美(うま)し国の食巡礼
土から食卓へ、食卓から土へ。
農園レストラン「NOUNIYELL」
2022/10/11
土から食卓へ、食卓から土へ。農園レストラン「NOUNIYELL」
美(うま)し国の食巡礼
2022/10/11
「これからの農業にエールを」をコンセプトに掲げ、三重県の商業施設「VISON(ヴィソン)」内にある農園エリアにオープンした「NOUNIYELL(ノウニエール)」。料理にはレストランの裏手に広がる農園で育てた野菜をふんだんに使い、調理の過程で出た皮やヘタは土に返して、環境への負荷を軽減した持続可能な取り組み業を実践しています。
レストランの監修は、地産地消で知られるイタリアンシェフの奥田政行氏。高校時代に聞いた奥田シェフの講演がきっかけでこの道に入ったという、NOUNIYELL料理長の北村ふく(きたむらふく)さんにお話を伺いました。
地元・多気町の高校に通っていたという北村さん。所属していた調理クラブの活動の一環で奥田シェフの講演を聞く機会があり、そのフランクかつ実直な人柄と、食材や料理に対する考え方に魅了され、料理人への道を決めたといいます。
高校卒業後は、三重県・菰野町にある湯の山温泉のリゾート施設・アクアイグニス内の奥田シェフ監修のお店に就職。同氏の料理哲学や、三重県の食材だけでなく全国にある食材の活かし方を学んだのち、2021年の開店時に料理長に就任しました。
NOUNIYELLでは、従来の「傷んだら捨てる」「余ったら捨てる」という食材に対する価値観を根本から変えるべく、必要な物を必要なだけ作り、使えない部分は土に返して肥料にする循環型農業を実践。究極の地産地消を実現すべく、調理の合間に並行して研究を続けています。
「NOUNIYELLのコンセプトは『農業にエールを』。肥沃な土地を求めて森林を伐採したり、大量の水を使用して資源を枯渇させたりしない、持続可能な農業を知ってもらうことを目的のひとつとして、農園で作った野菜を使ったイタリアンを提供しています」
野菜は農園で採れた物を中心に、できるだけ土地の物を使って地産地消を推進するほか、雨水を貯めて使用することで水資源の維持にも努めているそうです。
NOUNIYELLのメニューは、基本の数品を除いて、毎朝北村さんが採れたての野菜の味を確かめてから決定しています。
例えば5月であれば、ほうれん草やグリーンリーフ、水菜などの葉物や、かぶ、にんじん、ラディッシュ、スナップエンドウなどの中から、その日最も甘くてみずみずしい物を選んでサラダに。えぐみがある物は適切な下処理をし、火を入れることで本来の味を引き出して付け合わせにするなどの工夫をしています。
料理人としてのセンスが試されるこの時間を、北村さんは「とても楽しい」といきいきとした表情で話してくれました。
「奥田シェフからは、前菜やメインは土地の物を使い、料理長の経験や思いをのせて提供するようにアドバイスを受けています。この野菜はあの魚に合いそうだとか、バーニャカウダに使った野菜の端っこを集めてサラダにしてみようとか、アイディアは尽きません。
お客様に提供する際には、どんな料理なのかはもちろん、どれが畑で採れた野菜なのかということも簡単にお話ししながら、料理と素材に興味を持っていただけるようにしています」
モーニングで人気なのが、フレンチトーストにたっぷりと野菜をのせ、ドレッシングをかけていただく一品。砂糖やはちみつなどで甘みをつけるのではなく、新鮮な野菜の濃い旨みでフレンチトーストを食べる、斬新で鮮烈なおいしさが記憶に残るメニューです。
粗ごしの野菜の粒々とした食感とともに、野菜の濃い旨みがたっぷり残されたコーンスープや野菜ジュースからも、「いつもの野菜との違い」を感じることができるでしょう。
また、北村さんこだわりの詰まった「酒粕ピザ」もおすすめです。
「酒粕ピザは、生地だけ食べてもおいしいピザを作りたくて、試行錯誤する中で生まれたピザです。VISON内にある井村屋さんが清酒『福和蔵』を作る過程で出た酒粕を酵母にして焼き上げているので、発酵しやすくて香りもいいんですよ。
この酒粕は、本来なら廃棄されてしまう物だそうですが、今後はこうした『VISON内循環』も進めていけたらいいなと思っています」
NOUNIYELLの魅力は、「実際に体験して、循環型農業にふれられること」でもあります。
自分で収穫した野菜を使ったイタリアンが楽しめる体験型ランチや、VISON内で販売されているお酢とみりんで野菜を漬けるピクルスづくり体験など、コロナ禍の影響を受けて一時的に休止していた企画も少しずつ再開していきたいと話す北村さん。
「食材を無駄にしない調理の仕方や、収穫した野菜のおいしさにふれていただき、循環型農業の意味や意義を知ってもらうことが私たちの願いです。この場所に足を運んでくださる方を少しでも増やせるように、さまざまなイベントを考えていきたいですね。
NOUNIYELLをきっかけに、自宅でも無駄なく食材を使おうと思ったり、健康的な生活を意識したりするお客様が増えてくれたらうれしいです」