素晴らしき、ニッポンの味噌。
おみそ汁専門店「MISOJYU(ミソジュウ)」の
みそ汁の概念をガラリと変える楽しい一杯
2021/07/15
おみそ汁専門店「MISOJYU(ミソジュウ)」の
みそ汁の概念をガラリと変える楽しい一杯
素晴らしき、ニッポンの味噌。
2021/07/15
みそ汁といえば、言わずと知れた日本人のソウルフードのひとつですが、外食するという経験は少ないのではないでしょうか? そんななか、2018年に浅草の雷門からほど近くの商店街の一角にオープンしたのが、みそ汁専門店「MISOJYU(ミソジュウ)」。メニューを手がけるフードディレクターのエドワード ヘイムスさんに、みそ汁に注目したきっかけや思いなど、お話を伺いました。
外国人だけでなく日本人にも人気の観光スポット浅草。みそ汁専門店としてオープンした「MISOJYU」は、一見おみそ汁屋さんとは気が付かないような、まるでコーヒースタンドのような佇まい。取材当日も、若い女性のお客さまで賑わいをみせていました。人気の秘密は、ここ数年の発酵ブームともに、ほかにはないユニークなメニュー構成です。生みの親はミュージシャン、カメラマン、レストランのシェフという多彩な顔をもつエドワード・ヘイムスさん。なぜ日本でみそ汁の専門店を手がけることになったのでしょうか?
「父はアメリカ人で、母は日本人。ですから、小さい頃から食卓には当たり前のようにみそ汁がある日常でした。また、“手前味噌”という言葉もあるように、母の実家の新潟では、味噌はそれぞれの家で作られていましたし、日本に住んでいた頃は特別なものでもなかったんですよね。18歳になって、ミュージシャンになりたいとカリフォルニアに渡米。大学はニューヨークでしたが、日本とも行き来しながら写真を撮り始めるようになりました。食の道に入ったのは写真がきっかけ。世界中の一流のレストランを撮影しているうちに、食材や料理そのものに興味が出たんです」
その後、サンタモニカのフレンチベトナミーズのレストランで8年ほどシェフも勤めたエドワードさんは、世界の料理を知れば知るほど、当たり前だった日本食の素晴らしさも感じるようになっていったそう。そんなあるとき、運命の出会いが訪れます。
「あるとき日本行きの飛行機の中で、たまたま書道家の武田双雲さんの作品を目にする機会がありました。素晴らしいと思いコンタクトしたんですよね。当時私はオーガニックが盛んな西海岸に住んでいたのですが、双雲さんがオーガニック食への関心が高まっていたこともあり、すっかり意気投合。何年か交流を続けるうちに、日本でオーガニックカフェを作ることになりました。のちに、2店舗目のプロジェクトが立ち上がったときに思い出したのが日本の発酵文化だったんです。なかでもこれまで脇役でしかなかったみそ汁に光をあてたいと、専門店を作ることに。浅草という土地柄、外国人はもちろん、日本人にも改めて味噌の魅力を発信しようと誕生したのが『MISOJYU』です」
みそ汁といえば朝ご飯ということもあり、「MISOJYU」のオープンは朝8時に設定。海外旅行が規制される以前は、日本の食文化を体験しようという外国人観光客のみなさんで、朝早くから賑わっていたそうです。
「コロナ禍になる前は、本当に世界中からたくさんのお客さまが来てくれました。今はすっかり静かになってしまった浅草ですが、最近はビジネスマンや若い女性が増えてきたんですよね。普段あまりみそ汁を飲まないような人たちにも楽しんでほしいと思っているので、とても嬉しいです」
“みそ汁が主役”というこれまでになかったコンセプトのもと開発されたメニューは、「まるごとトマトとほろほろ牛スネの みそポトフ」や、「豆乳とホタテのとろーり みそポタージュ」、「ごろごろ野菜と角煮のすんごいとん汁」など、オリジナリティあふれるものばかり。海外から訪れる観光客のみなさんはもちろん、私たち日本人にとっても楽しいメニューの数々です。
「海外では高級な日本食店にはMISO SOUPはあっても、外国の人にとってはまだ馴染みのないもの。まずは、みそ汁への間口を広げて、気軽に味わってもらうためには?というところからレシピ作りをスタートしました。そこで、外国の方にもともと馴染みのある、ポトフやクラムチャウダーなどの要素を取り入れることにしたんです。日本人にしたら、え!?みそ汁にトマトを入れるの?なんて驚かれることもありましたが、とても人気メニューなんですよ。味噌って種類も豊富ですし意外にどんな食材にも合うんですよね、懐の深さを感じます」
また、大きな具材がたっぷりと入っているのもこだわりのひとつです。トレーに乗って運ばれてくると、想像を超えた器の大きさにびっくりするほど。
「みそ汁が主役なので、メインの品として1杯で満足いただけるように作っています。素材を存分に味わってもらうために、具材はできるだけ大きめにカットしています。家庭のみそ汁との違いは、例えば角煮は何時間もかけてじっくりと煮込むなど、食材ひとつひとつに手間と時間をかけているのと、具材に合わせて味噌を変えていること。また、旬を楽しんでいただけるように季節ごとのメニューもあります。この夏に予定しているのは、青パパイヤとキムチをつかったもの。消化によい食材で、暑い季節にぴったりですよ」
オーガニック食からスタートしている「MISOJYU」は、有機野菜を中心とした、厳選食材がふんだんに使われています。サイドメニューのおにぎりに使われているお米も有機オリジナルブレンド米。抹茶の原料である碾茶(てんちゃ)をまぶした塩にぎりや、外国人にも喜ばれるスパイシーツナなど、エドワードさんこれまでの経験から生まれるオリジナリティあふれるものばかり。また、旬の食材からインスピレーションを受けて作られる季節のおみそ汁は、これまで親しんできたみそ汁のイメージをさらにガラリと変えてくれる、楽しい経験になります。
3周年を迎えた「MISOJYU」は、この4月に新しいショップ「MISOJYU SELECT」をオープンしました。みそ汁にも使われている味噌やセットメニューの小鉢にも添えられるこだわりの豆腐など、日本全国から集めた日本の伝統食材をセレクトしたお店です。
もっと気軽に家庭でも楽しんでほしいと、新しいことへの挑戦も始めた「MISOJYU」。エドワードさん自身も、次のビジョンがあるようです。
「アメリカに住んでいたとき、やっぱり小さい頃から食べて慣れてきた和食は、いつでも食べたかったですよね。自分が料理をするようになってからは、日本独自の発酵食の魅力や美味しさを改めて知りました。現在、久しぶりに日本に長く滞在中なのですが、戻ってきて以来、さらに日本の伝統食に興味が出てきたんです。昔の人がどんなふうに食事をしていたのか、全国各地にはどんな発酵食があるのか、日本の伝統食を研究したいなと思っているところです」
「MISOJYUで使っている味噌もそうですが、若い人たちが新しいことに挑戦して伝統を受け継いでいるのも頼もしいですし、応援していきたいと思っています。そして日本の素晴らしい伝統食を外国のみなさんにも知って欲しいですし、なにより日本人にとっては大切な食文化を、もっと身近に感じてもらえたら嬉しいですね」
興味の赴くままに世界を広げ、さまざまなことに挑戦してきたエドワードさん。各国の食文化に触れ、フランスの星付きレストラン、日本の老舗旅館などの一流の食に触れてたどり着いた、一杯のみそ汁。
「MISOJYU」で初めてみそ汁を知った人、改めてみそ汁の魅力に気づいた人など、たくさんのみそ汁との出会いが生まれてきました。下町の小さなスペースから、みそ汁を通した日本の発酵文化を今日も発信しています。
※新型コロナウイルスの影響により、営業日時が変更になることがあります。店舗にご確認ください。