発酵に恋して。

発酵文化の懸け橋に。
アジア発酵伝道師・大西孝典さん伝えたいこと

2020/09/03

発酵文化の懸け橋に。アジア発酵伝道師・大西孝典さんが伝えたいこと
発酵文化の懸け橋に。アジア発酵伝道師・大西孝典さんが伝えたいこと

国境を超え、アジア発酵伝道師として活動する大西孝典さん。インドやタイなどアジアの国々で麹づくりの指導やワークショップを開催し、日本の発酵文化を海外の人々に伝える一方で、日本では、知られざるアジアの発酵文化を発酵ファンたちに紹介しています。

豊かな経験と知識を武器に、日本とアジアの発酵食文化の懸け橋として活躍する大西さんのライフワークと、発酵への想いについてお話を伺いました。

世界を飛び回る中で
行き着いたのが発酵だった

幼い頃から好奇心が旺盛だったという大西さんが、日本を飛び出したのは20歳の頃。向かった先は、インドでした。
縁あってムンバイに落ち着き、そこを拠点にゴア州、ケーララ州、タミル・ナードゥ州などインド南部を巡り、多くの文化を吸収します。その後は、アメリカ・ニューヨーク市でデザインを学んだり、タイのバンコクで日本語のフリーペーパーの制作・発行に携わったり、カリブ海のトリニダード・トバゴ共和国で名物楽器であるスティールパンづくりの職人として腕を磨いたり…。
濃厚な海外生活を送りながらも、大西さんがライフワークとして取り組んでいたのが「発酵」でした。

赤米と少しまぜたタイの甘酒「カオマーク」の発酵具合をチェックする大西さん。

タイのバンコクを拠点としていた90年代に、おいしい日本の発酵食品が食べたいという欲求もあり、味噌、醤油、甘酒、どぶろく、ビール、納豆、豆板醤、テンペ、ヨーグルトなど、ありとあらゆる発酵食品づくりにハマっていた大西さん。中でも、麹づくりに時間をかけていたそうです。

しかし、異国の地で材料となる種麹や、麹づくりの技術といった情報は、どのように入手したのでしょうか。

「種麹は、日本から取り寄せることができましたが、麹づくりのノウハウについては、当時のバンコクで参考になる資料はゼロでしたから、すべて独自の勘と試行錯誤の繰り返しで積み上げていったんです。
失敗したら、次はこうすれば成功するかもしれないと予想しながらやってみる。それを何度も繰り返していくうちに、ベストな方法がわかってきました」

カオマーク(左)と、中国の発酵食品である腐乳(右)。いずれも大西さんが仕込んだもの。

現在のワークショップで教えているノウハウの多くもこの時代に培われたもので、そのモットーは「発酵も調理の延長線上で、合理的に、簡単に」。
誰もがキッチンで実践できるノウハウに磨き上げるためには、教科書的な情報だけに頼らず、自分の勘を研ぎ澄ませ、試行錯誤する時間が必要だったのかもしれません。

現地の邦人にボランティアで
始めた発酵ワークショップ

2015年頃に、タイからインドのヒマチャル・プラデシュ州に拠点を移した大西さんは、日本の発酵食品を必要とする日本人に多く出会うようになりました。

「都市部はもちろんですが、インドの僻地にも日本人が住んでいます。そこで彼らのために、ボランティアでワークショップをやるようになりました」

発酵の本質を追求する大西さんのワークショップは、ひと味違います。例えば、味噌づくりは、用意されたレシピどおりに習うことが一般的ですが、大西さんのワークショップでは、参加者自身が考えたレシピで味噌を仕込むのだそうです。

「もちろん最初は、スタンダードなレシピをお教えしますが、そこから発展して、白味噌や赤味噌など、地方によって異なる味噌のスタイルや、麹歩合と塩分濃度と発酵期間の関係など、味噌づくりの仕組みを理解してもらった上で、自分好みの味噌レシピを自分で考えるワークショップにしています。
関西出身でデリー在住の生徒さんには、『これで、インドでも白味噌がいくらでも食べられる!』って、ものすごく喜ばれましたね」

さらには、現地の料理のプロに教える機会も増えています。インドのウッタラーカンド州デラドゥーンにあるリトリートセンターに在籍するインド人シェフたちへの発酵ワークショップは、1週間泊まり込みの集中講座。年に1度のペースで、かれこれ4年も続けています。
このリトリートセンターとは、高級ホテルのような環境で、ヨガやアーユルヴェーダなどさまざまなカルチャーを体験、学習できる施設。ヴィーガンの人たちなどを中心に、食や健康に意識の高いゲストが世界中から集まってきます。

「ここのシェフたちは本当にレベルが高いんです。彼らにとって、味噌や醤油など日本の調味料を使うのは、もはや当たり前のことで、さらにそれを麹から自作しようと考えているのですから。
甘酒をレクチャーしたら、すぐにマンゴーのピュレと組み合わせたオリジナルのデザートを考案し、その日のうちにゲストに出していました。本当に勉強熱心な人たちばかりで感心しました」

大西さんが指導した納豆づくりを実践中のインド人シェフ。

一番好きな発酵食品はアジアの餅麹

そんな大西さんが、今最も関心を寄せている発酵食品は、アジアの餅麹です。

「インド、ネパール、タイ、ラオス、中国、韓国など、アジア各地に餅麹の文化があります。浸漬した米や麦などの穀物を、主に生のまま粉砕して餅状にし、天然のクモノスカビやケカビ、酵母、乳酸菌など、雑多な微生物を繁殖させたものが餅麹です」

対して日本の麹は「ばら麹」と呼ばれ、培養した麹カビを、粒のままの蒸米に繁殖させて作ります。アジア全体で見たとき、いうなれば日本だけが特殊な進化を遂げているのだそうです。

インド・シッキム州の餅麹「マルチャ」。シダの葉を巻いて作る。

「日本のばら麹も好きですが、アジアの餅麹が大好きです。2019年はインド・シッキム州のアホ村に行って、リンブー族の『マルチャ』と呼ばれる餅麹について取材しました。
日本の麹カビの酵素には、デンプンもたんぱく質も安定的に分解する性質がありますが、日本以外のアジアの餅麹には多種多様な微生物が生きていて、言うなれば不安定。だから、失敗することもあります。でも、その失敗こそがおもしろいんです。
こうした伝統的な発酵文化には、長く活用されてきた意味が絶対にあると思うので伝えていきたいし、守っていきたいですね」

沖縄から日本とアジアに向けて
発酵文化を発信し続けたい

世界的に国境越えが難しくなった現在は、一時的にインドから沖縄に拠点を移した大西さん。当面は、ここから日本とアジアに向けて発信していこうと計画中です。

試作した中国・安徽省の名物発酵食品「毛豆腐(マオドウフ)」。中国の餅麹を粉砕して水に溶いた物を沖縄の
島豆腐に塗り、カビがついたら完成です。

「発酵なんて難しくて、普通の人には無理だと思い込んでいる人が多いように感じるのですが、そういうハードルを取り除くのが僕の仕事だと思っています。そうすれば、もっともっと発酵食品を作る人が増えていくのではないでしょうか」

沖縄でも、各国の発酵文化のハードルを軽々と越えていく大西さん。今後は、オンラインなども利用した発酵プロジェクトを計画中なのだとか。どんな活動が繰り広げられるのか、今からとても楽しみです。

大西孝典さん

大西孝典さん

大西孝典さん

タイおよびインド北部を拠点とし、日本食が不足する海外で、現地で手に入る物を利用して発酵食品を作る活動を展開。現地の邦人やインド人に麹、味噌などの発酵食品の作り方を伝えるワークショップを行う。現在は、一時的に沖縄に拠点を移し、日本とアジアの発酵文化を盛り上げるプロジェクトを計画中。

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