発酵を探しに沖縄へ
沖縄・本部町から届ける、暮らしを豊かにする発酵の力
受け継いだ糀文化を未来へつなぐ
「もとぶ糀の里 工房みら」
2026/08/27
発酵を探しに沖縄へ
2026/08/27
沖縄本島北部・本部町で、糀を使った発酵食品づくりに取り組む「もとぶ糀の里 工房みら」の嘉手苅基(かでかるもとき)さんと舞子(まいこ)さんご夫妻。米糀や甘酒、塩糀、しょうゆ糀をはじめ、沖縄の食材を掛け合わせたオリジナル商品などを生み出し販売しています。そのルーツは、母である上江洲一美さんが始めた「琉球発酵食」の料理教室。長年培ってきた発酵の知恵を受け継ぎ、2023年に2代目として工房を引き継ぎました。製造だけでなく、ワークショップや直売所としても地域に開かれた場所へ。発酵を通じて、人と人とのつながりを育む工房の歩みを伺いました。
「母が10年以上前に始めた『琉球発酵食』の料理教室が、すべての原点です。料理教室では、半年間かけて発酵について学ぶ講座などが開催され、これまでの卒業生は600人以上、発酵食品を取り入れたカフェメニューの開発、料理教室の開催など、みなさんそれぞれの場所で発酵の魅力を広げています。発酵を一から学んだ方たちが、自分のお店や暮らしの中で活用してくれていることがうれしくて発酵が人から人へ広がっていることを感じています」と語るのは店主・舞子さん。ご夫妻はもともと沖縄本島南部で暮らしていましたが、子育てをするなら自然豊かな北部で暮らしたいという思いがあったそうです。
「自分は10年以上、整形外科のリハビリの仕事をしていました。高齢者の方と接する機会も多く、人の健康や体づくりにはずっと関心があったんですね。母のもとで発酵について学びながら、製造の技術や知識を身につけ、そして2023年8月、正式に2代目として工房を継承しました。母は料理教室に専念したいという思いがあったので、料理教室と製造部門を分ける形になりました。母が築いてきたものを大切にしながら、自分たちは工房として発酵食品づくりを続けています」と語るのは基さん。

納豆と米糀を組み合わせて作る「糀納豆」。
納豆の旨みに、糀由来の自然な甘みとまろやかなコクが加わり、ご飯のお供としても人気。

現在の工房は、製造所でありながら、ワークショップや直売所の役割も担います。この場所との出会いは実は偶然でした。
「不動産屋さんに、まだ公開前の物件があると言われたのがきっかけでした。以前は民泊として使われていた場所で、木の雰囲気やテラスがあって、発酵食の空間に合うと思ったんです」
以前は別の場所を借りてワークショップを開催していましたが、新しい工房では製造から体験、販売まで一つの場所で行えるようになったそうです。
「お子さん連れの方も気軽に来ていただける場所になりました。発酵をもっと身近に感じてもらえる場所にしたいと思っています。発酵食品づくりで大切なのは、やっぱり温度や状態の管理。糀は生きものなので、子どものように見守る感覚があります。元気な状態に育てるためには、温度管理など細かな気配りが欠かせません。手間暇を惜しまず育てた糀だからこそ、商品を手にしたお客様から「おいしい」「また買いたい」という声が届くのかもしれません。毎回そういうお声や反応をいただくと、丁寧につくってよかったなと思います」

糀甘酒。工房みらが大切にしているのは、「発酵は特別な健康法ではなく、毎日の暮らしに寄り添う食文化」という
考え方。甘酒もその象徴。

塩糀から始まり、玄米糀の個性を知り、玉ねぎ塩糀で手軽さを実感し、醤油糀や玄米醤油糀で料理の幅を広げる――。使う人の発酵の楽しみ方が少しずつ深まっていくような商品構成。

玄米糀や米糀をはじめ、甘酒や発酵スイーツまで。工房みらでは、糀のやさしいおいしさを毎日の暮らしに
取り入れられる商品を、一つひとつ丁寧に手づくりしています。
工房みらの特徴は、沖縄の食材と糀を組み合わせた商品づくり。人気商品の一つが、母の代から受け継ぐヤンニョム。

「韓国の発酵文化をベースにしながら、沖縄らしくアレンジしています。辛さが苦手な方でも食べやすいように、りんごやハチミツを加えています」
みそ汁に少し加えたり、炒め物やチャーハン、ヤンニョムチキンの味付けに使ったりと、家庭で手軽に楽しめる万能調味料として人気を集めています。
また、沖縄ならではの「かちゅー湯味噌」も注目の商品。
「沖縄では、鰹節をたっぷり使った料理が多く、かちゅー湯も日常の中で受け継がれてきた家庭の味です。工房みらのかちゅー湯味噌は、そんな昔ながらの食文化を、現代の暮らしに取り入れやすい形にした商品です」
沖縄の食文化と、工房みらが大切にする発酵の知恵が息づいています。
現在では、工房みらの商品が地域の店舗だけでなく、沖縄北部を中心に取り扱い先も広がり、ホテルや飲食店でも調味料として採用されるなど、プロの現場にも届けられています。また、ワークショップでは70代、80代の参加者が糀づくりを楽しむ姿も。

「年齢に関係なく、発酵に興味を持ってくださる方が多いです。皆さん楽しみながら作っています。発酵は、世代を超えて人をつなぐコミュニケーションツールだと実感しています」
小さな工房から始まった発酵の輪は、地域へ、そして沖縄全体へ広がっています。
「自分たちらしい工房として、発酵の魅力を伝えていきたい。商品を届けるだけではなく、ここに来ることで発酵や沖縄の食文化を楽しんでもらえる場所にしていきたいです」
本部町の自然の中で、今日も糀は静かに育っています。