一皿のものがたり

金継ぎで夢も継ぐ!?
漆職人&漫画家の堀道広さんが作る幸せのサンドイッチ

2018/06/14

金継ぎで夢も継ぐ!?漆職人&漫画家の堀道広さんが作る幸せのサンドイッチ
金継ぎで夢も継ぐ!?漆職人&漫画家の堀道広さんが作る幸せのサンドイッチ

お気に入りの器になにを盛りつけるのか。大好きな料理を盛りつけるのはどんな器がいいのか。そんな思いをめぐらせる食卓は豊かな時間を生み出します。「一皿のものがたり」では、器と料理にまつわる物語を語っていただきながら、その方の日々の想いや暮らしについてお話をうかがいます。

今回お話しいただいたのは、漫画家・イラストレーターであり、割れた陶器を漆で修復する教室「金継ぎ部」を主催する堀道広(ほり みちひろ)さんです。

漆職人で漫画家
二足のわらじの理由とは

「僕の人生、“なんとなく”の連続なんですよ」

漆の職人で、漫画家という珍しい肩書きの理由について堀さんに尋ねると、こんな答えが返ってきました。

「学生の頃、美大を受験したんですが、全部ダメで、唯一受かったのが地元の短大の工芸科の漆工芸コースでした。最初はとくに漆に関心があったわけじゃなく、記入欄にマルをつけたから“なんとなく”漆の世界へ。でも学ぶうちに「漆の器」や「漆」そのものが好きになっていったんです」

卒業後は、石川県輪島市で修行。その後、旅行のつもりで“なんとなく”東京に来たところ、流れで漆屋さんと出会い、なんとなく住み込みで働くことに。あれよあれよという間に、漆職人として10年の月日を重ねたと言います。

「上京して4年くらい経った頃、漫画雑誌で連載が決まり、漫画家としてデビューしました。22歳くらいから趣味で漫画を描いていたのですが、これが最後と、漫画からの“卒業制作”のつもりで描いたものが採用されたんです」

その名も『青春うるはし!うるし部』という漆をテーマにしたギャグ漫画。その漫画の連載、単行本発売を機に堀さんは漆職人としての会社を辞め、漫画家として歩み始めることになりました。
「やっぱり、自分みたいな凡人は、自分の能力の150%くらいで死ぬ気で挑まないとうまくはいかないんだなと思いました。これで最後と思ったから、一番よく知っている漆をテーマにした漫画を描いた。それで漫画家デビューできたんですから。でも、実際には漫画の収入では全然生活できなくて、漫画を描きながら漆を使った陶磁器の修復の仕方を教える“金継ぎ部”を頼まれるがまま、なんとなく主宰するようになりました」

その後、『パンの漫画』や『パンラボ』などイラストや漫画の仕事がなんとなく増え、今ではさまざまな雑誌や、著名人のオリジナルグッズなどのイラストも手がけるようになった堀さん。その傍らで金継ぎに関する著作も手がけ、金継ぎ職人と漫画家・イラストレーターという珍しい肩書を持つことになります。

骨董市での偶然に
物語を感じる

今回、お気に入りに選んでいただいた器も堀さん自身が金継ぎを行ったお皿。欠けていた白いスープ皿をいただき、金継ぎを行ったものだという。漆でカケを修復し、金粉で仕上げている。

「このお皿は大きさがほどよくて、いろいろなものを盛りつけて使っています。スープを入れたり、ときには煮物を入れたりすることもありますよ」

骨董市などに出かけて、古い器などを見るのが好きだという堀さん。金継ぎをして使おうと最初から少し欠けているものを選ぶこともよくあると言います。また、金継ぎを施した昔の器を見つけるのも楽しみのひとつ。

「骨董市では、直感が鍛えられるような気がします。昔誰かの手元にあった器と目が合うように出会って、どうしても欲しくなる。そこに偶然の物語を感じて、いいなぁと思うんです」

スープ皿と一緒に、並べていただいた大きなカップも骨董市で見つけたもの。
「修道院で使われていたカップだそうです。大きくサイドに35とナンバーが入ってるのも、実用的な意味合いがあるのかもしれません」
最初からカケやヒビが入っていたが、修道院のカップという物語に惹かれて持ち帰り、自身で金継ぎをし、毎日使っているという。巡り巡って堀さんの手元にやってきたカップ。たしかに物語を感じずにはいられない。

「スープ皿は最後に金で仕上げていますが、漆の色のままシンプルに修復するのも好きです。金継ぎの職人さんによって考え方はいろいろですが、僕はなるべくシンプルに、主張しないように直したいと思っています。それでも継ぐことで、もともとの器とは異なる魅力が生まれることもあり、それも面白いなあと思いますね」

おいしいサンドイッチは
人を幸せにする

今回、器に盛り付ける料理として選んでくださったのはサンドイッチ。「別に、おしゃれでもなんでもないですよ」と、笑いながら手際よく仕上げるサンドイッチは、ボリューム満点。ホームベーカリーで焼いたばかりのふわふわのパンを厚めにカットし、チーズ、ハム、キュウリ、バターをのせて、仕上げに黒胡椒。隠し味に明太マヨネーズを入れている。
「最近の好みは、どの具材も厚めに切ること。バターも塗らずに、カットしたものをそのまま乗せて、バターの味を楽しみます。カロリーは高いでしょうねぇ。でもおいしいんです」と堀さん。

『パンの漫画』や『パンラボ』など、パンにまつわる作品も多いことから、パンへの深いこだわりがあるのかと思ったが、もともとは“なんとなく”好きだったとのこと。でもパンに関する仕事から、種類の多さ、奥深さに気づき、今ではいろいろなパンを楽しむように。4歳になる長女の麦ちゃんもパン好きなこともあって、朝ごはんにサンドイッチを食べることも多いと言います。

「パンが好き、ということもありますが、サンドイッチが好きなのかもしれません。おいしいサンドイッチを食べると本当に幸せな気持ちになります。材料があるときは、アボカド、トマト、チーズ、ハム…ありったけの材料を挟んでなるべく複雑な味わいにし、口の中でいろいろな味を楽しむ。最高ですよねぇ」
そう頬をゆるませて話す堀さんは本当に幸せそうです。

漆を学び、縁あってパンにまつわる漫画やイラストを描き、人気の漫画家、イラストレーターとして大活躍の堀さん。もちろん、たくさんの努力がそこにあったのは間違いありませんが、堀さんの笑顔をみていると、肩肘張ったところがひとつもなく、こちらも“なんとなく”っていいなぁと、にこにこしてしまいます。

「とくにやりたい!って気持ちではなく“なんとなく”始めた漆でしたが、今では何よりも長く縁のあるものになりました。漆が漫画家やイラストレーターとしての道も、“金継ぎ部”としての活動もつないでくれたのですから、感謝しないといけないですね」

そう笑う堀さんに、「漆が継いでくれるなんて、よくできた話ですね」と言うと、「本当ですねぇ」と可笑しそうに笑顔で応えてくれました。

堀 道広(ほり みちひろ)さん

堀 道広(ほり みちひろ)さん

堀 道広(ほり みちひろ)さん

75年 富山県生まれ。うるし漫画家。 石川県立輪島漆芸技術研修所卒。
98年『月刊漫画ガロ』でデビュー。
漆職人として勤める傍ら漫画の持ち込みを続け、03年第5回アックス漫画新人賞佳作。以降、漆と漫画の分野で活動。著書に『青春うるはし! うるし部』(青林工藝舎)『おうちでできる おおらか金継ぎ』(実業之日本社)など。都内近郊で金継ぎワークショップ「金継ぎ部」主宰。おおらか金継ぎの普及に努める。

http://michihiro.holy.jp/

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