今日がうれしくなる器

冬、集う日の食卓

2013/12/12

日常に取り入れたい漆

もうひとつ、使い方に誤解が多い素材に漆があるという。漆というと晴れの日の椀やお重などのイメージが強いが、本当はもっと気軽に、日常に取り入れてほしい器だとか。「今回ご紹介する鎌田さんの漆は食卓に馴染み、どんな食材も盛り付けられる柔軟性が魅力です。今回は、飯椀として、またサラダとコロッケを盛り付けたプレートとして使用しています。合わせ方によってさまざまな表情があり、陶器や磁器とはまた違った味わいで冬の食卓を演出してくれます」と恵藤さん。

有機的なフォルムの美しさが印象的な鎌田さんの作品。もともと陶器やガラスの持つ揺らぎのあるフォルムが好きで、漆でもそうした形を表現したいと、乾漆という技法を用いている。乾漆とは、仏像など大きなものをつくる際に用いる伝統的な技法のことで、麻布と漆を重ねながら形づくる。木を素地にする漆器に比べ、薄くて軽い仕上がりに

作家の言葉

自然な揺らぎとすっきりとした形を漆に  鎌田克慈さん

高校卒業後、定年のない職人になりたいと美大へ行くことに決めたという鎌田さん。大学で学ぶなかで、素材が劇的に変化することなく、最後までコツコツと作業を積み重ねて仕上げられる漆の工程に魅力を感じ、漆職人の道を歩むことに決めた。卒業後、輪島の漆職人のもとで修行をしたのち独立。今は、輪島の海の見える工房で作品づくりに励む。

ご自身の作品についてうかがうと、「時に乾漆であることが特徴と思われがちなのですが、私がもっとも大切にしたいのは形。自然な揺らぎがありつつ、すっきりとした、私が求める形を表現しようとしたら、結果的に乾漆の技法が適していたということだと思います」と語る。

また、漆をはじめるまで、漆は身近なものではなかったという鎌田さん。「漆の器をつくるなら日常に馴染むものにしたいと思いました。我が家の食卓を見ても、和もあれば洋もある。いつもの食卓にしっくりくるようにと考えると、自ずと派手な色合いのものや、つやつやした質感のものではなく、落ち着いた仕上げの漆になりました」。さらに使い込まれた器には麻生地の質感が浮かび上がっている。これについて聞くと「なるべく親しみやすく、日常に馴染む漆にしたいと考えた結果です。ちょっとしたテクスチャーがあったほうが、つるつると緊張感のある漆よりも使いやすいと考えました」と鎌田さん。

漆器はあまり水につけてはいけないなど、扱い方が難しいイメージがあるが、それも誤解だと鎌田さんは言う。「芯に達するような深い傷がないかぎり、水に浸しても問題なく、逆に、ご飯などを盛った際には、ごしごしこするより、10分ほど水に浸してやさしく洗うほうが漆にはいいようです。洗剤を用いても問題はありませんが、人の手と同じであまり洗剤を使いすぎると乾燥の原因になります。ギトギトとした油汚れでなければ、スポンジを使って水やお湯のみで流し洗いをするといいですね。そうすることで、長く使うにしたがって、美しいツヤが生まれます。乾燥させる時も、カゴなどで自然乾燥しても問題ありませんが、タオルなどできれいに拭き取ると水跡が残らず美しいツヤが出てきます」。また漆は塗り直しできることも魅力のひとつだとか。「長年つかっていただいて少し欠けてしまったとしても、塗りなおせば新品に戻すことができます。気になる傷ができたら、また塗り直して長く使ってください。そうして長く丁寧に使っていただいた器と再会するのはとてもうれしいことです。これからも多くの方にとって使いやすい器づくりに取り組んでいきたいと思っています」。

 

夏椿

夏椿

住所:
東京都世田谷区桜3-6-20
TEL:
03-5799-4696
営業時間:
12:00~19:00
定休日:
月曜日・火曜日(祝日の場合営業・企画展中無休)
URL:
http://www.natsutsubaki.com/

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