発酵でつながる、おいしい輪!「私の発酵“推し”美食」

Vol.28 でっかいパンが旨い理由。
Panezza角谷聰さんが語る、
伝統の発酵種「パスタ・マードレ」と薪窯の蓄熱

2026/04/02

Vol.28 でっかいパンが旨い理由。Panezza角谷聰さんが語る、 伝統の発酵種「パスタ・マードレ」と薪窯の蓄熱
Vol.28 でっかいパンが旨い理由。Panezza角谷聰さんが語る、 伝統の発酵種「パスタ・マードレ」と薪窯の蓄熱

パンの味の決め手は、「発酵」と「焼成(しょうせい)条件」にあります。とりわけ、パンの「大きさ」は味わいを左右する重要な要素。大きなかたまりで焼き上げることで、内部の水分を保ちながら、小麦本来の風味と発酵による重層的な旨み・酸味を引き出すことができるのです。

食のプロが「推したい発酵食」を紹介する本連載。第28回のゲストは、茨城県石岡市の里山でパン工房「フォルノ・ア・レーニャ パネッツァ」を営む、角谷聰(すみやさとし)さんです。

イタリア伝統の発酵種「パスタ・マードレ(母なる生地)」を軸にした、パン作りの本質とは? トースターで気軽に楽しめる「フォカッチャピッツァ」のレシピや、時間が経ったパンをしっとりよみがえらせるリベイクのコツなど、日常に活かせるパンの魅力をお届けします。

薪窯で焼き上げる、質実剛健な“でっかいパン”

「パンって、でっかく作ったほうがおいしいんですよ」

角谷さんが作るパンは、確かに大きくてどっしり。質実剛健な佇まいと、かむほどに旨みが広がる味わいは、プロのシェフたちからも信頼を寄せられています。

一口ごとにしっかりとあごを使い、かみしめることを要求するみっちりとしたパン。ぎゅっと凝縮された小麦の力強い風味と、発酵による奥深い旨みやほのかな酸味が口の中に広がり、気づけば手元のワインが消えていく。そんな実感から、シェフの中には「呑めるパン」と表現する人もいるほどです。

「豚汁も大鍋で作ったほうが旨いし、ワインもマグナムボトルが旨かったりする。パンも同じように、大きいかたまりのまま焼いたほうが断然おいしい。同じ生地でも、全く味が違います」

その言葉を支えているのが、自身が設計から携わった大きな薪窯です。

栃木県益子町で登り窯を築く職人とともに作り上げた窯。最大の特徴は、圧倒的な「蓄熱」の力です。薪を燃やしてレンガに熱を蓄え、その余熱でじっくりとパンを焼き上げる。大きなパンを芯まで焼くには、焼成時間中に安定した熱が保たれている必要があります。

薪窯ならではの強固な蓄熱があるからこそ、外側はパリッと力強く、内部は水分を保ったままのみっちりとした“でっかいパン”が生まれるのです。

パンの生命力を決める「パスタ・マードレ」

角谷さんのパン作りのルーツは、イタリア中部にあるジェンツァーノという街にあります。現在、自身の工房で使っている薪窯も、この街で出合った伝統的な窯をモデルにしました。

「ジェンツァーノはパンの街で、車で1時間ほど離れたローマからもわざわざお客さんが来るほど。繁忙期は薪窯もパン職人もフル稼働! 1回に80kgも焼ける大きな薪窯で178回もパンを焼いていました。パンは日々の食卓に欠かせない、主食ですから」

その本場で角谷さんが受け継いだのは、イタリアパンのベースで、命とも言える「パスタ・マードレ」です。膨らんだパン生地そのもののような、ふっくらとやわらかなかたまりは、小麦粉と水を練り上げ、自然の力で発酵させたもの。

「粉1kgに対して水500gほどを加えて練り、暖かいところに置いておく。すると45日でプツプツと膨らみ始めます。外側の皮部分を取り除きながら、12週間かけて育てていくと、ようやくパン種として使えるようになります」

十数年、粉と水を継ぎ足しながら育てている「パスタ・マードレ」。ここから使用する分を取り分ける。

「この酵母は、料理でいう“だし”みたいなもの。香り、味、膨らませる力、すべてのベースです。パン生地全体の35%ほど使います。冬は多め、夏は酵母の活動が活発なので少なめに」

ゆっくりと時間をかけ、自然の営みを待つ。生地には、酵母が静かに息づきます。季節によって発酵の度合いや味わいが異なるのも、生きている菌が生み出すものだからこそ。

「一年を通して、同じ味を作ろうとは思っていません」。どこにも無理をしない、角谷さんのパン作りの姿勢が一つひとつの言葉ににじむようです。

薪窯の副産物「フォカッチャ」で楽しむ、
気取らないピッツァ

Panezzaの人気商品の一つが平たいパン、フォカッチャ。このフォカッチャは、薪窯でパンを焼くときの「副産物」でもあるのだそうです。

「薪窯でパンを焼くときは、火をおこして400℃くらいまで温度を上げます。下から薪火が当たっているので、どうしても炉床(ろしょう)に熱が溜まります。いきなりパンを入れると、下が焦げやすくなってしまうんですね。そこで平たいフォカッチャを最初に焼く。すると、適度に炉床の熱がとれて、その後に焼くパンも均等に焼き目がつくんです」

オリーブ油を練り込んで焼き上げるフォカッチャ。

角谷さんの“推し発酵食”は、自家製フォカッチャにチーズやトマトをのせて食べる気軽なピッツァ。フォカッチャに好みの具をのせて、トースターで温めれば完成です。

  • [材料](1人分)
    ●クアトロフォルマッジ風
    フォカッチャ1/2枚
    好みのチーズ適量 (ゴルゴンゾーラ、モッツァレラ、カマンベール、ピザ用チーズなど3〜4種類)
  • [作り方]
    フォカッチャに小さく切ったチーズをのせ、250℃のトースターで4分30秒ほど焼く。
  • [材料](1人分)
    ●マルゲリータ風
    フォカッチャ1/2枚
    トマトソース(トマト缶をこして塩少々を混ぜたもの) 適量
    モッツァレラチーズ適量
  • [作り方]
    フォカッチャにトマトソースを塗り、小さく切ったチーズをのせ、250℃のトースターで4分30秒ほど焼く。

トマト缶をこして、塩少々で味つけしたものをトマトソースの代わりに。「煮詰める必要もなし、気軽にどうぞ」

「クアトロフォルマッジ(4種のチーズ)といってもチーズは3種類でもいいし、ハムをのせたり、アンチョビをのせたりしてもいい。僕が修行したジェンツァーノでは、フォカッチャにモルタデッラというボイルハムをはさんで食べるのが、子どもたちのおやつの定番。そんな気楽な雰囲気で味わってもらえたらと思います」

毎日のように食べる「主食」だからこそ、肩ひじを張らずに。

「食べきれなかったパンは、ちょっと霧吹きをしてアルミホイルにくるんで蒸すと、しっとり感がよみがえります。ガリガリした食感が好きなら、そのままトースターで焼いて、スープに浸して食べるのもいい。決まりなんてない、自由でいいんです」

パンという広大な歴史、その先に

築100年の古民家を改装したカフェスペース。

イタリアに渡った当初は、「日本に帰ったらスパゲッティ屋になろうかなと思っていた」という角谷さん。しかし、現地で出合ったパンと文化が、その進路を大きく変えていきました。イタリア文化とイタリアパンに魅せられ、今では里山の古民家でパン工房を営みます。

「自分の作るイタリアパン、という感じはしないんです。『イタリアパンを作る自分』であって、『角谷聰が作るイタリアパン』にはなり得ない。パンの前に僕が来ることはない。数年前に、ヨルダンで14400年前のパンの痕跡が見つかったというニュースがありました。そんな長く深い歴史をもつパンという存在に対して、たかが1人の人間の人生で理解でききることって限られている。だからこそ、本質を理解し、学び続けて、向き合いたい。そのくらい、おもしろいものを見つけられたと思っています」

パン作りにどこまでも本気で向き合う角谷さんのかたわらには、自由奔放な“猫店員”の姿。思い思いの姿でまどろむ3匹の猫たちを目当てに、お店を訪れるお客さんも多いのだとか。

「もともとは犬派だったはずなのに、猫と暮らし始めたら猫派になってしまいました。パンが焼けなくても生きていけるけど、猫がいなくなったら生きていけないかも(笑)」

時間をかけて育て、変化を受け入れながら向き合う。その姿勢は、猫たちが気ままにくつろぐこの場所の空気にも通じているのかもしれません。

次回は、「29Rotie(ニーキューロティ)」の江澤雅俊さんへとバトンをつなぎます。どうぞお楽しみに!

角谷 聰(すみやさとし)さん

角谷 聰(すみやさとし)さん

角谷 聰(すみやさとし)さん

愛知県出身。辻調理師専門学校を卒業後、27歳でイタリアへ渡り、フィレンツェ、ナポリ、ジェンツァーノで修行。帰国後、栃木県益子町のパン工房での勤務を経て、2013年にパン工房「フォルノ・ア・レーニャ パネッツァ」を開業。2019年末にカフェ「イタリア茶屋Panezza」をオープン。

フォルノ・ア・レーニャ パネッツァ

住所:
茨城県石岡市弓弦688
TEL:
0299-51-5401
定休日:
火・水

Instagram:@forno_a_legna_panezza

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