発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」

Vol.32 発酵と薪火。香りが重なり合う、
aeru(アエル)中村俊也さんの
「ぬか漬けきゅうりとさばといちじくの和えもの」

2026/08/20

Vol.32 発酵と薪火。香りが重なり合う、aeru(アエル)中村俊也さんの「ぬか漬けきゅうりとさばといちじくの和えもの」
Vol.32 発酵と薪火。香りが重なり合う、aeru(アエル)中村俊也さんの「ぬか漬けきゅうりとさばといちじくの和えもの」

食に関わるプロフェッショナルに、お気に入りの発酵食を教えてもらう「私の発酵“推し”美食」。今回訪ねたのは、東京・目白のフレンチレストラン「aeru(アエル)」の中村俊也(なかむらとしや)さんです。

フランス料理をベースに、薪火(まきび)を使い、旬の食材や日本の食文化を生かした料理を手がける中村さんが推す発酵食は、ぬか漬け。きゅうりのぬか漬けに、さばの文化干しといちじくを合わせた、新感覚の和えものを教えていただきました。シンプルな材料と作り方で、シェフの発想を家庭で楽しめるのも魅力です。一見すると意外な組み合わせから、香りや旨み、食感に奥行きが生まれる秘密を伺いました。

発酵による立体感が、料理の可能性を広げる

都会の喧騒を忘れさせる、隠れ家のような薪火フレンチ「aeru」。店内に足を踏み入れると、ふわりと薪の香りに包まれます。

赤々と燃える炎、パチパチとはぜる音、鼻をくすぐる香ばしいにおいと、一皿ごとに驚きのある味わい。そんなaeruの料理を手がける中村さんが“推し”として挙げたのは、意外にも和の伝統的な発酵食である、ぬか漬けでした。

aeruのぬか床は、塩分濃度15%ほど。「漬けて半日ほどで取り出して使い、毎日新しく漬ける。
いわばレストラン仕様のぬか床です」

「夏のコース料理にも、きゅうりのぬか漬けを使った一皿を取り入れています。フレッシュなきゅうりや、塩もみしただけのきゅうりよりも、発酵させたきゅうりは香りや旨みが立体的。その立体感が、奥行きのある味わいや、食材同士の組み合わせに広がりを生むんです」

その言葉どおり、今回、中村さんがきゅうりのぬか漬けと合わせたのは、さばの文化干しといちじく。意外なこの3つが出合うことで、お互いの香りと味わいが重なり合い、ずっと食べ続けていたくなるような余韻を生み出します。

「ぬか漬けきゅうりとさばといちじくの和えもの」の
作り方

  • [材料](2人分)
    きゅうりのぬか漬け1本(100g)
    さばの文化干し半身(100g)
    いちじく100g
    ゴルゴンゾーラ、木の芽各適量
    ごま油、塩各少々
  • [作り方]
    1.さばはごま油を両面に薄く塗り、魚焼きグリル、またはフライパンで皮目から焼く。こんがり焼き色がついたら上下を返し、さらに2〜3分焼く。
    2.粗熱がとれたら、骨を除き、手で大きめの一口大にほぐす。
    3.きゅうりはキッチンペーパーでぬかをふき取り、乱切りにする。いちじくは皮ごと乱切りにする。
    4.ボウルに②と③を入れ、ゴムべらでいちじくを軽くくずすようにしながら和える。味見をして、塩少々で味をととのえて器に盛る。ゴルゴンゾーラを散らし、木の芽を飾る。

薪火で焼き上げたさばの燻香に、発酵の香りを重ねて。家庭で焼くときも、
皮目をしっかりと香ばしく焼くのがポイント!

「いちじくを少しくずしながら和えると、ソースのように、つなぎになってくれます。店名のaeruも“和える”から。混ぜるとも違い、やさしく和えることで、それぞれの食材がつなぎ合わさり、変化のある味わいが生まれる。とても日本らしい生かし方、味わい方だなと感じています」

ぬか漬けの塩けと酸味、ポリポリとした食感に、さばの力強い旨みと香ばしさ、そしていちじくのとろりとした甘みと果肉感。香り、食感、味わいが幾重にも重なり、一口ごとに新たな表情に出合えます。aeruらしい和えものです。

「主材料は同量なので、家庭でも作りやすいかなと思います。木の芽があれば、仕上げにぜひ! さわやかな香りを添えることで、最後まで飽きずに楽しめます」

自宅のぬか漬けから、aeruの一皿へ

驚きのある組み合わせも、中村さんにとっては、食材それぞれの香りや味わいが重なり合うイメージが自然に浮かぶのだそうです。その発想の背景にあるのが、自宅でぬか漬けを作っていた経験でした。

「もともとは妻の実家で食べたぬか漬けがおいしくて、そこから自分でも漬けるようになりました。お店のぬか床にも、義母から分けてもらったものが少し入っています。お店では、香味野菜やハーブなども加えているので、やさしい香りのぬか床に育ってきていますね」

中村さんは、発酵食の個性をそれ自体が主張するものではなく、むしろ受け皿を広げるものとして捉えている、と言います。

「発酵によって食材の器が大きくなるような、受け皿が広くなるような、そんな印象をもっています。たとえば、きゅうりなどの“うり”と鮎などの“魚”の組み合わせは、初夏から夏にかけての定番。そのきゅうりをぬか漬けにして発酵させると、酸味や旨み、香りのレイヤーが加わって、より奥行きのある味わいになるんです」

今回の「ぬか漬けきゅうりとさばといちじくの和えもの」も、そんな発想の延長線上にある一皿。発酵が加わることで、果物の甘みやゴルゴンゾーラの旨みもつながり合い、料理の可能性がどんどん広がっていきます。

薪火と発酵、古くからの知恵を新たな表現に

「夏は地獄のように暑いです(笑)」

aeruの料理を語るうえで欠かせないのが、薪火の存在です。

中村さんが薪火に惹かれた原点は、もともと好きだったキャンプの体験から。薪で焼いたおいしさを、レストランの料理にも取り入れたい。そんな思いから、aeruでは薪火を熱源の一つにしています。

「薪の香りをつけたいときは、燃えている炎で焼くんです」と中村さん。薪に含まれる水分が蒸発し、立ちのぼる香りが食材の油に移ることで、薪火ならではの燻香が生まれるのだそうです。

「発酵も、この薪で焼き上げる香りも、やわらかく火が入っていく様子も、生きている感じがすごくある。そこにしかない香りや味わいを届けることは、料理をするうえで、とても大事にしています。

便利な現代だからこそ、薪火で調理するように、あえて時代をさかのぼるようなアプローチをしてみる。そこから新しい発見や表現、新しい料理が生まれるのかなと考えています。発酵に関しても同じで、昔から日本にあるものだけれど、改めて見つめ直すことで、今の料理に生かせる可能性がたくさんあると感じています」

薪火も発酵も、古くから人の暮らしに寄り添ってきたもの。けれど、中村さんの手にかかると、それは懐かしさだけでなく、新しい味わいを生み出すための表現にもなります。香りが重なり合い、aeruの一皿には、ここでしか出合えない奥行きが生まれています。

次回、“推し美食”のバトンは鎌倉へ。食のプロフェッショナルたちから、尊敬の念を込めて「発酵の変態」と称される、藤井匠さんにお話を伺います。どうぞお楽しみに!

中村俊也(なかむらとしや)さん

中村俊也(なかむらとしや)さん

中村俊也(なかむらとしや)さん

1987年、兵庫県生まれ。21歳で海外へ渡り、カナダや南米を旅しながら料理やカルチャーに触れる。帰国後、料理人の道へ。東京・日本橋「ラ・ボンヌ・ターブル」などで経験を積み、星付き店でシェフを務めたのち、2025年、東京・目白に薪火フレンチ「aeru」をオープン。

aeru

住所:
東京都豊島区目白2-3-3 目白Yビル1F
TEL:
03-6826-2990
定休日:
火曜日、隔週水曜日

Instagram:@restaurant_aeru_mejiro

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