食の知恵に導かれ、伊豆大島へ

Vol.1 『OHSHIMA OCEAN SALT』
優しい海の味がする、手づくりの塩

2018/10/18

Vol.1 『OHSHIMA OCEAN SALT』優しい海の味がする、手づくりの塩
Vol.1 『OHSHIMA OCEAN SALT』優しい海の味がする、手づくりの塩

東京から高速船で約2時間。伊豆大島には、コンビニもファミレスも、ファストフード店もありません。さぞ、不便で、楽しみも少ないのでは?と思うなかれ。島の暮らしはとっても豊か。自然に抗うことなく、風土を活かして楽しむ食の知恵は、今なお息づいています。今回から数回にわたり、伊豆大島の食文化をどっぷりご紹介。風土に根付く食は、なんとイキイキと力強いのでしょう!

伊豆大島を初めて訪れたとき、偶然出会ったのが『OHSHIMA OCEAN SALT』の塩。観光客にもファンが多い『カレーハウス木里吉里』でランチを食べたときのことです。カレーに添えられていたサラダが美味しくて、カラダにスーッと染み込むように心地よくて驚きました。店主のキリさん曰く「野菜は地元の有機野菜。味付けは塩とオリーブオイルとレモンだけ。塩は『OHSHIMA OCEAN SALT』の自然塩で、これが本当に美味しいの」。

聞けば、普通の塩だけでなく満月の日の海水だけで作った珍しい塩があるといいます。

どうやって塩を作っているのだろう? 満月の日の海水ってどういうこと? 普通の塩と何か違いがあるの? どんな人たちがその塩を作っているの? とにかく会って話を聞いてみたい! 尽きない興味に引き寄せられ『OHSHIMA OCEAN SALT』を訪れました。

海水、太陽、風。自然の力を利用した塩づくり

左から阪本鏡子さんと娘の洋未さん

家族で塩づくりをする阪本さんご一家。案内してくれたのは二代目塩つくり師の阪本洋未(ひろみ)さんと、母の鏡子さん。まず目に飛び込んでくるのは、幾何学模様の屋根が印象的な「塩ドーム」と呼ばれる独自の噴霧式海水濃縮装置。中を見ると汲み上げた海水が四方八方のノズルから噴射され、太陽の光を浴びてキラキラと舞っています。夢見心地でぼんやり覗いていると、時折、風にのった細かい霧に包まれます。

「ここでは、汲み上げた深層海水を噴霧して、太陽と風にさらして水分を飛ばして濃縮しています。30キロリットルの海水が5キロリットルぐらいになるまで約1カ月間、自然の力で濃縮するんです」

たくさんのノズルから海水を噴霧する

濃縮した海水は「かん水」と呼ばれ、濃縮槽で水分を蒸発させ、さらに濃くなると、結晶釜に移されゆっくりと熱を加え、静かに結晶化を待ちます。

「塩の結晶同士が結び合い、釜の表面一面が塩の結晶でキラキラになり、それが釜底に積もっていきます。その姿は、まるで華のようなんですよ」と、目をキラキラと輝かせながら話す洋未さん。積もった塩をゆっくりと冷まし、遠心分離機で塩の結晶とニガリに分けて、ようやく塩が完成。自然塩づくりは、時間と労力がかかるのです。

日本から自然塩が消えた時代

日本は、四方を海に囲まれているため塩には困らないと思われがち。しかし、実際は雨が多いため、メキシコやオーストラリアのように、海水を自然に乾燥させて塩の結晶を取り出すという方法で塩をつくるのは難しく、国土に岩塩もありません。意外かもしれませんが、日本は世界で最も塩づくりに苦労している国といえるのです。

戦前は富国強兵のため塩の専売制が敷かれ、その後は専売法が制定。さらに海水から塩をつくるための塩田が廃止されました。こうして日本では、専売法によって海水から自然塩を作ることを禁じられた時代がありました。自然塩に取って代わったのが「イオン交換膜法」という製造法よって作られる食塩。この製造方法では、天候に左右されず塩を量産できますが、海水に含まれていた多くのミネラルが失われてしまいます…。

このままでは命の基本である自然の塩が、日本から消えてなくなってしまう…。洋未さんの父で、当時鍼灸師であった阪本章裕さんは、自然塩づくりを絶やしてはいけないと、自然塩普及活動の中心人物だった故・谷克彦氏とともに、1976年、美しい海に囲まれた伊豆大島へと渡りました。これが、伊豆大島での自然塩づくりの始まりです。

阪本さんの妻、鏡子さんは、「私は妊娠6カ月で夫と一緒に伊豆大島へ渡りました。試行錯誤をしながらの塩づくりは、それはもう大変。でも、希望に満ちていました」と話します。塩づくりの装置を作る夫と全国から集まった有志のため、手作りパンの差し入れや皆の食事など、生活面でのサポートを通して、皆の心身の支えとなりました。

伊豆大島での自然塩づくりが軌道にのり、試験生産塩の会員配布をスタートすると、家庭の主婦を中心に伊豆大島で生産される自然塩を求める会員がどんどんと増えていきました。

母体の羊水と海水はミネラルなどの成分が近いと言われています。世の中から自然塩が消えた結果、理屈ではなく、本能的に自然塩を求める人が顕著に表れた証だったのでしょう。

満月の日の海水からつくる神秘的な塩

真っ白な自然塩。塩気が穏やか

1997年、ようやく塩の専売法が廃止。その後、阪本さんは独立し、独自の塩づくりを始めました。こうして生まれたのが現在の『OHSHIMA OCEAN SALT』。跡を継ぐ決意をした洋未さんは、小さなカラダに大きな力こぶを蓄えて、日々奮闘! そして満月の日の深層海水で作る『満月のシホ』は、洋未さんの出産をきっかけに誕生しました。

「私が息子を伊豆大島で自宅出産したときに来てくれた助産師さんが、『たくさんのお産を見ていると、お産はやはり満月の影響を受けているように感じる。塩も満月の塩があったら面白いんじゃないかしら』と話されたんです。それを聞いた父が、満月の日の海水で塩をつくり始めました」

出来上がった満月の塩は、普通の日の海水でつくった塩と比べて、もう一段階美味しいことに感動したといいます。

満月の海水からできたニガリは赤みが強い

『満月のシホ』は口にすると、ダシのようなほのかな旨味を感じます。海水浴後、手や腕に付いた海水を舐めたことがある人ならわかるはず。海水はしょっぱいけれど、なんだか美味しいということを。この塩は「塩は海から生まれている」ということを強く実感させてくれます。化学塩では感じられない自然の旨味です。さらに不思議なことに、満月の日の海水からできるニガリは強い赤みを帯びています。普段の日の海水からできる薄い黄色のニガリと比べるとその違いは一目瞭然。同じ海水でも、自然のリズムによって変化していることが想像できます。

高濃縮したニガリの上澄みを取り出した『海の馨』も神秘的。ニガリから生まれた液体なので苦い味がするけれど、カラダのミネラルが不足していると、苦く感じないのだそう。

「塩づくりは体力勝負。疲れた~というとき、母がお茶と一緒に『海の馨』を持ってきてくれるんです。作業の合間に母の姿を見るだけで、女神が来た~って皆笑顔になるんですよ」と洋未さん。『海の馨』を水に数滴垂らして飲んでみると、温泉水のようにまろやかでカラダにスーッと染みわたり、少しするとカラダがほかほかとしてきます。カラダの中がふわ~っとリラックスしている感じです。

阪本家の健康管理にも活躍する『海の馨』。美味しいと感じる量が適量

太陽を浴びておおらかに育つ自家製醤油

「無農薬大豆と小麦、醤油麹菌と伊豆大島の水、うちでつくった自然塩で、醤油もつくっているんですよ。醤油づくりを研究されていた、故・萩原重忠さんが、農家のお母さんたちが手軽に美味しくつくれるようにと考案した製法で、太陽の光をたくさん浴びさせながら熟成させます」

醤油は日向で発酵中。いい香りがふわり

ご自宅の庭先のデッキに並ぶ醤油樽は、まるで日向ぼっこをしているようです。時折風にのって醤油の芳しい香りが…。「発酵菌が生きている醤油なので冷蔵庫で保存してくださいね」と、いただいた手作り醤油も、塩と同様にまろやかで優しい味がします。

自然塩はカラダを元気にしてくれるもの

「健康のためには減塩を」と言われるときの塩は、化学塩のこと。ミネラルをたっぷりと含む自然塩は、本来カラダを元気にしてくれるものなのです。阪本家では、塩だけで味付けしたシンプルなカボチャやコーンのポタージュが人気。天ぷらに塩を添えれば具材の甘味が引き立ち、塩だけで味付けする野菜のサラダは野菜の味が濃く感じることができます。地元産の海苔と塩をお椀に入れてお湯を注いだだけのお吸い物はダシを使わなくてもしみじみと味わい深いです。

塩だけで美味しくなる。これが自然塩の力!

伊豆大島は、日本の製塩の歴史を変えた場所。塩とともに生きてきた阪本さんとその仲間たちの踏ん張りが、優しい海の味がする塩を今の時代に繋げてくれました。今日もこれからも、塩づくりは続きます。日差しを浴び、風に吹かれ、おおらかにひたむきに。

現在修理中の初代塩ドームで。初代塩つくり師である洋未さんの父、章裕さんは修理中のケガで入院中だった。いつかお話を聞けるのを楽しみにしています!

OHSHIMA OCEAN SALT

OHSHIMA OCEAN SALT

住所:
東京都大島町元町字小清水267-4
TEL:
04992-2-2815
URL:
https://www.o-oceansalt.com/

*工場見学も受付(予約制)1人2000円(ストーリーテリング、『Flower Of Ocean シホ200g』のお土産付き)

●伊豆大島へのアクセス
東京竹芝桟橋から高速ジェット船で1時間45分~、または夜行大型客船で6時間~。
その他、神奈川県久里浜港、静岡県熱海港、伊東港からの船便もあり。

東海汽船 TEL:03-5472-9999 または 0570-005710
URL:https://www.tokaikisen.co.jp/

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