美(うま)し国の食巡礼

バスク地方の豊かさを伝えたい。
「IZURUN」中武シェフ流のおもてなし

2022/08/29

バスク地方の豊かさを伝えたい。 「IZURUN」中武シェフ流のおもてなし
バスク地方の豊かさを伝えたい。 「IZURUN」中武シェフ流のおもてなし

三重県多気町にある大型商業施設「VISON」の山肌に沿うような形で立つ「ヴィソン ホテルズ」の最上階に、中武亮(なかたけあきら)シェフが腕を振るう、スペイン・サンセバスチャン・交流レストラン「IZURUN(イスルン)」があります。若くしてスペイン料理に魅せられ、バスク地方の美食都市と名高いサンセバスチャンの三つ星レストランで学んだ中武シェフは、日本では数少ないバスク料理のプロフェッショナルの一人。VISON内に再現された「サンセバスチャン通り」にある、店舗の総合監修も務めています。

「バスク地方の魅力は何といっても『人』です。料理とサービスでバスクのリアルを再現した『IZURUN』で、物質的でない豊かさにふれてもらいたいですね」と話す中武シェフに、食へのこだわりとおもてなしの極意についてお話を伺いました。

食事前のプレゼンも
IZURUN流のおもてなし

「IZURUN」のディナーは、入り口近くのカウンターバーから始まります。案内されたゲストは食前酒をたしなんだのち、奥の隠し扉を通って予約席…ではなく、厨房へと進むのです。厨房では料理人たちの無駄のない手さばきを間近で見ながら、本日の料理に使う食材の説明を受けます。
さらに奥へと進むと、今度は秘密の小部屋が現れ、そこでは中武亮シェフみずからが、スペインのこと、自身が過ごしたバスク地方とサンセバスチャン、バスク料理のことを、聞き手を飽きさせないテンポの良い口調で語ってくれます。

まだ訪れたことのない人には、バスク地方が思い描けるように、行ったことがある人にはさらに魅力が伝わるように。すべての人に同じ熱量で、思いを込めて語る中武シェフの話は、まるで自分までバスク地方に精通しているような気分になるから不思議です。
そして、このディナーの席に着くまでのプロセスを含めた一連の流れもまた、「IZURUN」のディナーコースのひとつとなっているのです。

最初に通されるバーカウンターで食前酒からスタート。

ゲストは扉を抜けて、厨房へと向かう。

「『バスクの魅力は?』と聞かれると、私はいつもバスク人こそがバスクの魅力ですと答えます。バスクの人たちは、本当に『人』が好き。お金か人かと問われたら、迷わず人を選ぶようなところがあります。
人との出会いを大切にして、出会った相手を思い、喜ばせようとする。それがバスク人の真髄なんです。家族や友人と食事をする時間も、とても大切にするんですよ。料理だけでなく、そうしたバスクの人たちの心のこもったもてなしを、リアルに近いサービスとして提供したくて、いろいろな演出を考えています」

「IZURUN」の中武亮シェフ。

ゲストに渡される本日のメニュー表にある、「真心込めて料理致します」というメッセージとサインは、中武シェフが一枚一枚手書きで書いているもの。もてなしの心を単なるモットーだけで終わらせず、みずから実践する真摯な人柄は、まさに中武シェフが語るバスク人の姿そのもののように思えます。

スペイン本場での修行を経て「IZURUN」を開業

中武シェフとスペイン料理、そしてバスク料理との出合いは、調理師専門学校で学んでいた10代の頃にさかのぼります。
現代におけるスペイン・バスク料理の父ともいわれる深谷宏治(ふかやこうじ)氏が学校にゲスト講師として登壇されたのをきっかけに興味を持ち、卒業後は同氏が北海道・函館に開いた「レストラン バスク」で働きます。そこで5年の修業を経て、中武シェフは奨学生としてスペインへ渡航。偶然にも、深谷シェフが過去に働いていたサンセバスチャンのレストラン「AKELARRE(アケラレ)」に、街並みや人々に魅了されながら働きます。

すると、「美食を通じた友好の証」を2017年1月に締結したサンセバスチャンと多気町のつながりから、VISON内にもそれを記念し、サンセバスチャン通りを手掛ける構想が浮上。その統括責任者として中武シェフに声がかかり、現地での2年半の修行を経て帰国することになったそうです。
中武シェフは、「本場・スペインで得た学びを日本の地域活性化の取り組みに活かすことで、日本にもスペインにも恩返しができるのではないか」と考え、バスクの良い物と日本の良い物を取り入れた交流レストランをコンセプトに「IZURUN」を立ち上げました。

「IZURUN」で中武シェフが目指すのは、味はもちろん、香り、見た目、そして食事前のプレゼンテーションまで含めて、「わあ!」とお客様が歓声を上げるような瞬間をたくさん詰め込むこと。また、「レストラン バスク」では、乳酸菌発酵で知られる自家製アンチョビを料理に活かしており、中武シェフ自身も以前から発酵に興味を持っていたことから、「IZURUN」で提供される料理には多くの発酵食品を使用するなど、「日本らしさ」もさりげなく表現されているそうです。

「IZURUN」では、中武シェフの感性を活かした料理の数々が楽しめる。

VISONのサンセバスチャンを、
もっと本物に近づけていきたい

中武シェフが監修するVISONのメインストリートでもあるサンセバスチャン通りには、本場サンセバスチャン市民に親しまれているピンチョス(串や楊枝に刺したひと口サイズの軽食)を楽しみながらお酒を気軽に味わえるバルスタイルの店などを3店舗展開。ほかにも、サンセバスチャン郊外にある名店のチーズタルトのレシピを再現したスイーツの店や、糀甘酒を使ったスイーツが味わえる「糀茶寮 Produced by 魚沼醸造」のほか、ライフスタイルショップなどが立ち並びます。

VISON内のメインストリートでもあるサンセバスチャン通り。

こちらはチーズタルト。

おいしい物を食べ歩き、ふらっと入ったバルで見知らぬ人との交流を楽しみ、趣味に合った生活の品を買い求めて家路に着く。そして好きな物がたくさんある町に誇りを持ち、毎日の暮らしを楽しむ――。
そんな現地の空気感をそのまま再現し、「形だけでなく本質をサンセバスチャンに近づけていきたい」と中武シェフは語ります。

「『IZURUN』もサンセバスチャン通りも、月日を重ねることで本物になっていけると思っています。VISONでスペインという国を知ってもらい、バスク地方とサンセバスチャンの魅力にふれ、バスクに生きる人に興味を持ってもらえたらこんなにうれしいことはありません。しっかりと日本らしさ、三重らしさも取り入れながら、両国の魅力を伝える場所にしていきたいと思っています」

中武亮(なかたけあきら)さん

中武亮(なかたけあきら)さん

中武亮(なかたけあきら)さん

レストラン「IZURUN」のシェフ。調理師学校を卒業後、スペイン料理の巨匠とも呼ばれるルイス・イリサール氏から学んだ料理人・深谷宏治氏の店「レストラン バスク」で修行。スペイン留学後、バスク地方の三つ星レストラン「AKELARRE(アケラレ)」で研鑽を積み、帰国後にVISON内のレストラン「IZURUN」のほか、サンセバスチャン通りのバルやスイーツ店など、5店舗の監修を務める。

IZURUN | VISON Beautiful Village in TAKIVISON Beautiful Village in TAKI

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