コーヒーと発酵

忘れられない一杯が、人生を変える
沖縄のコーヒー店が届ける、ゆっくり味わう時間

2026/09/24

忘れられない一杯が、人生を変える沖縄のコーヒー店が届ける、ゆっくり味わう時間
忘れられない一杯が、人生を変える沖縄のコーヒー店が届ける、ゆっくり味わう時間

沖縄の静かな街並みの中に佇む「バッシラインコーヒー」。目を引くのは、深みのあるブルーの外壁と、どこか懐かしい洋館のような雰囲気を持つ店内。扉を開けると、そこには香ばしいコーヒーの香りとともに、ゆったりとした時間が流れている。この場所をつくったのは、会社員からバリスタへ転身した店主の喜久山宣之(きくやまのぶゆき)さん。きっかけは、一杯のスペシャルティコーヒーとの出会いでした。

「昔はコーヒーって、苦くて濃いものというイメージしかありませんでした。でも、ある時飲んだコーヒーが、まるでピーチティーのように華やかで。『これがコーヒーなのか』と衝撃を受けたんです」

その一杯との出会いが、宣之さんの人生の方向を大きく変えていきました。実は店づくりで最初に決まったものは、コーヒーではなく「色」。「ブルーの壁が、この店の原点」という店内はシックで印象的です。

建物は、かつて米軍関係者が暮らしていた60年代の住宅を思わせる雰囲気。そこに宣之さんが好きだった英国のクラシカルな空気感を重ね、落ち着いて過ごせる空間をつくり上げています。何度も試作を重ねて選んだブルーは、光の当たり方によって表情を変える落ち着いた色合い。昼間でもどこか陰影を感じられ、訪れる人の心を静かに整えてくれます。

コーヒーを片手に会話を楽しむ。窓の外の景色を眺める。何気ない時間を味わう。バッシラインコーヒーは、そんな「余白」を大切にしています。

そして店名の「バッシライン」は、奥さまのゆかりさんの故郷、宮古島の方言で「忘れられない」という意味だといいます。

「ここに来たことで、人生の中で忘れられない出来事や出会いが生まれたらいいなと思って名づけました。実際に、この店にはさまざまな人が訪れます。昔この場所に住んでいたという年配の女性が、米軍住宅時代の思い出を語ってくれたり、若い世代が新しい挑戦のきっかけを見つけることもあるんです。コーヒーを飲みに来たことで人生の何かにつながったら嬉しいですね」

一杯のコーヒーを通して、人と人の物語が紡がれていく。会社員時代は、常にスピードや効率を求められる環境だったという宣之さん。

「何でも早く、経済のためにという考え方に、少し違和感がありました。今は、自分のペースでコーヒーを淹れ、人と向き合う毎日。会社員の頃より、今のほうが100倍楽しいです」

人生を変えた一杯のコーヒー。その感動を、今度は誰かの「忘れられない時間」として届けています。

独学で磨き続けた
豆と向き合う時間

店主が焙煎機を購入したのは、沖縄という土地柄も理由の一つでした。

「沖縄では機械のメンテナンスをお願いできる場所が限られていたので、自分で覚えたほうがいいと思いました。そこから高価な焙煎機を購入し、毎日豆と向き合う日々が始まったんです。しかし、最初から理想の味を作れたわけではありませんでした。最初に焼いた豆は、見た目はコーヒーなのに、中まで火が入っていなくて、薄くて酸っぱいだけの味。本当に飲めるものではありませんでした(笑)。」

そこから試行錯誤を重ね、納得できる味になるまで約1年半。

「やっと普通に提供できるようになりました。でも、そこからがはじまりでした。もっと追求したいと思い、目指したのは自分自身が「美味しい」と感じるコーヒー。産地や品種ごとの違いを学び、数えきれないほどの豆を試しました。まずは自分の好きな味を見つけること。それを軸にすると、どんどん応用ができるとわかってきました」

バッシラインコーヒーで扱うのは、スペシャルティコーヒーと呼ばれる高品質な豆。そこには、一般的な「苦いコーヒー」とは違う世界が広がっています。

「コロンビアなら華やかでフルーティー、ケニアなら力強さがある。同じコーヒーでも、産地によって全然違う表情があります。最近は近年注目されている発酵プロセスを取り入れた豆も扱うようになりました。また果物のような香りや味わいが生まれる豆もあります。ブラックベリーやチョコレートのようなニュアンスを感じるものもあるんです。発酵によって引き出される豆本来の可能性。コーヒーを飲んだことがない人にも新しい驚きを与えたいなと思います。コーヒーが苦手だった人が、『このコーヒーなら飲める』と言ってくれる瞬間が嬉しいです」

発酵もちょっぴり
こだわりのスイーツ

またこの店を訪れた人が口をそろえて感動する一品が、ニュージーランド発祥の伝統菓子「パブロバ」です。外側はサクッと軽やか、中はふんわりとしたメレンゲ。その上に生クリームや季節のフルーツ、ベリーソースを重ねた可憐なスイーツは、見た目の愛らしさだけでなく、一口食べた瞬間から広がる奥深い味わいが魅力です。パブロバをメニューに加えたきっかけは、店主のご主人がかつてイギリスを訪れた際に出会った、ある衝撃的な味でした。

ストロベリーとフルーツのパブロバケーキ880円 コーヒーセットは1350円

「旧車のミニクーパーが好きで、ツーリング仲間とよく出かけていたんです。その中で訪れたイギリスのカフェで、初めてパブロバを食べました。こんなに美味しいものがあるのかと驚きました。作り方を教えてほしいとお願いしたのですが、“自分で調べてみなさい”と言われて(笑)。絶対に自分のお店で出したいと思い、試行錯誤しながら再現しました。数年後、再びそのカフェを訪ねた時には、すでに店はなくなっていました」

しかし、その時に心に残った味は、時を越えて今の店の看板メニューとして息づいています。

この店のパブロバが特別なのは、伝統的なレシピを大切にしながら、沖縄ならではの素材や発酵のアイデアを取り入れていること。添えられるベリーソースには、赤ワインや発酵の力を活用しています。

「ベリーと砂糖だけではなく、少し赤ワインを加えたり、冷ましてから菌を入れたりしています。発酵によって、うまみ成分が生まれるんです」

発酵によって引き出されるのは、単なる酸味や甘みではありません。果実の味わいに奥行きが生まれ、まろやかで複雑な風味へと変化していきます。

「最初はベリーの味が強く出すぎて、日本人には少し刺激が強いかなと感じました。でも発酵を取り入れることで、酸味が丸くなって、より食べやすくなりました」

異国の伝統菓子に、沖縄らしい発酵の知恵を重ねることで、ここでしか味わえない一皿が完成しています。

米糀の甘みとコーヒーを
掛け合わせた、新しい味わい

さらにお店では、コーヒーだけでなく、発酵文化を取り入れたドリンクづくりにも挑戦しています。そのひとつが、米糀ミルクとコーヒーを組み合わせたオリジナルドリンクです。

米糀アイスラテ。ほろ苦い深入りブレンドのコーヒーにまろやかな米糀ミルクの甘みをプラス。

「たまたまスペシャルティコーヒーのイベントSCAJでKOJI BARISTA EDITIONのことを知りました。すごくおいしくて、この米糀ミルクを使ったラテをお店でも出したいと思いました。コーヒーと米糀ミルクのどちらも美味しく感じられるバランスを大切にしています。コーヒーの香り、コク、酸味、そして米糀の甘みが合わさった味わいが好きなんですよ。抹茶×米糀ミルクのほうは、合わせる抹茶にもこだわりがあります。抹茶の香りが強すぎると米糀の自然な甘みが隠れてしまうため、コーヒーや発酵の風味を引き立てるものを選んでいます。抹茶の味だけが前に出るのではなく、お茶の香り、米糀の甘み、コーヒーの風味。それぞれを楽しめるようにしています」

抹茶米糀ミルク。抹茶は米糀ミルクの風味を消さないようなさっぱりとした味わいを採用。

素材同士が主張しすぎず、心地よく調和する一杯。そこには、作り手の細やかな感性が感じられます。

暮らしを変える、小さな挑戦

ご主人の姿を見ながら、ゆかりさん自身も「いつか自分も好きなことを形にできたら」と感じるようになったそう。書の仕事を続けながら、依頼があれば作品づくりにも挑戦しています。

「始めたらきっと楽しくなってしまう気がしますが、今は片手間くらいでいいかなと思っています。いずれ、主人と一緒に和をテーマにしたカフェを出せたら。」

好きなことに向き合う人の姿は、周囲にも自然と影響を与えます。夫婦それぞれが自分の好きなことを大切にしながら、互いを応援する。そんな関係性が、この店の温かな空気をつくっているのかもしれません。一杯のコーヒーを味わう時間は、ただ喉を潤すだけではありません。そこに込められた想いや、作り手の人生、そして人とのつながりまで感じられる――。この店には、そんな豊かな時間が流れています。

BASSHILINE COFFEE(バッシラインコーヒー)

BASSHILINE COFFEE(バッシラインコーヒー)

住所:
〒904-2174 沖縄県沖縄市与儀2-17-15
TEL:
090-8954-4999
営業時間:
平日 10:00〜16:00頃 日曜 13:00〜17:00頃
 ※営業時間は変更になる場合があります。
定休日:
月曜・土曜

Instagram:https://www.instagram.com/basshilinecoffeeandlife/

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