素晴らしき、ニッポンの味噌。

防災食アドバイザー 今泉マユ子さんが語る
「災害時こそ、温かく栄養たっぷりのみそ汁を」

2020/03/12

防災食アドバイザー 今泉マユ子さんが語る 「災害時こそ、温かく栄養たっぷりのみそ汁を」
防災食アドバイザー 今泉マユ子さんが語る 「災害時こそ、温かく栄養たっぷりのみそ汁を」

「災害時こそ、みそ汁です」と、管理栄養士であり、防災士、災害食専門員の今泉マユ子さんは言います。自身の知識や経験はもちろん、さまざまな実験を繰り返して得た学びを活かした書籍を数多く出版し、テレビや雑誌などのメディアに登場することも多い今泉さん。そんな彼女に「災害時こそ、みそ汁」という言葉に込められた意味と、災害時の備えについてお話をうかがいました。

温かいものを食べることは
生きる気力につながる

もし災害によってライフラインが止まってしまったとしても、できるだけ日常と同じ食事ができるようにと、全国各地で災害時の食や備えについての講演会やワークショップを行う今泉さん。ポリ袋を用いた、『お湯ポチャレシピ®』を勧め、『かんたん時短、「即食」レシピ もしもごはん』など、数多くの災害食のレシピ本も手掛けています。
そんな今泉さんが、2019年に出版したのが、『災害時でもおいしく食べたい!簡単「みそ汁」&「スープ」レシピ』でした。そこには、「どうしてもみそ汁、スープに特化したレシピ本がつくりたい」という、今泉さんの思いがあったそうです。

「我が家の子どもたちは、二人ともみそ汁が大好き。小さい頃から毎朝みそ汁を飲んで学校に通っていました。食欲がなくても『みそ汁なら食べられる』と言うし、なにか足取りが重そうな朝も、みそ汁を飲むと、スイッチが入ったようにシャキッとして出掛けていきます。前日の夜に鍋いっぱいにつくっておいたみそ汁を、毎朝食べて学校に出かけるのが子どもたちの日課でした」

どんなときも、カセットコンロとガスボンベと水の常備があれば、家にあるもので温かい料理を簡単につくることができる。そういう思いで災害時でも可能なレシピを提供してきた今泉さんでしたが、子どもたちが欠かさず食べてきた、元気のスイッチであるみそ汁こそ、災害時に食べることができるようにしたいと思ったのだそうです。

また、みそ汁は災害時にぴったりの料理だと今泉さんは言います。

「被災された方とお話した際、よく耳にしたのは『野菜が足りない』『温かいものが食べたい』という声でした。大規模災害のあとは、ライフラインがストップしてしまい、バランスのよい食事をすることはとても難しくなります。
しかし、災害時においても大切なことは、体と心の健康を維持すること。その点、みそ汁は、味噌自体の豊富な栄養素に加えて、具材によって食物繊維やタンパク質をとることができます。何よりも温かいものを食べることは生きる気力につながります。もしものとき、おにぎりや菓子パンを食べ続けなくてはならない状況になったとしても、一杯の温かいみそ汁があれば、ほっと気持ちを落ち着かせてくれるのに役立ってくれます」

さらに、みそ汁のいいところとして、こんなふうにお話してくださいました。

「たとえ、生野菜が手に入らなくても、乾燥野菜や乾物など、常温保存可能な食品を入れれば、具だくさんのみそ汁をつくることができます。具がたっぷりのみそ汁があれば、もし他のおかずが十分でなかったとしても栄養を摂ることができるでしょう。また、みそ汁は、どんな具材を入れても、味噌によって味がまとまりやすく、おいしく食べることができ、組み合わせも無限です。出汁を中華だしに変えたり、“ちょい足し”で柚子胡椒やすりごまを入れるなど、アレンジもしやすいため、飽きがこないことも、災害食としてぴったりですね」

乾燥野菜、乾物、缶詰
常温保存できるものは何でも
活用してみる

では、災害時でもみそ汁を飲めるようにするには、どんな備えをしておくとよいでしょうか?

「すべてのライフラインが止まってしまっても、温かいみそ汁を食べるためには、水の備蓄が欠かせません。それからカセットコンロ、ガスボンベ、鍋の備えは必需品となります」

ガスボンベの消費期限は7年。うっかり消費期限がきれてしまわないよう、しまったままにせず、時々カセットコンロで料理してみてくださいと、今泉さん。
さらに、食材についても教えていただきました。

「みそ汁ですから、味噌の備えは必要ですね。味噌や醤油などの調味料は、地域ごとに味わいが違います。日頃口にしている馴染みの味を食べると、ほっとできますから、ぜひいつもの味を切らさぬよう備えてください。また、嚥下(えんげ・飲み込み)が心配な方は、市販のとろみ剤を多めに備蓄しておくと安心です。

中に入れる食材として、便利なのは乾燥野菜。災害時は、流通がストップして生野菜が手に入りにくくなります。そうしたときに乾燥野菜を常備していると、食物繊維が摂れ、カットする手間がなく、生ゴミが出ないためとても便利です。みそ汁に入れるのに馴染みのある、ネギや大根菜などのほかに、フリーズドライのなすや、玉ねぎ、蓮根など、スーパーの乾物コーナーには、さまざまな乾燥野菜が並んでいますので、ぜひ手にとってみてください。
ほかにも、高野豆腐や切り干し大根、常温保存できる油揚げなどの乾物は、栄養価が高く、旨味があり、おいしいみそ汁の具材となります。変わり種としては、サバ缶などの缶詰製品や、魚肉ソーセージやカルパス(ドライソーセージ)などもおすすめですよ」

乾燥野菜や高野豆腐、切り干し大根、ドライパックのひきじやきのこ、缶詰のサバ缶や魚肉ソーセージなど、スーパーの売り場には常温で保存できる食品が豊富にある。「常温保存できるものであれば、なんでもみそ汁の具材になると考えれば、選択肢の範囲はぐんと広がりますから、おいしい組み合わせを探してみてください」と今泉さん。

また、日頃から備蓄するのであれば、「ローリングストック」をするのがおすすめだそうです。

「乾燥野菜や乾物は、常温保存ができますが、実は賞味期限が半年ほどと、あまり長くはありません。ですから、日頃から料理に利用して、使ったら買い足す『ローリングストック』をおすすめします。そうすることで、賞味期限切れの廃棄を減らすことができますし、日常的に食べている自分の好みのものを備蓄することができます」

また、たくさんの種類を備蓄しすぎて、日常で食べるのが追いつかないと、そのことがストレスになることもあると、今泉さんの経験も教えてくださいました。コツとしては、「日頃からよく食べる、常温保存できるものを、少し多めに買い置きしておく」のが基本となるようです。

息子さんの初めての
お留守番の日、大震災発生。
災害食に目を向けるきっかけに

そもそも、今泉さんがこうした災害食に目を向けるようになったのは、2011年3月11日 東日本大震災でのご自身の経験がきっかけだったと言います。

「当時、私は保育園の管理栄養士をしていました。上の娘は中学生、息子は小学校に上がる前の幼稚園年長生でした。3月11日のあの日、少し出かける用事があったのですが、息子が『小学生になる前にお留守番をしてみたい』って言ったんです。それで私も『そうね、お兄ちゃんになるんだから、いいかもね。30分ほどDVDを見ていてね』って。息子を置いて車で家を出ました。そして車で走っていた最中に、あの地震が起こったのです。今まで一度も一人にさせたことがなかったのに、息子が生まれて初めて留守番をしたその日に、起こってしまった。
地震が発生したとき、車で走っていてもすごく揺れているのがわかりました。外を見ると、歩行者もガードレールを掴んでしゃがんでいる。これはただ事じゃないと思いました。幸い、少しずつ車は動いてくれて、私は家に帰ることができましたが、この日、娘も夫も出掛けていて、結局彼らが帰ることができたのは、翌日でした。ですから、もし私がすぐに帰ることができていなかったら、息子一人で何か食べることができただろうか?と考えました。『お菓子は食べることができたかもしれない。でも缶詰は開けさせたことがなかったから、難しかったかもしれないな』と」

「どうして、よりにもよって今日?」と車を運転しながら何度も思ったと、今泉さん。災害はいつ起こるか、本当にわからないということを、身をもって体験したと言います。そして、ひとつ大きな気持ちの変化があったそうです。

「当時、『私は子どもを守れる』という変な自信がありました。私がいれば大丈夫と。でも、震災の日の経験から、子どもたちに、“自分の身は自分で守る”ためにはどうしたらいいか?を教えることが親の務めだと考えるようになりました」

そして、震災をきっかけに、災害食についても調べるようになったそうです。

「市販の災害食を買っては試し、かかる費用や、おいしさを調べたり、子どもにも簡単にできる調理法はないか?と考えて試行錯誤するうちに、行き着いたのが『お湯ポチャレシピ®』でした」

断水時に非常に
威力を発揮する
『お湯ポチャレシピ®』を
やってみる

お湯ポチャレシピは、パッククッキングやポリ袋調理とも呼ばれる調理法。高密度ポリエチレン製のポリ袋に材料を入れて湯煎する方法です。

「お湯ポチャレシピなら、ごはん、みそ汁、おかずなど、それぞれ別のポリ袋に材料を入れ、一つの鍋で同時につくることができます。また、使用したお湯は何度でも繰り返しお湯ポチャに使えます。

災害時には、出来上がりを袋のまま手渡すことができ、その袋を器にかけて食べることができるので、食べ終わった後、袋を捨てると洗い物がでません。ですから、断水時に非常に威力を発揮する調理法だと思います」

お湯ポチャレシピの
基本の作り方
「切り干し大根と油揚げのみそ汁」の場合

  • <用意するもの>
    蓋付き鍋・皿
    カセットコンロ・カセットボンベ
    高密度ポリエチレン製のポリ袋
    トング・キッチンバサミ

(※)高密度ポリエチレン製のポリ袋を使用しないと、熱で袋が破れる危険があります。商品表示に「高密度ポリエチレン」と表記があるものを使用してください。ただし、「耐熱性」や「湯せんができる」などの表示があれば使用可能です。

  • [材料]
    切り干し大根(長ければキッチンばさみで切る)5g
    常温保存可能油揚げ4g
    紙コップ1カップ(180〜200cc)
    顆粒だし小さじ1/3
    味噌(今回は「プラス糀 無添加 糀美人」を使用)
    小さじ2
    ※だし入り味噌を用いる場合は、顆粒だしの用意は必要ありません。
  • [作り方]
    1. カセットコンロにボンベをセットし、鍋に皿を入れる。
    【point】鍋底にお皿を入れるのは、袋が鍋につかないようにするためです。これにより袋に穴が開くのを防ぐことができます。
    2. 材料をポリ袋に入れ、コップ1杯分の水を入れる。
    3. ポリ袋の上から材料を簡単に混ぜ合わせる。
    4. ポリ袋の中の空気を抜きながら、ねじりあげる。
    5. ポリ袋の上の方を固く結ぶ。
    【point】加熱により袋が膨張したり、湯の中で袋が浮いてきたりするため、空気を抜いて、できるだけ袋の口に近い部分を結ぶとうまくいきます。
    6. 鍋の1/3の高さまで水を入れ、材料を入れたポリ袋を鍋に入れる。
    7. 蓋をして火をつけ、沸騰してから5分間加熱し火を止める。そのまま5分間蒸らす。
    8. 菜箸やトングを使って取り出し、器に移す。
    9. 結び目が固くなっているので、ハサミで結び目の下を切る。
    【point】袋から器にみそ汁をあける場合は、袋の端を持って引き抜きますが、器が小さいとこぼれることがあります。結び目のすぐ下をハサミで切った後、ポリ袋を両手で持って上からお椀に注ぐように入れると、こぼれにくいようです。
    災害時は、そのまま袋を器にかけて食べれば、食器を洗う水を節約できます。食べにくい場合はスプーンで食べ、使ったスプーンはウエットティッシュ等で拭いてください。

「知っている」から「できる」に変えて
『もしも』に備える

「お湯ポチャレシピは、誰にでも簡単につくれることを目指しています。ですから、大人向けだけでなく、時折、子どもたちや障がいのある人を対象にしたワークショップも行っています。ワークショップの場にさまざまな具材を用意すると、食べ慣れたほうれん草やお揚げなどの具材を選ぶ人もいれば、あまりみそ汁の具としては馴染みのない、カルパスを選んでみたり、柚子胡椒や桜えびで味を変えるのを楽しんだり、いろいろと試してくださるようです」

そのようにして、実際にやってみる、試してみることが大切だと今泉さん。

「備蓄はとても大切ですが、家にあるだけでは安心できません。災害時において、『知識がある』ことと『できる』ことは、ずいぶん違うからです。『知っている』『聞いたことがある』から、『できる』に変えていくことが大切です。
災害が起きてからできることは限られていますが、平時にできることはたくさんあります。日常からお湯ポチャレシピや、ローリングストックなどを実践し、災害時においても、温かく栄養のあるものを口にして健康を保てるよう『もしも』に備えてもらえたらと思います」

今泉マユ子(いまいずみまゆこ)さん

管理栄養士

今泉マユ子(いまいずみまゆこ)さん

管理栄養士

今泉マユ子(いまいずみまゆこ)さん

管理栄養士として大手企業社員食堂、病院、保育園に長年勤務。食育、災害食に力を注ぎ、2014年に管理栄養士の会社を起業。レシピ開発、商品開発に携わるほか、防災食アドバイザーとして全国で講演、講座を行う。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などで活躍中。毎月第2火曜日 日経新聞夕刊「時短家事」コラム連載中。
近著に、『新装版 親子で学ぶ防災教室 災害食がわかる本』『新装版 親子で学ぶ防災教室 身の守りかたがわかる本』(理論社)、『災害時でもおいしく食べたい! 簡単「みそ汁」&「スープ」レシピ もしもごはん2』(清流出版)『「もしも」のときに役に立つ! 防災クッキング 1 電気・ガスが止まったときに役立つレシピ』『「もしも」のときに役に立つ! 防災クッキング2 水道が止まったときに役立つレシピ』『「もしも」のときに役に立つ! 防災クッキング 3 自分を守る!食べもののそなえとじゅんび』(フレーベル館)などがある。

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