店を始めてからも、“そういえば、こんなの食べていたな”と津軽料理からイメージをふくらませ、メニュー化することも多いです」

漬けたて(左)と漬けて3週間以上たったもの(右)。冷蔵室でもゆるやかに発酵が進む。
佐藤さんが自家製の高菜漬けを作るようになったのは、「近くの八百屋さんに、たまたま並んでいるのを見た」ことがきっかけだそう。
「生の高菜はスーパーなどではあまり目にすることがないかもしれませんね。お店のある阿佐ヶ谷にはネパールの方が多く住んでいて、彼らの食文化でも高菜はよく用いられています。ネパール料理に欠かせないグンドゥルック(青菜を天日干しして無塩発酵させたもの)も、高菜で作られることが多いそうです。こうした背景から、近隣の八百屋さんでも扱うところがあるのだと思います」

ずっしり重みのある高菜。冬から春にかけてが旬。
「中華料理では、発酵白菜がよく使われていて、お店でも漬けています。高菜も同じ要領で漬けられると思って試してみたのが始まりです。高菜漬けを作り始めてから、高菜漬けと馬肉を炒め煮にする料理や、冬場の緑野菜不足を補うため、粕汁に高菜漬けを加えて食す文化が青森にあることを知りました」
「最後に少量の酢を加えることで、雑菌の繁殖を抑えるとともに、乳酸発酵を穏やかに。食べやすい味わいに仕上がります。高菜が手に入らないときは、白菜でも同様に作れます。
漬け込んだ高菜からは徐々に水が上がってきます。液面から高菜が出ないようにラップなどをかぶせて密閉すれば、冷蔵室で2〜3カ月保存可能です」

漬物というと「ごはんのお供」のイメージが強いかもしれませんが、この高菜漬けは「調味料」としても活躍します。
「“辛味のないキムチ”と考えると、調理での活用法がイメージしやすいかもしれません。炒め物だけでなく、チャーハン、スープなどにも、便利に使えますよ」
まろやかな酸味と旨みに、ふわりと香りが立ち、いつもの料理を“お店の味”へと格上げしてくれます。では、SUGAR Sake&Coffeeでも大人気の一品、高菜漬けと豚バラ肉の旨みを春雨に吸わせた、絶品料理をご紹介します。
※豚かたまり肉(バラ肉・肩ロース肉など)を水からゆでた、ゆで汁。
400mlの水に100gの豚ひき肉を入れて混ぜ、火にかけて煮立ったら弱火で煮出したものを使っても。または、鶏ガラスープのもと(顆粒)小さじ1を湯でといたものでもOK。その場合は、ナンプラーを小さじ1にして調整する。
4.スープ、紹興酒、ナンプラー、②を加え、汁けがなくなるまで中火で煮る。ごま油を回しかけ、ざっと混ぜる。味を見て、塩、ナンプラー、高菜漬けの漬け汁などでととのえる。

高菜漬けは食べやすい長さに切ってもよい。
「豚肉は脂多めがおすすめです。とけだした脂の甘みに、高菜の旨みが合わさって、コク深い味わいに!」

中華料理をベースにした創作料理を日本酒とともに楽しめるのも、SUGAR Sake&Coffeeの魅力です。もちろん高菜の炒め物と燗酒のペアリングも、言うことなしの最強タッグ!高菜漬けの乳酸発酵由来の酸味と旨み、豚バラ肉のコク、そこに燗酒のやわらかな香りとすっきりとした甘みが重なり、口のなかで心地よい一体感が生まれます。
「日本酒には、それ自体に旨み成分が含まれているので、和食だけでなく、世界の料理と違和感なくマッチします。口中調味、というのかな。料理の味が舌に残っている状態で燗酒を流し込むと、また味わいが広がっていくような、そんな感覚が楽しめます」
確かにSUGAR Sake&Coffeeのメニューリストに目を落とせば、中華料理だけでなく、津軽の郷土料理、タイ料理、フレンチやイタリアンの要素が入った料理など、多国籍な顔ぶれが並びます。
「イタリアンやタイ料理も大好き。レストランで『絶対に日本酒と合うな』と思うことも多くて。だから、自分の店でやっています(笑)」
そう無邪気に笑う佐藤さん。「自分が食べたい」という究極の好きを表現しているからこそ、訪れる人にも驚きや発見があり、何より“食の楽しさ”がまっすぐに伝わってくるのでしょう。

「特に、香りのある料理と燗酒は、すごく合わせやすいと思うんです。インドカレーと燗酒のお店を営む先輩もいらっしゃるのですが、スパイスやハーブともよく合う。今回の高菜漬けの炒め物も、香りの楽しい一品です。チーズともすごく相性がいいんですよ。チーズの旨みを、燗酒が口のなかでさらに溶かしてくれるような、口中調味の妙が味わえます」
ジャンルにとらわれず、日本酒と料理の可能性を広げていく。その楽しさが、佐藤さんの表情からもうかがえます。
「今、発酵で気になっているのは、パン。粉と水と塩だけで作るシンプルなパンに、カレーを添えて、そこに燗酒を合わせたらどうだろう、なんて妄想しています」
佐藤さんの日本酒と料理をめぐる探求は、さらに自由に広がっていきそうです。
次回は、佐藤さんも大好きという千葉県市川市の日本酒バー「サケフク」にお邪魔します。どうぞお楽しみに。
青森県弘前市出身。システムエンジニアとして就職後、飲食業に転身。日本料理店での勤務後、東京・吉祥寺「にほん酒や」での修行を経て、2016年にSUGAR Sake&Coffeeを開店。日本酒・燗酒をメインに、中国酒も幅広くそろえる。
住所:東京都杉並区阿佐谷南3-34-9フォレストワン2F
TEL:03-6279-9451
定休日:火・水曜、不定休あり
Instagram:@sugar_sakeandcoffee