発酵に恋して。

食べておいしく、目に美しく。
全国から受講者が集まる食のアトリエ
「発酵ごはんの教室madoi」

2021/01/28

食べておいしく、目に美しく。 全国から受講者が集まる食のアトリエ 「発酵ごはんの教室madoi」
食べておいしく、目に美しく。 全国から受講者が集まる食のアトリエ 「発酵ごはんの教室madoi」

静岡県静岡市に、全国各地から受講者が集まるという食のアトリエ 発酵ごはんの教室「madoi」があります。「madoi」を主宰するのは、発酵食スペシャリストの辻村円さん。8年前に開講して以来、受講者が途絶えることはなく、高校生から80歳まで幅広い世代が辻村さんの料理教室に参加しているといいます。そこで、辻村さんに発酵食に惹かれたわけや、辻村さんの教室やワークショップの人気の秘密について伺うため静岡を訪れました。

栄養、つくり方、盛り付け、写真の撮り方まで
たっぷりと学べる発酵の教室

静岡駅からしばらく歩くと、三角屋根と白いのれんが印象的な建物が見えてきます。食のアトリエ「madoi」です。中に入ると、高い天井、美しく差し込む光、季節の花が上手に飾られたコーナーやテーブル、並べられた美しい器や調理器具と、素敵な飲食店のような空間が広がっていました。

私たちが訪れたこの日は、「発酵食を作り・食べて、学べる『発酵ごはんの料理教室』」があり、受講者の皆さんを送り出したばかり。でも、辻村さんはさっきまで講義をしていたという疲れなど、まったく感じさせない明るさで、私たちを迎えてくれました。

「madoiでは、『野菜と穀物でつくる発酵ごはん』をテーマに料理教室を開いています。チーズなども使うので、ベジタリアン料理にこだわっているわけではありません。でも、私自身が野菜を好きなことや、野菜と穀物だけであっても、発酵の力があればこれだけおいしくなることを伝えたいという気持ちがあり、このように掲げています」

辻村さんの言葉通り、原材料に使われるのは野菜や穀物。そして、甘酒、酒粕、塩糀、醤油糀、味噌といった糀による発酵調味料です。
「私は、発酵食品は出汁の役割を果たすと思っています。顆粒だしやコンソメなどを使わなくても、日本人がおいしいと感じる旨味がしっかりと入っているんです。中でも味噌は本当によく使います。自分で手づくりした味噌を用いた料理はとてもおいしいし、これだけ毎日使っても飽きることがないことに驚きますね」

madoiでは、日本の発酵調味料を使ったメニューをつくりますが、食のカテゴリーは多彩です。和食洋食に関わらず、さまざまなメニューが並びます。たとえば、この日のメニューは、「酒粕リゾットのベジグラタン」「おからこんにゃくと人参のフライ」「酒粕タルタルソース」「酒粕ガトーショコラ」などの4品。

「『酒粕リゾットのベジグラタン』の場合、リゾットには味噌を、豆乳でつくるベシャメルソースには酒粕と味噌を入れて旨味を引き出しています。また、『おからこんにゃくと人参のフライ』の衣の生地にも酒粕を用いました。そうすることで、香りがよく、チーズのような風味や旨味があって、冷めてもおいしいフライになります。『タルタルソース』も『ガトーショコラ』も酒粕を加えているため、おいしいですし、栄養も豊富です」

教室では、座学による講義の時間も設けていると辻村さん。

「料理をつくるだけでなく、なぜおいしいのか、どういう栄養素があるのか、知ったうえでつくってほしいという思いがあるんです。講義の時間をしっかりと設けているのは、私の教室の特徴かもしれません」

もうひとつ、madoiの教室でつくるお料理の特徴は、その美しさです。

「必ず野菜に彩りがあるよう材料やレシピを工夫しています。また、盛り付けの手順もとても大切なポイント。いくらおいしい料理をつくっても、家でつくったときに盛り付けがうまくいかず、おいしそうに見えなくてはとても残念な気持ちになると思うのです。ですから、家に帰って家族にもおいしそうと喜んでもらうために、盛り付けの手順やコツも学んでいただいています。またSNSの時代ですから、どの角度から写真を撮るときれいかなんてこともお伝えしているんですよ」

カフェの立ち上げ、
メニュー開発で学んだ
居心地のいい空間や目に美しい料理

料理のおいしさと、発酵食への知識、そしてセンスの良さで、人気の教室を主宰する辻村さんですが、そもそもなぜ発酵食に関心を持ったのでしょうか? そのことについて伺うと、辻村さんがmadoi以前の活動について教えてくださいました。

「私が、食に関心を持ったのは大学時代のことです。当時は小学校の先生になりたいと関西の大学に通っていたのですが、その頃の彼(現在の旦那様)が腸の病気になってしまい、食事制限を余儀なくされてしまいました」

もともと料理が好きだった辻村さんは、食事制限があるなかでも、彼においしいものを食べてほしいといろいろと調べました。そんな時に出会ったのがマクロビオティックだったそうです。

「当時、マクロビオティックは世の中にあまり知られておらず、静岡にはマクロビオティックの飲食店はまだ一軒もないという時代。京都や大阪にあるお店に通い、彼のために玄米菜食について調べるうちに、その奥深さにすっかりハマってしまったのです」

大学に行きながら、通信教育でマクロビオティックの資格を取得した辻村さん。卒業後、静岡に戻った後も食への興味は尽きることがなく、アパレル企業の飲食部門に就職を決めます。

「ちょうどその会社が飲食店を立ち上げたいということだったので、面接の際に、玄米菜食への熱い思いを社長にぶつけたんです。ところが、社長はお肉が大好き!という人で、私の提案にはあまり惹かれていないようでした(笑)。でも、熱意は買ってくれたようですし、時間をかけてわかってもらえたらいいと思い、働き始めました」

この会社で、オーガニックカフェなど飲食店を何軒も立ち上げ、メニュー開発に携わったという辻村さん。自ずと食への関心をさらに深めていくことになりました。また、女性たちが来たくなる場所づくりやメニューづくり、よりおいしそうに、美しく見せるにはどうしたらいいかといったことも、学ぶことができたと言います。

「玄米ライスを使ったサラダボールなど、メニューには私なりの提案をたくさん加えました。アパレルの会社ということもあり、上司は美しく、おしゃれに見えるかどうかにとてもこだわりがあったので、そうした点も磨かれたと思います。また、店舗づくりに携わったことで、印象的なエントランスや、心地よく感じるテーブルの配置、使い勝手のいいキッチンなど、この時に学んだことが今、とても活かされています」

madoi誕生のきっかけは
妊娠を機に飲み始めた甘酒から

そんな辻村さんに転機が訪れたのは、働いて15年ほど経ったころのことでした。

「父が亡くなったんです。私は仕事に一生懸命で、最期に立ち会うことができませんでした。その時、『一度リセットしたい』という思いにかられ、会社を退職することに決めました。そして、ずっとお付き合いをしていた彼と結婚をし、子どもを授かりました」

しかし、この時、辻村さんは初めての経験をします。つわりが酷く、食べることができなくなってしまったのです。

「私にとって食べることは生きがい。なのに、何も食べ物を受け付けなくなってしまったんです。つわりって何だろう?食べるって何?と、とても悩みました。そして、食べたくなくても、お腹の子どもには栄養を与えたい。どうしたらいいだろうかと、考えて考えて思いついたのが、『甘酒』だったんです」

“飲む点滴”とも言われ、マクロビオティックでも使うことがある甘酒なら、効率よく栄養をとることができるはず。辻村さんはそんな風に考えましたが、実は甘酒の味はあまり得意ではなかったと言います。

「それまで好んで口にしなかった甘酒ですが、このときはどうしても飲みたかった。だから、どうしたらおいしく飲めるだろうといろいろと工夫をしました。豆乳と合わせたり、フルーツとミックスしたり。いろんなことを試しました。諦めなかったのは、15年間メニュー開発をしてきましたから、必ずおいしくできるはずだという自信があったのだと思います」

そうするうちに、徐々に甘酒にしか出せないおいしさに気づき、好きになるように。だんだんと煮物など料理にも活用していくようになりました。同時に、甘酒を通して、これまで全く知らなかった発酵や糀への関心も高まっていったそうです。
その後、お子さんも無事に生まれ、新しい日々が始まりました。

「子育ては忙しく、どんどん時間がすぎるのですが、それまで毎日人と会って、バリバリ働いてきた自分にとって、一日中娘とだけしか関わらないことも多い日常が、だんだんと辛くなってきて…。娘がなかなか寝ない子で、睡眠時間が極端に短くなっていたなど、思い返すと心身ともに疲れていたのだろうと思います。何かしたい、自分のための時間を持たなければ……という思いに駆られたのです。とはいえ、もうカフェがやりたいわけではない。では、なんだろう?と考えた時に、たまたま新聞広告で目についたのが、発酵スペシャリストの通信講座でした」

飛びつくように受講を始めた辻村さん。講座がおもしろくて、おもしろくて仕方がなかったそうです。

「1日2時間ほどしか寝ておらず、頭が回っていないはずなのに、勉強を始めるとシャキンと集中できる。一日の少しだけでも、育児とは違う時間を求めていたのだと思います」

そうして、発酵について学ぶとともに、教師になりたかった自分の夢を思い出し、教室をしようと思い立ちます。

「ちょうど今から8年前のことですから、塩糀などがブームになり始めるころのことです。世の中の発酵食への関心は、今ほど高くはありませんでしたが、『発酵ごはん』と名付け、近所のカフェを間借りして、週に一回の教室を開いたんです。最初は塩糀の作り方、それから醤油糀や、甘酒、味噌づくりなどもメニューに加えていきました」

教室には、これまでの知識や技術をすべて盛り込みました。教える喜び、発酵の知識、おいしいメニューの開発、美しくておしゃれなビジュアル。辻村さんの人生で積み重ねてきたことを余すことなく活かしました。すると評判はあっという間に広がり、スタートして程なく他府県からもたくさんの人が集まる教室になっていったのです。

「とても運が良かったと思っています。仕事を始めたのも、辞めたのも、発酵食に関心を持ったことも、すべて家族がきっかけでした。家族には本当に感謝しています」

教室のメニューは月ごとに変わり、8年間、同じメニューをお教えしたことは一度もないと、辻村さん。

「ちょっと意地もありますけど(笑)、毎月通ってくださる方も多いですから、そうした皆さんの期待に応えたいという気持ちから、毎回新しいメニューをひねり出します。ですから、私自身もアウトプットするばかりでなく、インプットをしながら、新鮮な気持ちで皆さんにお教えできたらと思っています」

カフェで週1回から始めた教室は、一軒家を改装したスペースを経て、1年前に現在の場所に移りました。

「建てる時、デザイナーさんにお伝えしたのは『菌の育つ家』にしたいということでした。酒蔵をイメージして三角屋根に。建材にケミカルなものは使わなくていいよう、壁にクロスははらず、木が呼吸できるようにしてもらいました。今後は、ここを100年続く場所にするのが夢です。家と一緒に、私も無理をすることなく発酵するように育ち、80歳のばぁちゃんになっても、ここで発酵食をつくって皆さんに伝えていたいですね」

辻村円さん

発酵スペシャリスト・糀料理教室「madoi」主宰

辻村円さん

発酵スペシャリスト・糀料理教室「madoi」主宰

辻村円さん

静岡市内で、数件のオーガニックカフェ&ベーカリー&アパレル店舗の立ち上げやメニュー開発の仕事に15年以上従事し、独立。出産を機に発酵食を学び始め、発酵食スペシャリストの資格を取得。食のアトリエ「madoi」を開講、発酵食を作り・食べて・学べる「発酵ごはんの料理教室」や勉強会、ワークショップを行う。ケータリングやフードスタイリングなども。著書に『旬野菜の発酵ごはん』『新しい発酵ごはん』がある。
https://www.madoi-kamoshiya.com/

「発酵に恋して。」の他の記事を読む

To Top

このサイトについて

https://www.marukome.co.jp/marukome_omiso/hakkoubishoku/
お気に入りに登録しました