発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」

Vol.11 手前味噌は作り始めたらやめられない!
金子文恵さんの「味噌が決め手のコトコト煮込み」

2024/03/07

Vol.11 手前味噌は作り始めたらやめられない!金子文恵さんの「味噌が決め手のコトコト煮込み」
Vol.11 手前味噌は作り始めたらやめられない!金子文恵さんの「味噌が決め手のコトコト煮込み」

食にかかわるプロに、お気に入りの「推したい発酵食」を教えてもらう本連載。今回のゲストは、料理家の金子文恵(かねこふみえ)さんが登場します。前職はファッションデザイナーという異色の経歴を持つ、金子さん。目にも舌にもおいしく、手軽に作れてちょっと気持ちも上向きになるレシピに定評があります。そんな金子さんが、毎年欠かさず仕込んでいるのが「手前味噌」。ご自慢の手前味噌を使った、絶品煮込みを教えていただきました。

材料にこだわって仕込む、
ぜいたく手前味噌

左から2023年、22年、21年の味噌。熟成時間が長くなるにつれて色も濃くなり、より発酵の旨味が深まる。

金子さんが味噌を手作りするようになったのは、2012年ごろ。知り合いの料理研究家が主宰する味噌作りのワークショップに参加したのがきっかけだったと言います。

「味噌ってこんなにおいしくできるんだって、びっくりして。それ以来、毎年欠かさず作り続けています。手作りすると、同じ材料で同じように作っても、毎年少しずつ味わいが違うんですね。今年はいつもより少しやわらかめだなとか、醤(ひしお)がよく上がるな、とか。自然のものなので、規格通りにはいかない。その年、その年の味わいを楽しむのが、手前味噌のよさだと思っています」

金子さんの味噌は、大豆と米麹を1:2の割合で仕込む「ぜいたく味噌」。塩けがマイルドで、甘みのある仕上がりが特徴です。
「大豆は、埼玉県小川町の横田農場さんや、北海道の折笠農場さんから取り寄せる無農薬のもの。麹は、神奈川県の川口糀さんや山梨県の五味醤油さんで購入しています。塩はゲラントの塩。材料をこだわって選べるのも、自家製の楽しみのひとつですね」

ウチの子がいちばん可愛い!
手前味噌自慢も楽しい

金子さんが味噌の熟成に愛用しているホーロー容器。「味噌の熟成は、直射日光が当たらず、
風通しのよいところがおすすめ。我が家では、リビングのシェルフの下に置いています」

味噌の仕込みには、寒さが厳しい大寒の頃が適していると言われます。ただ、金子さんは、仕込みの時期にはあまりこだわらないそう。

「味噌作りの時期は、毎年まちまち。2〜3月ごろに仕込むことが多いかな。去年の仕込みは5月でした。お世話になっている麹屋さんも『仕込みはいつでも大丈夫』とおっしゃっていました。ただ、夏の暑い盛りは急激に発酵が進みすぎてしまって、あまり向かないかもしれないですね。大豆をゆでるのも暑いし(笑)。春や秋なら、大寒にこだわらなくてもおいしく作れると思います。味噌作りは、やってみると意外と簡単! まだチャレンジしたことがないという方は、ぜひ気軽に試してほしいですね」

金子さんが主宰する料理教室でも、味噌づくりの会は人気。出来上がりの頃に持ち寄って食べ比べをしてみると、それぞれの家庭ごとに味わいが違うのだそうです。

「同じ日に同じ場所で、同じように仕込んだのに不思議ですよね。その家の温度、湿度、空気の流れなどによって、きっと発酵の具合が変わるのでしょうね。そして、おもしろいことに、たいていみなさん、『ウチの味噌がいちばんおいしい!』って言うの(笑)。やっぱり手塩にかけた我が子は可愛いんですよね。手前味噌自慢、盛り上がりますよ」

金子さんの手前味噌自慢はーー?
「ウチのは少し甘めでまろやか。魚の切り身に塗って味噌漬けにするだけでもほどよい塩加減でおいしい。みりんや砂糖を加えなくても、味噌の旨味だけで十分。よく作ります」

パンにもごはんにも合う
「牛肉と大根の味噌トマトシチュー」

味噌の複雑な旨味は洋風メニューにも活躍! 大根や長ねぎ、和の野菜を使って、ごはんにもパンにも合う、こっくりシチューを作りましょう。

  • [材料](2人分)
    牛すね肉360g
    大根300g
    長ねぎ1本
    野菜ジュース450ml (食塩不使用・トマトベースのもの)
    赤ワイン大さじ3
    オリーブ油大さじ1
    手前味噌大さじ2 (または市販の味噌大さじ1と1/2+はちみつ小さじ1/2)
    小麦粉大さじ1/2
    塩、あらびき黒こしょう各少々
    ケール、バゲット適宜
  • [作り方]
    1.牛すね肉は4等分に切り、全体に塩(分量外)を振ってもみ込む。大根は皮をむいて縦6等分に切り、長ねぎは5cm長さに切る。
    2.厚手の鍋にオリーブ油を熱し、中火で牛肉の表面をこんがりと焼き、取り出す。同じ鍋に大根と長ねぎを入れて焼き、焼き色がついたら牛肉を戻し入れる。
    3.赤ワインを加えて強火にし、1分ほど煮立てたら、野菜ジュース400mlを加え、沸騰したら蓋をして弱火で1時間半ほどコトコト煮込む。
    4.味噌、小麦粉、残りの野菜ジュースをよくまぜ合わせる。

    5.牛肉がやわらかくなったら火を止め、④を加えてまぜ、再び弱火にかけてとろみがつくまで煮る。味をみて足りなければ塩で味をととのえ、器に盛って黒こしょうを振る。好みでケールやゆでたブロッコリー、バゲットを添える。

    味噌と小麦粉をまぜた、ブールマニエならぬ「味噌マニエ」。
    「味噌と小麦粉だけでは、液体に入れたときにダマになってしまうので、
    少量の野菜ジュースでのばしておくのがポイントです」

「作業時間は10分もないくらい。煮込み時間は長いですが、ずっとつきっきりになっている必要はありません。じっくり弱火で煮込むことで、野菜ジュースの酸味がとれてまろやかな旨味が引き出されます」

ホロホロの牛肉に煮込んでもジュワッとみずみずしい大根、とろとろの長ねぎを、旨味が溶け出したトマトソースが包む絶品! ごちそうシチューに舌も心も躍ります。お鍋の前でゆったり読書でもしながら、出来上がりを待つ時間も贅沢です。

味噌の旨味は
トマトや乳製品とも相性抜群

味噌を加えたら煮込みすぎないのがポイント。

発酵の過程でグルタミン酸をはじめとする旨味成分が増えていく味噌。和食以外にもさまざまな料理に活用できる万能調味料です。

「同じくグルタミン酸を多く含むトマトや、コクのある乳製品とは特に相性がいいですね。発酵食品同士のチーズと味噌なんか、すばらしい組み合わせ。魚の味噌漬け焼きも、たとえば玉ねぎと生クリームをあえたものと一緒に焼いたりすると、ちょっと洋風なエッセンスも入って新鮮です」

相性のいい組み合わせを知っておくと、レシピのアレンジの幅も広がります。
「今回はトマトシチューをご紹介しましたが、味噌を使ったクリームシチューもいいですよ。野菜をじゃがいもやかぶ、にんじんに変えて、お肉は鶏肉にしてもいいですね。白ワインと水でコトコト煮て、生クリームや牛乳と味噌で仕上げます」

金子さん流の「味噌マニエ」なら、味つけと同時に手軽にほどよいとろみがつくのもうれしいポイントです。発酵の力で、洋風料理のおいしさも底上げしてくれる味噌。愛着たっぷりの手作り味噌で作れば、普段の何気ないごはんにも「やっぱりウチの味噌がいちばん」の手前味噌効果がプラスされそうです。
作るのも、使うのも楽しい手前味噌と味噌料理。今年はぜひチャレンジしてみませんか?

次回、金子さんからのバトンは、ヘルシー料理研究家の中元千鶴さんへ。「発酵食大好き」の中元さんの食卓に欠かせない、最推しの発酵食をどうぞお楽しみに。

金子文恵(かねこ・ふみえ)さん

料理家

金子文恵(かねこ・ふみえ)さん

料理家

金子文恵(かねこ・ふみえ)さん

ファッションデザイナーを経て、料理の道へ。レシピ制作、ケータリング、料理教室、メニュー開発など多方面で活躍中。お酒がすすむ料理、手軽にできるひとりごはんの提案に人気がある。著書に『ニュースタイル レシピ』『なにしろ、親のごはんが気になるもので。』など。

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