手仕事カレンダー
Vol.22 寺本りえ子さんの夏野菜×米ぬか×発酵で、
熱中症にも負けない体づくり。夏こそぬか漬け!
2026/06/25
手仕事カレンダー
2026/06/25
人気料理家のみなさんに、季節の食材と発酵食品を使った、とっておきの作りおきや保存食のレシピを伺う「手仕事カレンダー」企画。
今回は、ぬか漬けの著書ももつ、フードディレクター・料理研究家・発酵食愛好家の寺本りえ子(てらもとりえこ)さんに、初心者でも失敗しにくいぬか床の作り方と漬け方、日々のお手入れについて教えてもらいます。
定番のきゅうりに加え、夏野菜のオクラやとうもろこし、卵など、変わり種の漬け方もご紹介。発酵が進みやすい一方で、取り扱いに気を使う時期でもある、高温の夏のぬか床の疑問にもていねいにお答えします。
「夏に向けてぬか漬けを始める方、多いですよ。夏限定で漬ける、という方もいます」
夏野菜をよりおいしく食べられる方法としてはもちろん、夏の熱中症予防の食品としても、注目を集めているぬか漬け。
「ぬか床に含まれる熱中症予防に必要なビタミンB1や塩分は、漬けた食材が吸収します。野菜本来のビタミンやミネラルも合わせてとることができ、汗をかく季節にぴったりです。
また、植物性乳酸菌による整腸作用も期待できます。さらに、漬けることで野菜の水分が抜けて体積が減り、食べる量に対して食物繊維の含有量が上がります。生野菜よりも効率的に食物繊維をとることもでき、腸内環境にうれしいですね」
ぬか漬けのすこやかな力のすばらしさは、身をもって経験しているという寺本さん。
「私がぬか漬けを始めたのは、2013年に立ち上げた、地元・宮崎の野菜を応援するブランド。昔ながらの発酵食品を販売し始めたことがきっかけです。
当時はまだ、今のような発酵ブームの前でした。私の実家ではぬか漬けをはじめ、さまざまな漬け物を手づくりしていて、私自身も好きでしたし、発酵食品に興味があって。
そのころの私はとにかく体が弱いのが悩みでしたが、ぬか漬けを毎日取り入れてからは体調がよくなって、ここ10年ほどは大きな病気はしていないくらい。体が欲するような、ホッとする味わいも魅力です」

一度チャレンジしたけれど失敗したという声もよく聞く、ぬか漬け。じょうずに続けられるコツを聞くと、「発酵して生きているものだということを忘れずに、ぬか床を愛してあげてほしい」という答えが返ってきました。
「発酵したぬか床は、乳酸菌だけでなく、酪酸菌を含みます。酪酸菌は乳酸菌が増えるのを助け、腸内環境を整え、免疫細胞を増やす働きがあることがわかっていますが、食品ではぬか漬けぐらいにしかいないと聞きますね。ぬか床表面から底のほうに向かって、酵母がいちばん上、乳酸菌は中央、酪酸菌が下と、空気を好む度合いで層に分かれているとか。1日に1回はぬか床の天地を入れ替えるようにしっかりと混ぜて、菌の配置換えをしてあげてほしいのです。
ぬか床に旨みを足すために、干ししいたけや昆布などの食品を加えますが、人によってさまざまな食品を加える例も。ただし、ぬか床にダメージを与えるような食品は避けて。たとえば『レモンを搾った』という人がいましたが、レモンの酸は発酵を止めてしまいます。熟したトマトのように、途中で破裂しそうな水分が多いものも避けましょう」
ぬか床がきちんと発酵しているか、いい状態を保てているかを判断するために、とにかくぬか床の味見をすること。そして、おいしい状態のときのぬか床の味を覚えておき、塩分加減や酸味をチェックすることが大事だと教えてくれました。
「米ぬかですから、もちろん直に食べていいんです。いいぬか床は、そのものが程よい塩味や旨み、酸味があっておいしいですよ。そしてうまくいかなかったら、またやり直せばいい。そのくらいのおおらかさで、つきあってみてほしいです」

寺本さんのぬか床。食べると、塩けと旨み、酸味のバランスが抜群で、香りもよく、ずっと食べていたくなるような
味わい。漬けたきゅうりは酸味、そして旨みをしっかりと感じられた。

寺本さんは、加熱されていない生ぬかを使用。「発酵が進みやすく、炒りぬかで作るのとは
ひと味違うおいしさに。もちろん、手に入らなければ炒りぬかでも問題ありません」

ぬか床の容器も重要。「乳酸菌や酪酸菌は、ぬか床の表面よりも底のほうを好むので、高さ15㎝くらいの適度な深さがあったほうがよいでしょう。底が丸いとぬか床をかき混ぜやすいですよ」。写真は、寺本さんがプロデュースした明山窯の「ぬか壺」。
1.ボウルにぬかを入れ、塩水2/3量を注ぐ。清潔にした手でよく混ぜながら、残りの塩水を50mLほど残して加え、粉っぽさがなくなるまで全体をよく混ぜ合わせる。


塩水は全量注がずに、少しずつ加えて調整するために残しておく(右)。
2.手でぬかを握り、指と指の間からにじむ程度の水分量になるよう、残りの塩水を少しずつ加えて調整する。

ぬか床をつかんで指と指の間から水分が流れ出ず、うっすらと水分が見える状態。これが水分量の目安。
3.昆布、赤唐辛子、干ししいたけを加え、全体を軽く混ぜ合わせる。


昆布や干ししいたけは、ぬか床に旨みを足すために加える。赤唐辛子は防虫や防腐、カビ防止のため。
1.ぬか漬け用の容器にぬか床を少し敷き詰め、その上に野菜のくずをのせ、野菜が見えなくなるまでぬか床をかぶせる。


野菜のくずは、キャベツの葉や芯、にんじん・きゅうりのへたや皮など。
「キャベツは乳酸菌の宝庫なのでおすすめです」
2.①を数回繰り返し、最後はぬか床で表面を覆って平らに整え、1日半〜2日漬ける。


ぬか床の空気をしっかりと抜きながらきれいにならし(左)、平らな状態に(右)。
3.1日半〜2日経ったら、野菜のくずを取り出し、新しい野菜のくずで①と②を行い、1日半以内に取り出す。その後1週間は毎日①と②を繰り返す。ぬか床がふんわりとして、香りや、少し味見をして酸味が出ていたら完成。

新しい野菜のくずを捨て漬けする前に、古い野菜のくずは必ず取り除く。その際、もったいないので、
野菜についたぬかはこそげ取って。

作りたてのぬか床(左)と、発酵した状態のぬか床(右)。発酵すると、色がやや濃くなり、ふんわりとしてくる。

漬ける野菜の太さは、きゅうり1本分を目安にします。野菜がくっつかないように離して漬け、表面から出ないようにしっかりとぬか床で覆い、12時間を目安に漬けます。


漬けた野菜を取り出すときは、野菜についたぬかを指でこそげ落とし(左)、風味や栄養分を減らさないため、ボウルに用意した水で1〜2秒ほどさっと水洗いをして(右)、すぐに水けを拭き取る。

毎日必ず1回、ぬか床の天地を入れ替えるように、底からしっかりと混ぜ、表面を平らにならしましょう。
ときどき、ぬか床を少し味見して、塩味や酸味の具合を確認します。水分が多くなってきたら、米ぬかと塩を加えて調整する「足しぬか」をします。特に塩分が足りない場合は、米ぬか100gに対して、小さじ1の塩を目安に調整を。米足しぬかをしたら、量によって常温で1〜3日ほどおき、発酵させます。
①冷蔵庫保存が基本
室温が高くなる夏場は冷蔵庫、できれば野菜室で保存しましょう。庫内は温度が低いので発酵がゆっくり進みます。通常12時間の漬け時間を、冷蔵庫保存の場合は24時間に長くしましょう。
②ぬか床のかき混ぜは清潔にした手、または手袋で
夏場に限りませんが、雑菌が増えやすい夏場は素手ならきれいに洗い、特に清潔を心がけましょう。ポリ手袋を使用して行っても。
③ぬか床の表面が白っぽくなったら対策を
ぬか床の表面にできる白い部分は「産膜酵母(さんまくこうぼ)」です。カビではありません。室温の高い夏場は発生しやすい時期です。少量であれば混ぜ込んでも問題ありませんが、膜のように生えてしまった場合は風味を損ねるので、表面だけ取り除きましょう。赤や青、黒で点々とできるものはカビなので、ぬか床ごと作り替えましょう。
④留守にする場合は、ぬか床表面にラップを
3日〜1週間の不在なら、漬けた食材をすべて抜き、冷蔵庫保管を。ぬか床が空気にふれないように、表面にぴったりとラップをします。それ以上の不在なら、ぬか床をジッパーつき冷凍用保存袋にいったん移し、冷凍室で保管します。解凍したら、足しぬかをして水分を調整して。

「ぬか漬けにするのは、季節の野菜を楽しむためでもある」という寺本さん。定番以外にもさまざまな野菜をおいしく漬けることができます。今回は、おなじみの夏野菜に加え、寺本さんおすすめの卵、干ししいたけの漬け方を教えてもらいました。
「みょうが、オクラ、干ししいたけはそのまま漬けられます。ミニトマトは表面に楊枝などで6〜8カ所の穴をあけてから、とうもろこしは5㎝長さに切って5〜8分蒸すかゆで、粗熱をとって水けを拭いてから、卵は沸騰した湯で10分ほど固ゆでし、殻をむいて冷ましてから、ぬか床に漬けます」

目にも元気なカラフルさ。時計回りに、卵、ミニトマト、とうもろこし、干ししいたけ、みょうが、きゅうり、オクラ。
「食べやすく切ってそうめんの具にしても、おいしいですよ」
季節の野菜のおいしさを存分に味わえる、ぬか漬け。今年の夏は“マイぬか床”で漬けた栄養たっぷりのぬか漬けを食べて、元気に過ごしましょう。
フードディレクター・料理研究家・発酵食愛好家
フードディレクター・料理研究家・発酵食愛好家
音楽活動を経て食の道へ。現在は発酵食や季節の手仕事、スパイス料理などのワークショップの開催、出張料理をはじめ、飲食店のアドバイザー、商品開発や食育にも精力的に取り組む。2021年4月より、フリースクール「GIFT School」で食育を担当し、子どもたちとのランチ作りなどの活動をしている。著書に『ぬか漬けとアレンジ発酵料理』(KADOKAWA)などがある。