発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」
Vol.30 “もったいない”から生まれる発酵の味。
「和食しゅくりあ」店主・中野進さんの自家製なめみそ
2026/06/04
Vol.30 “もったいない”から生まれる発酵の味。「和食しゅくりあ」店主・中野進さんの自家製なめみそ
発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」
2026/06/04
連載30回を数える、「私の発酵“推し”美食」。今回のゲストは、東京・池袋にある「和食しゅくりあ」の店主、中野進(なかのすすむ)さんです。
味噌や奈良漬けをはじめ、明太子、からすみまで手づくりする中野さんの“推し”は、埼玉県の郷土料理「おなめ」に着想を得た、「なめみそ」です。ごはんのお供にぴったりな甘辛味で、肉や魚、野菜と合わせて楽しむ万能調味料としても使えます。
中野さん流のなめみその作り方と、夏にもさっぱり食べられる「3種の刺し身のなめみそあえ」のレシピを教えていただきました。

秩父地域を中心に愛される郷土料理「おなめ」は、大麦と大豆、麹を使って作られる発酵食品。箸までなめてしまうほどおいしいことが、その名の由来ともいわれています。
埼玉県で生まれ育った中野さんにとっても、幼いころから慣れ親しんだふるさとの味。そんな「おなめ」を、中野さん流にアレンジしたレシピを公開します! 1カ月ほどで食べごろになり、年中作ることができるのも魅力です。

仕込みたては液状で、さらりとした状態。3日間、毎日混ぜることで発酵が促される。
その後も、2〜3日おきに混ぜることで大豆がほどよくくずれ、2〜3週間ほどで全体がなじんだ「なめみそ」に。
「好みで加える香味野菜や季節の野菜は、そのときに手に入るものでOK。青じそ(大葉)やみょうが、実山椒などを入れてもおいしいですね。しょうがのように水分の少ないものは刻んでそのまま、なすや大根など水分の多い野菜を加える場合は、刻んで塩もみをし、水けを抜いてから混ぜるのがポイントです。トマトなど、水分が多くて繊維質が少ないものは、避けましょう」
刻んで塩もみした野菜は、発酵途中で加えると、食感や風味が楽しいアクセントに。
「保存性を高め、安定して発酵させるためには、混ぜるときに野菜の水分をしっかり除くことはもちろん、手や調理器具の水分もふきとることがとても重要です」

なめみそは、甘辛い味わいと発酵のコクが魅力。そうめん、冷奴の薬味代わりや、生野菜のディップなど、暑い季節の食卓にも重宝します。あたたかいごはんに混ぜておにぎりにすれば、食欲がない日にも食べやすい一品に。
「ごはんや豆腐はもちろん、肉や魚との相性もいいんです。肉にサッと塗って味噌漬け焼き風にしたり、白身魚や鮭に塗ってふんわり蒸したりしてもおいしいです」
なかでも中野さんのおすすめは、火を使わずに作れる手軽なあえ物。スーパーの刺し身が格段においしくなる、プロの技も必読です。

塩を振って出てきたくさみや余分な水分は、酢水でサッと洗い流す。
「あえ物をおいしく仕上げるコツは、食材の水分をしっかりとること。そして食べる直前にあえること。あえてからしばらくすると、どうしても余分な水分が出てきて味がぼやけてしまうんです。なめみその量は、刺し身の1/3量が目安。しっかりとした味わいにしたい場合は1/2量、軽めに仕上げたい場合は1/4量くらいにするといいと思います」

左上から時計回りに、からすみ、明太子、大根の漬け物、白瓜の奈良漬け、ゆべし。
なめみそだけでなく、「和食しゅくりあ」には中野さんが手づくりするものがいくつもあります。味噌、奈良漬け、からすみ、明太子など、店の料理を支える発酵食や保存食の多くは、中野さんの手で仕込まれたもの。
「ゆずをくり抜いて味噌を詰めて干すゆべしは、ごはんのお供にも酒の肴にも。冬にゆずをたくさんいただいたら、仕込みます。それから、なすや白瓜がたくさん採れたら、奈良漬けに。まずは塩漬けにして、酒粕と甘みを合わせた粕床に漬けます。おいしくなるまで時間がかかりますが、そのぶん、野菜が深い味わいに変わっていきます。漬け床も、魚や肉の調味料として活用できますしね」

漬けて2年ほどの奈良漬け。「あと1年ほどすると、さらに熟成が進み、黒っぽくなっていきます。
でも、その前に使い切ってしまうかも(笑)」
中野さんにとって、こうした手仕事は日常にとけ込んだ、ごく自然な営みです。
「味噌も漬け物も手づくりする家庭で育ったからか、『作るのが当たり前』という感覚なんです。たくさん採れたもの、いただいたもの、すぐに食べ切れないものも、塩漬けにしたり、発酵させたりすれば、無駄なく使い切れる。時間はかかりますが、そうやって食材を生かし切ることも、料理人の仕事なのかなと思っています」

中野さんがこうして日々、さまざまな発酵食や保存食を手づくりする背景には、「和食しゅくりあ」の台所を支える畑の存在があります。コースに使われる野菜のほとんどは、埼玉県に借りている畑で、中野さん自らが育てたもの。
「冬になると、うちのサラダは地味になります(笑)。トマトやパプリカなど、カラフルな野菜は採れませんから。でも、私はそれでいいと思っています。その時季に採れるものを料理したいんです」

初夏から収穫シーズンを迎えるとうもろこし。季節ごとにさまざまな野菜を育てている。
中野さんの畑の師匠は、お母さまや近隣で畑を耕すご近所さん。たくさん採れた野菜や果物をおすそわけしてもらうことも多いそうです。使い切れない野菜や果物は、塩漬けや酒粕漬け、ピューレやドライフルーツなどに。
「私ひとりでやっているので、お店は完全予約制。予約がない日は畑仕事をして、厨房に立つ日は母やご近所さんに助けてもらっています。私にとっては、発酵食の仕込みも畑仕事も、料理を支えるものであると同時に、リフレッシュの時間でもある気がします。黙々と作業に集中していると、売り上げとか予約件数とか、余計なことを忘れられるみたいで(笑)」

店の台所を支える、頼もしい畑仲間。左から、新井さん、中野さんのお母さま、三輪さん、斎藤さん。
「畑仕事の合間に、郷土料理や野菜のおいしい食べ方を教えてもらうことも」

中野さんの手仕事には、自然に寄り添いながら、その恵みをおいしく食べ切るための工夫が詰まっています。畑を耕し、季節ごとの実りに向き合っているからこそ、食材は「使うもの」ではなく、「生かし切るもの」になるのかもしれません。
「自分で育てて、自分で作れば、自分なりの味にしやすいですしね。おそらく、根が貧乏性なんだと思います(笑)」

和食の盛りつけに欠かせない「かいしき」も、自宅や店先に植えたもみじの葉を使う。
自分の手の届くところで育て、作ることを大切にする、中野さんの料理哲学が垣間見える。
「発酵食って、仕込み自体はとてもシンプル。塩や酒粕、砂糖などに素材を漬けたら、あとは微生物と時間がおいしくしてくれる。発酵が進みすぎて酸味が強く出たりと、いまだに失敗も試行錯誤もあります。でも、それもおもしろいなと思うんです」
自ら育てた季節の野菜をふんだんに使い、たくさん採れたものは保存食に。米ぬかや生ごみは堆肥にして、また土へと戻していく。中野さんの発酵仕事には、季節と時間の力を借りながら、目の前の食材をおいしさへと変えていく知恵が息づいています。
「“推し”美食」のバトンは、東京・東長崎にある街かどの小さなレストラン「Cadota」のオーナーシェフ、新井直之さんへ。次回もどうぞお楽しみに!
埼玉県出身。調理師専門学校を卒業後、住み込みで和食店にて修行。古民家ダイニング「円らく」で料理長を務めたのち、2010年に東京・東池袋に「和食しゅくりあ」をオープン。2017年に現在の店舗に移転。店舗2階には低温倉庫を完備し、日本ワインや自家製発酵食、その日の予約分だけを精米する玄米などを保管する。埼玉県の畑で育てた野菜を生かした和食を提供している。